第25話  初めての委員会での仕事

「はぁ……。疲れたぁー」

「そんなに?」

「うん。人が多いところで緊張感がある空気、苦手だから」


 委員会が終わった後の帰り道。

 二人の帰る時間もちょうど重なったので一緒に帰ることにしたのだけど体がとてもダルい。

 ほんと綾間あやまさんがいなかったらもっと体調悪くしてたかもしれない。

 それにほとんど仕事はなかったし、意見や提案とか一つも言わないまま終わってしまったのでこれで良かったのかどうか……。


幸太こうたくんはカウンター担当いつだったっけ?」

「水曜日になった」


 一週間に一回カウンターで貸出業務があるのだけど、この後期図書委員は穂花先輩と同じ担当の曜日になった。


 仕事を教えてもらうことに関しては凄く心強い先輩なのだけど……。


「それで綾間さんは何曜日になったの?」

「私は木曜日。幸太くんの次の日だよ」

「いいなぁー。水曜日は観たいアニメがあるからさぁー。木曜日がよかった」

「ん? あの幸太くんが好きなアニメって深夜じゃなかったっけ?」

「そうだけど委員会があると疲れて、いつの間にか寝てしまうってこととか、アニメに集中できないこととかありそうだから」

「じゃあ録画すれば……」

「いや、アニメは絶対リアルタイムでしょ!」


 昔からアニメと土曜ロードショーは絶対にリアルタイムで観ると決めている。

 これだけは、大事な用事があるでもしない限り変えるつもりはない。


 もしかしたら翌日に陽太とそのアニメの話をするかもしれないし、話についていけないとアニオタという俺の肩書も偽りとなってしまうから。


 だから俺はなんとしてもリアルタイムで観なければならないのだ。


「……」

「引いちゃったかな」


 引かれるのには馴れている。

 今までだって休み時間にラブコメ系の漫画をスマホで読んでいたら、後ろからそれに気づいた女子たちが俺のことを軽蔑けいべつした眼差しで見ていたことだってあった。直接、そういうのやめた方がいいよと個人の趣味を否定してくる女子だっていた。


 そんなことも最初は落ち込んでいたけど最近では全然なんとも思わなくなったし、メンタルも少し強くなったので正直彼女たちには感謝している。


 だから綾間さんに引かれたって……。ん? 


 そう思っていたのになんだか寂しく思えてきた。


 そうか、彼女は俺の唯一の理解者だったから。


「いいや。全然引いてないよ」


 その時の綾間さんの表情からは一ミリも軽蔑を感じなかったし、むしろ優しさを感じるほどだった。


「私だってアニメは大好きだし、フィギュアだって集めてる。幸太くんと同じだよ。それに他にも理解してくれる人は沢山いるだろうし」


「そうだよね」


 やっぱり俺の考え過ぎだった。

 でもさっきの沈黙はなんだったんだろう……。






           ◆






 水曜日の放課後。


 その日は昼休みにもカウンターの仕事をして放課後も図書室に来ていた。

 勿論、水曜日は俺のカウンター担当だからだ。

 そして隣の椅子には、ばちこりと穂花ほのか先輩が座っている。


「幸太くん、暇だねー」

「そうですね。あ、暇なら本の整理に行ったらどうですか?」

「それは私から離れたいから?」

「いや、今すぐ先輩がつかんでいる俺の腕を離して欲しいからです」


 早速俺にちょっかいを出してくる穂花先輩。


 無理やりその手を剥がすこともできないので本も読めない。


「そういえば、この間幸太くんが読んでたラノベ読んだよぉー」

「はぁ……。それでどうでしたか? 先輩にはちょっと……」

「いや? とっても面白かったよ」

「え?!」


 今のは俺の幻聴なのだろうか……。


 今までライトノベルを知らなかった清純系女子の穂花先輩が、若男子向けに書かれたイチャラブちょいエロラブコメディーを読んで面白いと感じただと……。


「特に彼女と元カノの修羅場シーンが面白かった。主人公が困ってオドオドする所最高だったね」


 ちゃんと読んでくれている。

 そのシーンは確か十巻の途中にある話だというのに。


 まさか十巻まで借りて読んだというのか!?


「俺、初めて先輩のこと尊敬しました」

「初めては余計じゃないかな」

「それで何巻まで読んだんですか?」

「えっと十七巻まで読んだよ。次が楽しみー」

「え、先輩このラノベ学校図書には十四巻までしかないですよ?」


 先輩、実は読んだフリしてるんじゃ……。


「だから買って読んだ」

「はへ!?」


 俺が素っ頓狂な声をあげる間に穂花先輩は、可愛いキーホルダーの付いた学校指定のバックから少しエッチな表紙の見覚えのある本を出した。


「マジですか……」

「マジです」


 単純に俺が読んでいた、それだけなのに。

 買ってまで読むとは……。


「とっても面白かったし、幸太くんがどんな小説読んでるのか知れたから良かったよ。幸太くんはエッチでロリ好きで……」

「俺を分析してイジメるのはやめてください」


 やっぱり先輩は苦手だ。

 いつか人体実験でもさせられそうな予感がするので怖い。


 そんな感じで初めての面倒くさい図書員の仕事を、先輩に怯えながらもこなしていると親友の陽太が駆け足で図書室に入ってきた。


 まだ部活に行っていなかったのか、制服姿のままだ。


「おい!幸太。なんでこんなに大事なこと黙ってたんだよ!」

「は? いきなりなんだよ」

「お前が結婚してたって話だよ!」

「「えぇぇえ!!?」」
















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