第30話  性癖と放課後の波乱

 妹の千花が家に泊まった翌日。

 朝早くから千花は家を出て行った。


 千花が居なくなると一気に身体の力が抜けていくような気がした。


 そして今は教室で親友の陽太ようたと二人で何故か、ふくらはぎの話をしている。

 勘違いされるのも困るので言っておくが、陽太が一方的に一人で話しているだけである。


「いやなぁー、ふくらはぎはいいぞ幸太!」

「ちょっと近づかないでくれるか? 変態が伝染うつる」

「ははぁーん。またツンデレやってんなこの野郎ぉ〜」

「お前、さては宇宙人だろ」


 陽太はいつものように朝から暴走中。

 陽太は俺より顔も良くて足も速い、一見モテそうなポテンシャルを持っているはずなのに、行動が変人過ぎて女子からは少し避けられている。


 上手く利用すれば陽太だって絶対モテるはずなのに……。


 好感度だけリセットして変わってやりたい程だ。


「いやなぁ、最近アイドルのふくらはぎばっか見ててよぉー。触ってみたいなって」

「お前の発言には事件性を感じるんだが」

「お前だって少なからずは思ったことあるだろ、触りたいって」

「陽太、警察呼んでいいか? ここにこれから痴漢しそうな奴がいるから」


 俺はもしもこいつがテレビのニュース速報に映ってても他人のフリをしようと思う。


 画面が真っ暗のスマホをポケットにしまって、綾間あやまさんがいる方を見る。


 彼女の周りにはいつも友達がいて、俺達とはまるで空間が違うようだ。

 友達が多いというのは少し羨ましい。


 すると俺が見ていることに気づいたのか、机の下から小さく手を振ってきた。

 なので俺も見られないように小さく手を振る。


「おい、幸太こうた何処見てんだ? あぁ、綾間さんね。お前、大好きだもんなー」

「そ、そんなんじゃない!」

「まぁ、安心しろ。お前みたいな童貞陰キャがあんな美少女と付き合えるわけないんだよ」

「そんなのわかってっ……」


 俺と綾間さんは、親に決められた関係から始まりなんとなく婚約者になった。

 だからどちらから告白しただとかそういうものは一切なかった。


 でも俺は、綾間さんが好きだ。

 恋愛対象なのかと言われたらハッキリそうだとは答えられないのだけど、許嫁として、友達としては好きだ。


 俺は二度も失恋をしているし、前までは女子ともまともに話せないのに強がって『俺は二次元しか愛さない』とか言っていたバカだった。


 でも今は綾間さんや穂花ほのか先輩とも話すようになって少しずつ成長してきているような気がする。


 だから俺も綾間さんの何かしらのきっかけになりたいと思う。


「まぁ、幸太に一つ女子ウケする要素があるとするなら、優しいところだろうな」

「そんなこともないだろ……」


 その言葉を聞いて少しだけど嬉しく思った。

 これが俺が陽太と親友を続けている理由のような気がしたから。







           ◆






「はぁー。疲れたぁー」

「綾間さん、それ毎日言ってるよね」

「だって疲れるんだもん!」


 平日に楽しみがあるとするならば、放課後に綾間さんとくだらない話をしながら帰ることだろう。


 毎日、綾間さんとその日にあった出来事を共有して笑い合う。


 前までは男女で下校するリア充を見ると、あんなの見せつけたいだけだろと思っていたのだけど、今はその理合いがわかる気がする。


「それにしてもさぁー。なんで今日手振ったのにちゃんと振返してくれなかったのさぁー」

「え、俺振替したよ」

「あんな小さくじゃダメなのぉ」


 数十人もいる教室で、クラスで一番可愛い女子に俺が手を振ったら絶対にバレるだろ……。


「ということで! 幸太くんには今日私とイチャイチャしてもらいます!」

「意味がわからない……」


 それは俺にとってペナルティーではなく、ただのご褒美。

 アイドルとイチャイチャできる輩が俺の他で、この世に何人いるのだろうか。


「それじゃあまず、手を繋ぎます」

「えっ!? 始めからハードル高すぎない?」

「いやいや、まだレベル一だから」

「そのレベルっていくつまであるの?……」

「レベル十まで」

「俺、多分その時には死ぬよ?」

「死ぬまでやるのぉー!」

「鬼かぁ!!?」


 もしかしたらご褒美だと思っていたペナルティーも実はペナルティーではなく地獄のシミュレーションなのかもしれない。


 多分俺、この調子だとレベル四で死ぬよ?


 そして綾間さんのペナルティーが少し気になりながらも二人我が家へ帰ってきた。


 鍵を挿してドアを引こうとすると開かない。


「どうしたの?」

「いや、鍵が掛かってなかったみたい」

「え? 私、今日の朝ちゃんと掛けてきたけど……」


 綾間さんの言葉に緊張しながらも、恐る恐るドアを開け中へ入ると、玄関には明かりが灯っていて、ホールには今日の朝帰ったはずの妹の千花が立っていた。

 そしてなぜかエプロンを着ている。


「なんで千花がいるんだよ」

「いや、なんで綾間さんが家に帰ってきてるの!」

「「そ、それは……」」











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