第16話  苦手な先輩なのだけど結構可愛い一面もある件

 短縮授業でいつもより早く学校が終わった日の放課後。

 数週間前から学校図書で借りていたちょびっとばかりエロいラノベを返しに図書室へ向かう。


 俺のいるクラスの教室がある棟と図書室がある棟は少し離れているので昼休に一々いちいち返しに行くのも結構面倒、だから短縮の日の放課後にしたのだ。

 陽太ようたと別れて渡り廊下を歩き図書室に着く。


 引違い扉を開いて中に入るといつも笑顔で挨拶してくれる図書室の先生と目が合う。


 会釈してカウンターのある方に向かうとあんまり絡みたくない先輩がおしとやかに座っていた。


「おぉー。後輩くん久しぶりだね」

「そうですね……」


 俺を後輩くんと呼ぶこの先輩の名前は天海穂花あまみほのか先輩。

 見た目は清楚で綺麗なロングヘアーの優しそうなお姉さん。

 性格もそのとおりではあるのだけれど俺は少し苦手な人だ。


 そんな穂花先輩に表紙の方を裏返して借りていたラノベを返却する。


「ん? 幸太こうたくんってライトノベルなんか読むんだぁー。面白いですかぁ?」

「あ、はい。男子は大半喜んで読みますかね……」


 そして穂花先輩は俺が読んでいたラノベのバーコードを読み取って返却完了にする。

 その後、側に設置されている返却かごに本を入れるのかと思いきやまたラノベのバーコードを読み取った。


「先輩、何してるんですか?」

「えっと、幸太くんの借りてたこの本を私も借りて読んでみるんです」

「はぃ? なんでそんなこと……」

「だってこの本を読んだら、この間幸太くんと一緒にいた彼女さんのこともわかるかもしれないでししょ?」

「彼女ないです」


 もっと否定していきたいところなのだが、これ以上厄介なことになってしまうのも嫌なので我慢する。


「でも二人結構仲良さそうに見えたんだけどなぁー」

「気のせいじゃないですかね。それじゃあ俺はそろそろ帰ります」


 先輩といると何処かでボロが出てしまいそうなので今日は本を借りずにすぐ帰ることにした。するとバッグを持って先輩がカウンターから出てくる。


「じゃあ私も幸太くんと一緒に帰るよ」

「いや、先輩まだカウンターの仕事ありますよね……」

「小さいことは気にしない気にしない」






           ◆





「先輩、いつまで着いて来るんですか……」

「幸太くんが家に着くまでだよ。迷子になったら良くないでしょ?」

「ならないですよ。てか先輩、それストーカー行為ですよ」

「酷いなぁー。私は幸太くんと少しでも一緒に居たいから遠回りしてでも着いてきてるのに」

「なら早く帰ればいいじゃないですか」


 そんな感じで穂花先輩ストーキングされながらも自宅まで後少しの所まで帰ってくる。


 このままでは家まで本当に着いてきそうなので俺は近所の公園に入って行った。

 そして俺は遊具の目の前まで来て足を止める。


「先輩、ここが俺の家です」

「え、これってジャングルジムだよね……」

「はい。俺、結構貧乏で社長になった父も今は俺をおいてロサンゼルスに行ってしまいました。だから最近は公園で野宿をしてなんとか生活しているんです。」(ほとんど嘘)

「そうだったんだ……」

「なので今日のところはお引取りを」

「……嘘だよね」


 流石にこんな嘘では信じてもらえない。

 というかジャングルジムで野宿って、ジャングルジムがあってもなくてもほぼ変わらないだろう。


 俺は騙すことも面倒くさくなって諦め、ため息をつく。


「はい、嘘です」

「酷いよぉー。エイプリルフールはまだ先だよ!?」

「いや、俺の場合年中ずっとエイプリルフールな気分ですよ」


 面白くもないボケをさり気なくかましたところで、俺は立っているのに疲れて近くのベンチに腰掛ける。

 穂花先輩もその隣に座ると少し黙って落ちていく木の葉を見つめる。


「幸太くん。明日はなんの日かわかりますか?」

「突然なんですか。秋分の日とか……」

「わかんないかぁー」


 ちょっとだけ残念そうにした後に穂花先輩はニコニコ笑いながら教えてくれる。


「明日は私、天海穂花の誕生日でしたー!」

「それ、絶対にわからないですよ。俺、教えてもらったことないですし」

「そうだったっけ? まぁ、それはしょうがないとして幸太くん。君は私に何をしてくれるのかな?」

「なにもしませんよ。お金出してくれるならケーキの予約くらいはしますよ?」

「冷たいなぁー。もっとプレゼントとかあるでしょ!」


 プレゼント……。今まで誰かにプレゼントなんてあげたことない。

 そういえば綾間さんの誕生日っていつなんだろ。


「あ……幸太くん今、彼女のこと考えてたでしょ!」

「彼女じゃないですって」


 勢いで許嫁だと言いそうになるのを間一髪踏みとどまる。

 先輩は頬を膨らませて怒っている様子なのでけど一ミリも怖いとは思わない。先輩は結構可愛いから。


「じゃあ俺は何をすればいいんですか……」

「うーん。それじゃあ今度、私のお願いを一つきくというのにするね」

「えぇ、でも金面は無理ですからね」

「はいはい。じゃあ考えとくから」


 そう言うと先輩はベンチを立ってすぐに去って行く。

 出口辺りまで歩いていってそのまま帰って行くのだと思っていたら、軽やかに振り返ってこっちに手を振ってくる。


 もしも俺が先輩と付き合っていたらどうなっていたんだろう。

 俺は一瞬そんなことを考えた。



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