第31話  『義妹ができちゃう!?』羨ましい……。

「どういうことかちゃんと話して」


 昨日と同じように、リビングでテーブルを挟んで家族会議が行われていた。


 そして妹の千花ちかの機嫌は最悪。

 二三本頭から角が生えていそうな形相で、俺を見て質問をしてくる。


 これはもう全て話した方が丸く収まるんじゃぁ……。


「実は綾間あやまさんと俺は……許嫁なんだ」

「へぇー」

「えっ?! それだけ?」


 もっと驚いて罵声を浴びせてくるのだと思っていたのに……。


 反応は少し驚きつつも平然とした顔に戻り『へぇー』である。


 俺の感じたエゲツない緊張感と勇気を返せ!


「てことは二人共好き同士じゃなくて、親が決めた関係ってことね」

「うん。だけど私は幸太こうたくんが大好きだよ!」

「えっ……。じゃあ、おにいは?」

「俺っ!?」


 綾間さんの謎のプライドと俺への愛が発動してしまい、また千花の顔が曇り始める。

 だが勇気を出して言ってくれた綾間さんを裏切るような事はしたくないので、半分だけ正直に答えることにした。


「俺も少しだけ好き。かな……」

「いや、好きなんじゃん」

「でもまだハッキリとはしてなくて……」

「お兄のそういうとこマジでウザい」


 実の妹にここまでボロクソに言われれば、俺も流石に落ち込むなぁ……。


 それと俺には妹の言う『そういうところ』がまだ理解できていない。


「てことは父さんは知ってんだ」

「あぁ、父さんが言い出したしな」


 千花はなんとなく状況を把握したような素振りを見せ、深く深呼吸をした。


「お兄には綾間さんを幸せにできる覚悟はあるの?」

「……うん」

「はぁ……。私はこの関係、絶対に認めない。でも邪魔もしない。だからお兄は絶対綾間さんを幸せにするんだよ!」


 千花の瞳を見るとその言葉は真剣なものだとわかる。


 なんでお前がそこまで……。


「千花ちゃん大好きぃーッ!!」

「えっ! なんですか!?」


 突然、綾間さんが千花に抱きついて頭をまわす。

 千花は完全に嫌がっている様子だ。


「私もいいお姉ちゃんになれるように頑張るからぁ!!」

「私は綾間さんのこと認めてませんからね!?」

「私のことは優香ゆうかって呼んでいいよぉー!!」

「離してくださいってば!!」

「可愛い!!」


 全然話の噛み合わない二人だけど、俺はいい姉妹になれるような気がした。


「お兄、後で切腹だから!!」

「なんで俺が腹切るのぉ!!?」






           ◆






「千花ちゃん可愛かったなぁー」

「そうかな……。俺にはわからないんだよなぁ」

「可愛いよ! 次はいつ遊びに来てくれるのかなぁー」

「え、マジで」


 絶対に認めないって言われ普通は落ち込みそうだけど、綾間さんはすっかり千花のことを気に入っている様子。


 それにちゃっかり千花は綾間さんのことを優香と呼んでもいいと許可を貰っていた。


 俺はまだ下の名前で呼んだことないのに……。


 だから千花が帰ってからもずっとこの調子で千花の話をしている。


「妹かぁー。ほしかったんだぁー」

「綾間さんには姉妹きょうだいとかいるの?」

「ううん、いないよ。一人っ子だから幸太くんが羨ましい」

「妹がいてもいいものじゃないけどなぁー」


 俺は今まで、妹がいて損の方が多いと思う。


 食後のデザートが出てくれば半分こで、お小遣いも少ない。

 それに妹がいれば俺よりも可愛がられて、特ばかり。


 ずっと貧乏だった俺の家庭はそれが当たり前だったけど。


「いいや。兄妹きょうだいがいる人は皆、幸太くんと同じこと言ってる」

「うん。だって兄妹がいれば損も多いし、喧嘩だってするから」

「でも……。私はそれが羨ましかった。兄妹喧嘩なんてしたことないし、遊んだこともない」


 確かに今思えば千花がいなかったら、俺の人生はつまらないままここまできていたかもしれない。


 父さんが会社の残業で帰るのが遅い時も、部屋で寝る時も、いつも千花が近くにいた。


 綾間さんはそんな時いつも一人だったのだろうか。


 いつも女友達に囲まれ、人気でリアル充実しているように見えていた彼女。

 でも俺は表面的でしか彼女のことを知らなかった。


 だとしたら俺は案外恵まれているのかもしれない。


「でも今は幸太くんがいる。それに新たに妹もできそう。だから楽しみが多くていい意味で忙しい」

「俺も忙しいよ」


 楽しそうに笑う彼女につられて俺も笑う。


 いつか俺にもこんな風に感じられる日は来るのだろうか。


 俺も、明るくて笑顔の君が羨ましい。


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