第26話  ピンチ到来

『お前が結婚してたって話だよ!』


 その一言で俺と陽太の方に注目が集まり、周囲にいる生徒がガヤガヤしだした。

 突然の状況にややパニック気味になる。

 だが陽太ようたが言ったことは間違えているわけでもなく、言い訳も思いつかない。


 俺と綾間あやまさんの家族以外は知っているはずない婚約のはずなのに。

 なんで陽太が知ってるんだ?……。


「な、なに言ってんだよ。そんなわけ……」

「いやいや、お前は結構当たりがいいからありえるだろ」

「えっ? 当たり?」

「そうだよ。昨日オンラインで対戦した時、お前俺の推しキャラのスキン使ってたじゃねーか!」

「・・・は!?」


 話が噛み合ってない気がするんだけど、もしかしてこいつが言ってんのソシャゲのこと?

 ヒヤヒヤして心臓破裂すんじゃないかと思ったわ !!


 推しのキャラを使ってただけで結婚したと大騒ぎするとは。

 やっぱりこいつは頭のおかしいただのバカだ。


 いや、こいつを少しでもまともだと思った俺がバカだったな。


「お前、言い方が紛らわしいんだよ」

「は? 逆ギレかこの野郎! 俺のココロン(陽太の推しキャラ)に課金なんかしやがって。そんなのせこいぞ」

「キレてないし、そんなの俺の勝手だろ」

「勝手じゃねー! 俺、今月は金欠なんだよ!」


 俺はなんでこんな理不尽ストレス製造マシーンと友達やってんだろうか。

 多分親友じゃなかったら蹴りを喰らわしてケチャップの海に溺れさせていただろう。


「お前、何回引いてココロン出たんだよ」

「五回引いた」

「俺は課金できねーから無料引きの一回だけなんだぞ!」

「知らんわ。てか図書室ではしゃぐな」


 罵声を浴びせ浴びせられ、最後は陽太の秘密を多数知っている俺が勝った。

 勝ち方は少し狡いかもしれないけど……。


 ――陽太が帰って行った後。


 図書室にも静けさが戻り俺も落ち着いて仕事をすることができる。

 と思ったのだけど……。


幸太こうたくんには許嫁がいるの?」


 そしてまたもや同じような冷や汗をかき始める。


「い、いませんよ……」

「でもさっきの元気な子が結婚してたのかって言った時の幸太くん、とっても焦ってたよ?」

「気のせいだと思いますよ。許嫁って、そんなの漫画じゃないとありえませんよ……」


 ありえるんです……。

 穂花先輩の観察力、一流芸能事務所の面接官より冴えてるだろ。マジで。


「そんな誤魔化そうとしなくてもいんだよ? 私言わないから」

「勝手に確信しないでもらえますか!? それに俺なんかに許嫁ができるわけですよ」

「いいや。さっきので確信したんだぁー」


 穂花先輩は小悪魔のような笑みをを浮かべ続けて喋り始めた。


「この前の図書委員生徒会議で幸太くん、綾間優香あやまゆうかさんと抱き合ってたでしょ」

「抱き合ってはないですよ!! あれは一方的で!」

「抱き合ってはない? ボロが出たみたい」


 なんて恐ろしい先輩だろう。

 こんなにも美人で可愛くて二年生でも一番人気の人なのに。いつも俺ばかりにちょっかいをかけてくる。


「あ、えっと。あれは……」


 なんとしても許嫁だということだけはバレたくない。

 綾間さんと誰にも絶対に言わないって約束したから。


「……」

「え?」

「俺と優香は付き合ってて!!」


 先輩の体がフリーズし俺の一言で周りがまたざわつきだす。


 俺は顔を赤らめながらも真剣な表情を保とうとする。


「そ、そうなんだ……」

「えっ……」


 先輩の様子が暗くなっていきその状況に混乱する俺。


 なぜ先輩が落ち込んでいるのか全く理解できない。


「なんで先輩が落ち込んで……」

「落ち込むよ……」

「その理由が分かりません」

「知りたい?」

「いや、遠慮しときます」


 ここで俺が聞いてしまうとまた面倒にからかわれる可能性があるのでやめておくことにした。


「まぁ、幸太くんも彼女さんと仲良くね」

「あ、はい……」


 良くないことだとはわかっている。

 だけど先輩に話してしまうと綾間さんとの約束を破ってしまう。


 この案件二つを天秤にかけた時、俺は断然綾間さんとの約束を守ることを優先する。


 だって俺が今一番悲しませたくないのは綾間さんだから。


「あ、幸太くん。彼女さんがこっちに来てるよ」

「ほんとですね……」

「あの子、私よりも胸大きい」

「何処見てるんですか」


 すると先輩は綾間さんではないやたら胸の大きい女子を見つけて指を指す。


「幸太くんはやっぱり、あんなふうな重たそうな果実が二つ付いた身体の方が好みなんだ。見た目だけで好きになっちゃう人なんだ」

「……(否定できない)」


 そうだったのか俺はぁぁあああ!!!!

 そんな見た目だけで判断し好きになる童貞変態野郎だったのか!!!???

(童貞変態野郎は全てあてはまる)


 はぁ……。俺はやはりクズだったか。


「ちょっと後輩君、そんなに落ち込まないでよ。今のは私の冗談だから」

「えっ……冗談」

「うん。ちょっとだけリア充に意地悪してみたくなっただけだから」

「はぁ、焦った。そういうのは勘弁してください……」

「幸太くん、知ってる? 女の子は興味の男子にちょっかい出したりしないんだよ」


 恥ずかしくなるのをグッと我慢し平常心を作る。


「……そろそろ閉館ですね」

「そうだね。それじゃ帰ろっか」


 そう言ってカウンターを出たのと同時に綾間さんとも合流する。

 相変わらず俺の許嫁は可愛い。


「幸太くんお疲れ様。楽しそうに何話してたの?」

「全然楽しくなかったよ……」


 帰ったら風呂に入って寝よ。十時間は寝よ、マジで。







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