第13話  S級美少女と30分クッキング!

幸太こうたくん! 今日の晩御飯なに食べたい?」


 エプロン姿の綾間あやまさんがキッチンから笑顔で話しかけてくる。

 これぞ世の男性陣誰しもが求める理想の夫婦像。


 それはさておき、今日の晩御飯は何がいいか……。

 昨日は唐揚げと麻婆豆腐だったし、その前はカレーとポテトサラダ。

 毎晩俺が飽きないように美味しい料理を作ってくれるので、家に帰ることが楽しみになった。


 いつも綾間さんが献立を決めてくれているので、いざ『今日の晩御飯なに食べたい?』と聞かれると結構難しい。

 食にあんまり関心のない俺には特に難しい質問だ。


「えっと……チャーハンとかは?」

「えー。昨日中華料理食べたからなぁー」


 なんとなく却下されるとは分かっていたものの他に思いつかないので言ってみた。

 でもやはり二日連続で中華料理はダメだった。


「それじゃあ……。ハンバーグは?」

「いいじゃん! それにしよ!」


 今日の帰り道コンビニに寄った時、陽太が冷凍ハンバーグを買っていたのが役に立った。まぁ、晩飯が冷凍なのは気の毒なのだけど。


「うん! ひき肉と玉ねぎあったから作れそう!」

「それは良かった」


 俺はニコッと笑ってテレビに視線を戻す。

 すると綾間さんがキッチンから出てきて俺の服を引っ張る。


 知らないフリをしたまま動かないでいると綾間さんはため息をついてしゃがみこんだ。


「もぉー。幸太くんも手伝うんだよぉ!」

「あぁ、そういう事か」

「そうだよぉ。ハンバーグ作るのって案外時間掛かるから」


 俺は手を洗って消毒をしキッチンに立った。

 ちなみにまともな料理を作るのは中学三年の調理実習の時以来全くしていない。

 そうは言っても流石に米を炊くくらいはできるし卵焼きだって作れる。あとカップラーメンと……。


 隣でテキパキと動く綾間さんは手を洗ってから止まったままの俺に気づいて指示を出してくれた。


「幸太くんはそのボウルに入ったお肉をしっかり混ぜてくれる?」

「あ、うん。了解!」



 ――ボウルに入った具材を混ぜ終わった後、副菜を作り終わった綾間さんが見に来る。


「幸太くんすごい! 綺麗に混ざってる!」

「別にすごくは……」


 全く料理ができないと思われていたのだろうか。まぁ、綾間さんがうちに初めて来た時に見たであろうキッチンにはインスタントのカスばかりが散乱していたからな。このくらいの反応にはなるのかもしれない。


 すると綾間さんは抽斗ひきだしからポリ手袋を四枚出して俺に二枚渡してくる。


「それじゃあこれからハンバーグの形を作っていきまーす!!」


 まるでテレビの料理番組が始まったかのようにやたらテンションの高い綾間さん。

 楽しそうなのでいいのだけれど。


「今回は私の助手君にしっかりと具材を混ぜてもらいました!」


 やっぱりそうきたか……。


「綾間先生これには何か意味があるんですか?」

「はい! 粘りが出るまでしっかり混ぜることで、肉同士がしっかりと結着して割れづらくなるんです!」

「じゃあ、混ぜれば混ぜる程いいんですか?」

「いいえー。混ぜすぎると脂が溶け出してしまいパサつきの原因になりますので、ほどほどにしましょう!」


 それからこの3分クッキングのような茶番を二人だけのキッチンで続けながらもハンバーグの形を整えていく。


 こんなにもくだらないのに楽しいのは明るく社交的な彼女がここにいてくれるからだと改めて思う。


「綾間先生。次はどうしましょう?」

「はい! 一個ずつ軽く整えたら、二十回くらい右手と左手でキャッチボールのように投げて空気をしっかりと抜きましょう!」


 俺が二人で整えたハンバーグの空気を抜いている間に綾間さんはIHを温めフライパンを置いた。ただそれだけの動作なのに、むちゃくちゃ様になっているのがカッコいい。


 空気を抜き終わったハンバーグを油を敷いたフライパンの上に乗せ中心に凹みを作る綾間さん。


「なんでハンバーグの真ん中凹ましたの?」

「ハンバーグは中心から膨らんでくるから凹ましておくんだよぉー」

「へぇー。綾間さんってなんでそんなに料理に詳しいの?」

「お母さんと昔よく作ったんだー。それから料理を作るのが好きになって色々勉強しながら覚えたの」

「お母さんって今どこ住んでるの?」


 俺がそう聞くと綾間さんの表情が一瞬固まったような気がした。

 別に変な質問はしてないと思うのだけど……。


 そんなことを考えているうちに綾間さんは笑顔を戻してまた喋り始めた。


「わかんない。中学三年の時突然出て行ったんだ」

「ぁ、こんなこと聞いてごめん」

「いいよいいよ!幸太くんのせいじゃないもん」


 話をしているうちにハンバーグが焼き上がった。

 綺麗で程よい焦げ目がその姿をより美味しそうに見せる。

 リビングに運んで二人並んで定位置に座ると二人揃って手を合わせた。


「うーん!!美味しー!」

「うん、うまい!」

「大成功だね!はぁー、ほっぺが落ちそう……」


 俺も頷いて答えると綾間さんが何か思いついたかのように突然言い出す。


「いつか私の大好きな旦那様をお母さんに紹介してあげないとね!」

「……」


 こんなにも可愛いお嫁さんがいるというのに、まだ完全に好きになれていない俺が少し憎い。












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