第23話 捨てられない物と大切なもの
「ただいま」
「
今日は
放課後に担任の加山先生の手伝いをしていたため帰るのがいつもより遅いからだ。
これなら毎日遅れて帰っても……。
そして俺が思い描く理想の夫婦像が目の前で現実化されていることに幸せを感じ、靴を脱いでリビングに向かった。
リビングに入ると泥棒が入ったかのような散乱っぷり。
俺の許嫁はこんなにも片付けができなかっただろうか。
「あの、綾間さん。なんでこんなに物が散らばってるのかな……」
「ごめん! いらない物とか整理しててー!」
「いや、ならいいんだけどね」
それにしても見たこと無い巨大な
一人暮らしの人なら空き巣にでも入られてしまったのかと思うくらいに。
このままでは歩く場所も確保できない状態なので、俺も一緒に手伝うことにした。
「綾間さん、俺も手伝うよ。一人でさせられないし」
「ありがとぉー!」
「ていうか、このデッカイ壺なに……」
「なんかさぁーこの前、商店街でおばさんが幸運を呼び寄せる壺買わないかって言ってきてね。つい……」
「それ絶対信じちゃダメなやつだよね。それでその壺いくらしたの?」
そう聞くと綾間さんが少し黙り込む。
「怒らない?」
「うん、怒らないよ。たまには高い買い物くらいしたって……」
「一万円」
「えっ……」
怒らないと約束したので怒りはしないけど、流石に一万円は高すぎる。
だけど優しい綾間さんのことだから買ってしまったのだろうと自分を納得させ、また片付けを再開する。
そうしていると綾間さんが使う物入れに、シワだらけのもう使えそうにない封筒を入れる。
「綾間さん、それってゴミじゃない?」
「ゴミじゃないよ? これは幸太くんが拾って渡してくれた大切な思い出封筒なんだから」
「あぁ、綾間さんと初めて話したあの日の封筒ね」
あの日のことはまだ鮮明に覚えている。
放課後一人で帰っていたら道に封筒が落ちてて、拾ってしゃがみ込んで必死に探していた彼女に渡したんだっけ……。
あの出来事がなかったら、俺と綾間さんは許嫁としてこの生活を受け入れいていなかったかもしれない。
「それじゃぁ、その封筒は大切な物かもしれないね」
「うん! これからももっと大切を増やしたいなぁー」
「そうだねー」
綾間さんは封筒をしまった後、今度はポテトチップスの袋のようなものを出してくる。
「これもいるかなぁー」
「え、なんで……」
「だってこれは、私と幸太が初めて一緒に食べたポテチじゃん!」
「いや、それは捨てていいでしょ!!?」
それにゴミ袋の中、全然捨てる物入ってないし……。
多分この調子だと今夜中に終わりそうにない。
綾間さんはたまにズレていることがあるので、俺がしっかりしないとと思った。
◆
「これでおしまいっとぉ!」
「はぁー。やっと終わったぁー」
そのセリフは俺が言うはずでしょ!!とツッコミたくなる。
整理開始から三時間。間に夕食を挟んだので実質二時間にはなるのだけど、むちゃくちゃ疲れた。
あのデッカイ壺は寝室の隅に置いておくことにしたのだけど、風水的に大丈夫なのだろうか……。
逆効果だと買った意味がなくなってしまうのでほんとうに勘弁してほしい。
「それにしてもこの大量のゴミ、何処に置こうか……」
「ごみの日はまだ一週間も先だしねー」
なぜごみの日の翌日に大掃除を始めたのかはよくわからないけど、まぁ片付いたんだからいいかな?
「まぁ、生ゴミとか匂いの出る物はないだろうからキッチンの奥くらいに置いておけばいいんじゃないかな」
「おぉー。幸太くん頭いい!」
パンパンにゴミが詰まった袋をキッチンへと二人で運ぶ。
その動きはまるでジブリ映画に出てくる小さくて目が二つ付いた黒いやつである。(ススワタリぃ〜〜)
全て袋を運び終えて、綾間さんがソファーに勢いよくダイブする。
ソファーが衝撃を吸収してしっかりと体を包み込み気持ちよさそう。
俺もその隣に深く座って一息つくとクッションに顔を伏せたまま綾間さんが呟いた。
「はぁ、これゴミステーションまで持って行かなきゃダメなんだよねー」
「そうだね」
「整理しなきゃよかったなぁ……」
綾間さんはそう言うが、俺は正直して良かったと思う。
このままでは綾間さんが今まで溜めてきた思い出で家が溢れかえってしまいそうだから。
「綾間さん。思い出増やすのもいいんだけど、物はほどほどにね……」
「ごめんなさい」
でも実は二人の思い出の品がほとんどで、綾間さんが大切に保管してくれていたから本当は凄く嬉しかった。
「あ、それと壺はもう買わないように」
「えぇー」
まだ一万円の出費にこりていないお嫁さんだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます