第15話  初めて女子が作ってくれた究極の愛妻弁当

 9月の下旬。

 近所にある公園の木の下には沢山の木の葉が落ち枝はカラカラ。

 外だけでなく室内も結構寒くて布団の外にでさえ出たくないような中でいつもは隣にいる綾間あやまさんの姿がないことに気づく。


 時計の針はまだ六時半過ぎを指しているのに……。


 そして俺はふと、数時間前の事をぼんやり思い出す。

 まだ外も真っ暗でいつもなら爆睡して夢の中にいるはずの早朝五時くらい。

 布団をめくるような感触が身体に伝わったのでぼんやりと細目を開け隣を向くと、綾間さんが起き上がって部屋を出ていくような気配がした。


 その時の俺はトイレにでも行ったのだとばかりに思って話しかけず、また眠ったのだけど……。


 そんなことを考えている間に意識がしっかりとしてきて完全に目が覚めた。

 二度寝して遅刻してしまうのも嫌なので俺はベットから起き上がって寒さに震えながら制服に着替えた。


 寝室の扉を開くと一階の方からゴソゴソと物音聞こえる。

 朝食を綾間さんが作ってくれているのだろうと思い、俺は楽しげに一階に降りてリビングの扉を開ける。


幸太こうたくんおはよう! 今日はいつもより起きるの早いね」

「おはよう。綾間さんこそ結構早いけど朝食作ってるの?」


 俺がそう尋ねるとエプロン姿の綾間さんはニヤっと笑い、青色の小さな箱を持ってこっちに近づいてくる。『どうぞ』と言われ恐る恐る中を覗くとそれは唐揚げや卵焼きが入った美味しそうなお弁当。そしてその横に詰められた白米の上に海苔で綺麗に貼られた『アイシテル』の文字が凄く気になる。


「お弁当作ったから今日のお昼に食べて!」

「え、でも綾間さん。これを持って行くのは結構マズイと思うんだけど!?」

「マズイ!?……」

「いや、マズイっていうのは学校に持っていったらこの弁当をみた人が怪しむ可能性とか聞いてくる可能性があるでしょ? そのせいでこの関係がバレるのも良くないから」


 そう言うと綾間さんはあからさまに萎えた様子でキッチンに戻って行く。

 少し罪悪感を感じ、このままでは落ち込ませたままなのも良くないと思って俺は綾間さんに言った。


「海苔の文字を逆にして『ルテシイア』にしたら持って行ける!……かも」


 すると綾間さんの表情が笑顔に戻り勢いよく俺に抱きついてくる。

 その姿はまるで飼い主にデレデレな子犬のよう。


「幸太くん頭いいっ! やっぱり世界一大好き!」

「おおげさだよ……」


 そんな感じで朝のイチャイチャ同際生活も二ヶ月目に突入した。





           ◆





 ――昼休みの騒がしい教室の隅っこ。


 いつものように俺と親友の陽太ようたはケータイを突きながら昼食タイムに入った。


 陽太の昼飯は朝にコンビニで買ってきた鮭とエビマヨのおにぎり二つと紅茶一本。

 そしてそれがひもじいのか、俺の弁当をジロジロ見てくる。


「なぁー。なんで今日は美味そうな弁当持ってきてんだよ」

「いつも添加物の多い偏った昼食だったから。たまにはと思って作ったんだよ」

「お前ってそんな健康に気使う奴だったっけ……」


 すまない陽太。この弁当は俺の許嫁(元国民的アイドル)が俺のためだけに作った愛妻弁当なんだよ。俺だけむちゃくちゃ幸せで悪いな……。むふっ。


「お前今笑ったか?」

「いや気のせいだろ」

「……じゃあ幸太。俺がお前の料理が美味いかどうか確認してやる」

「は? やらねーよ。絶対」


 綾間さんが俺のために作ってくれた初めてのお弁当。

 たとえ親友の陽太でもあげることはできない。


「お願いだ!」

「無理」

「それならお前の弁当百円で買ってやる!」

「安すぎるし絶対に食わさんわ!」


 弁当を自分の子のように守る俺。

 周りの視線が俺と陽太に注目していることにも気づかないまま弁当の取り合いは続く。


「なんでそこまで自分が作った弁当を守るんだよ!」

「それは……。別にそんなこと、どうだっていいだろ!」


 ここで綾間さんが作ってくれただなんて言ってしまうと朝、『アイシテル』の海苔を白米から剥がした俺の辛い気持ちが報われない。ていうかバレたら綾間さんに迷惑がかかる。


 なんとしても誤魔化しこのアホ陽太との争いを穏便に終わらせる方法……。


「陽太……。五百円やるから勘弁してくれ!!」

「いいよぉ」

「いいんかい!」


 結構あっさりと承諾され三百円にしとかなかったことを後で後悔した。


 ――家に帰って夕食を終えた後、綾間さんが皿をキッチンに運びながら不思議そうに話してくる。


「なんで今日のお弁当、陽太くんにあげなかったの?」

「いや、なんというか。……女子に弁当を作ってもらっての初めてで、嬉しくて馬鹿なプライドが出ちゃったというか」

「でも五百円もあげなくても……」


 いいや、それでも綾間さんの作ってくれた弁当は五百円払っても足りないくらい美味しかったから良かったんだ。なんて言えるわけもなく俺はバカバカしくなって体をゆすりながら笑った。







 ―――――――――――――――――――――

 あとがき


 第15話  初めて女子が作ってくれた究極の愛妻弁当 を読んで頂きありがとうございます!

 最近は書く時間もあまりなくて投稿に遅れてしまうこともありますがこれからも今作を何卒応援よろしくお願い致します!

 話が面白いと頂けましたらレビューや評価お願い致します。






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