THIRD Love
第20話 感謝いっぱいの福袋
ダッダッダッダ!!!
玄関からリビングに走って来るような足音。
今日の俺の許嫁はいつも以上にテンションが高いようだ。
ガチャッ!!
「
「何が……。まさか宝くじか!?」
「いや、福袋」
俺の期待を一瞬でどん底まで落とした彼女は、ガラステーブルの上に赤い大きな袋を置いた。
袋を置いた瞬間に感じた重厚感は軽そうな感じで中身はまだ予想もつかない。
「それって買ったの?」
「いや、ショッピングモールのくじ引きで当たった一等の景品」
「一等って福袋でいいんだ……」
くじ引きの一等って大抵、もっとワクワクさせてくれるようなものなんだと思うのだけど……。まぁタダでもらえるのならいいか。
今は結構裕福な生活をしているのだけど、父さんが会社で成功するまでは貧乏だった。なのでタダという言葉は今になっても特別感を感じる。
「それじゃあ開けてみよっか?」
「え! もう?」
「だって気になるじゃんかぁー」
帰ってきてからソワソワしっぱなしの
俺が当ててきたものでもないし、そんなに良さげなものは入ってないだろうと思って綾間さんにどうぞとジェスチャーする。
「え! もう開けるの!?」
「え、さっき綾間さんが開けようって言ったよね……」
「あれ、そうだったっけ」
そう言うと綾間さんは袋の上部に付けられているセロハンテープを綺麗に剥がして中身を覗く。
顔を上げると目を大きくして驚いた表情。
よっぽどしょぼい景品だったのだろうか……。
「幸太くん……。ルンバ(人気お掃除ロボット)とプレステ(ゲーム機)と温泉旅行券が入ってる!!」
「えっ……。えぇぇええ!!??」
いやいや、むちゃくちゃ豪華な福袋だな! 温泉旅行券だけで一等の気分になれるわ!
まさかの景品に発狂した後身体が固まる。
「あ、一泊二日のペアチケットだ……。でも私達は夫婦だし大丈夫だったね」
「あ、え? うん……」
大丈夫なのだろうか……。
普段同じベットで寝ているというものの、俺と綾間さんは完全に夫婦ってわけではない。ていうか綾間さんは同じ家で暮らしているクラスメイトの女子だ。
今まで俺は彼女に対して興奮したことはほとんどないし、ふしだらで破廉恥な行為も行っていない。
だけど俺は聞いたことがある。
女の子は時々夜に限ってエッチな気分になることがあると!
今までは俺の理性があったので上手くいっていたけど、綾間さんから仕掛けてきた時は防ぎようがない。
だから表面ではバカンスに聞こえる楽しいはずの温泉旅行は、俺にとってとても危険な戦場となるのかもしれないのだ。
「幸太くん。鼻の下伸びてるよ……」
「えっ……。そんな険しい顔で見てこないでくれるかな」
◆
『へぇー、福袋でねぇ。お前ん
「はっ? いや、来ても追い返すから」
『えぇー。ルンバの掃除する音を聴きながらプレステしてぇーよぉー』
「いや、意味がわからん」
福袋が当たったその日。
俺は自分の部屋のクッションに座ってダラダラ陽太と通話していた。
当たった景品のことを話したら家に行きたいと言われたので一瞬ヒヤヒヤする。
「それで陽太は今、なにしてんだ?」
『現役時代の綾間凪咲のライブ映像を繰り返しチェック中』
「あぁ、聞いてすまなかった」
引退してからも綾間凪咲(俺の許嫁の綾間優香)はこんなにもファンに愛されている。陽太だから引いているけども、こんなにも影響力があるのはシンプルに凄い。
そういえばまだ綾間さんがアイドルを引退した理由、聞いてなかったな……。
『……おい、おい!。幸太! 死んだか?』
「あ、ごめん」
『くっ……。くじの一等ごときに浮かれやがって。まぁ、俺は全く羨ましくないけど』
「なら家に来てゲームをする必要も無くなったな」
『いや、そういうことじゃねえ!』
陽太はバカではあるがツッコミも一流だ。
まぁ、今のはボケてないんだけど。
「それそろ切ってもいいか? もうすぐ晩御飯できるんだ」
『そっか。……は!? お前、通話しながら飯作ってたのかよ』
「え、まぁな……」
危ない危ない。最近少し注意力が落ちていた気がする。
俺はてきとうに誤魔化した後、電話を切って一階に降りることにした。
――フォーン〜〜フォーン
ソファーに座って綾間さんに頼まれたポテトサラダを潰す。
ルンバの音でテレビの音がかき消され全く集中できない。
するとキッチンから綾間さんが歩いてきてルンバのスイッチをオフにした。
「ごめん、うるさかったよね」
「いいや。掃除だから仕方ないよ」
相手を気遣って行動する綾間さん。
今まで沢山のファンの人やライブ関係者の人たちと関わってきて身についたのだろうか。
自分の事で精一杯な俺には真似できない。
この毎日飽きがない楽しい生活が続いているのは、普段綾間さんが俺の想像以上に頑張ってくれているからだ。
だから俺がやるべき事。伝えるべき言葉は……
「綾間さん。いつもありがとう」
「……。うん!」
この一言で二人の表情が更に笑顔になった。
これが今日一番の俺への福袋だった。
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