第24話  放課後の委員会

『今日は新しく委員会役員を決める』


 先生の一言でクラスがざわつき始め、ネガティブな発言が飛び交う。


 委員会。それは授業で生徒職員が疲れ切ったあとの放課後にある生徒会議である。


 半年に一度、各委員会で二人ずつ役員が選出され会議に出席する。

 でも放課後まで残って作業するのは嫌だという人や係が面倒で入りたくないと言う人が大半だ。

 だから俺も絶対に入りたくないし、入ったとしても全然役に立てないだろうから入らない。


「おい、真島まじま。お前部活にも入ってないし、ここで一度やってみないか?」

「え、それは……」


 痛い所を突いてくる担任の加山先生。


 ていうか放課後残りたくないから部活にも所属してないのに、委員会があるのなら全く意味がない。

 週に一度の会議でもコミュ障の俺は発言力もないし緊張するし、デメリットしかないのである。


 なんとしても他の生徒にやってもらうべく、策がないか脳内を活性化させる。


「先生、陽太ようたなら体力もあるしコミュ力も俺よりはあると思うんですけど」

「でも山崎やまさき(陽太)は部活をしてるしなぁ。それに委員枠は沢山あるんだ」

「そうですか……」


 そしてどの委員会に入るのか余った男子たちの論争が始まり、ラクな枠もだんだんなくなっていく。


 そして最後に残ったのが……。


「図書委員会かぁ……」


 女子枠の方は綾間あやまさんで安心したのだけど、昼休みは図書室に行ってカウンターの仕事をしなければいけないし。前図書委員には、俺の苦手な天海穂花あまみほのか先輩がいた。


 二回連続で入るというのも考えられるのでは……。


 そんなことを考えて落ち込み気味なる俺に、後ろから話しかけてくるお馬鹿な輩。


「ええのぉ、また綾間さんかよ。お前、綾間さんのストーカーでもしてんの?」

「そんなわけないだろ」

「はぁ、そうかいそうかい」


 隣から顔がやつれ萎えきった様子の陽太ようた素朴そぼくに立っていた。


「そんなに言うなら入ればよかっただろ。お前に変わってやるよ」

「そ、それはできぬ……」

「なんでだよ」

「入れるわけないわい! わい、部活あるし」

「てかさっきからその違和感のある喋り方で話すのやめろ」


 リアルお馬鹿な親友へのツッコミは大変である。


 そして謎の素人漫才を済ました後、俺は自分の席に帰って残りの憂鬱ゆううつな時間を一人過ごした。






           ◆






 帰りのホームルームも終わりぐったり椅子に腰掛けている俺に、廊下から綾間さんが手招きをしてくる。


 何事かと思い廊下へ出ると綾間さんが待っていた。


「どうかしたの?」

「どうかしたのって、今日は委員会に行かなきゃダメじゃん!」

「あ、そうだったね……」


 綾間さんが教えてくれなかったら帰っているところだった……。


 ガクッと一気にテンションが落ちた俺は、渋々先生が指定していた図書室に向かうことにした。


 ――図書室に着くと部屋には長机が用意されていて、各学年組に分けられて生徒が座っていた。


 いかつい先輩もいれば眼鏡を掛けたヒョロヒョロな先輩までいて、関わりが無い人ばかりだ。


「真島くん。ここだよ」

「あ、うん」


 綾間さんが俺を名字で呼んでくる。

 普段は『幸太くん』と名前で呼ばれているから少し新鮮さを感じた。


 そして俺は綾間さんの隣に座り、ファイルに挟んである前図書委員会の活動実績や仕事の日程を確認する。


幸太こうたくん、図書委員って結構することあるみたいだね」

「うん。そうらしい……」


 小さな声で耳元辺りから喋りかけてくる綾間さん。

 なんだか秘密の会話みたいで楽しい。


 そして委員会が始まる三分前になり先生も到着する。

 見回してみると部屋には穂花先輩の姿は見当たらないので一安心。


 だが号令の合図で席を立ちお辞儀した後顔をあげると同時に、聞いたことのあるような声が聞こえる。


「遅れてすみませんでした」


 小さく息切れをしながら自分のクラスの指定席に座ったのは、俺が苦手なひとつ歳が上の美人な先輩だった。


 そして彼女は俺がいることに気づいたのかこっそりと手を振ってくる。

 その姿に一瞬だけどドキッとしてしまった自分の頬をつねる。


 すると左手に温かい柔らかな感触が伝わってきた。

 そしていい香りもする。


「えッ!!??」


 左隣を向くと綾間さんが俺の腕にしがみついていた。

 思わず声を出してしまう程の驚きの光景に力が抜ける。


「どうした真島」

「いいえ、何でもないです」

「なら静かにしてろ」


 いやいや、綾間さんが俺にひっついているの先生には見えないのかよ!?


 そして綾間さんはまた小さく耳元で囁く。


「もぉ。他の女の子を見てニヤニヤしてる旦那さんは懲役八十年だからねぇー」

「罰、重くないですか!?」

「いいや? これから私たち八十年は一緒でしょ?」


 綾間さん……。それはズルいよ。























  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る