第12話  許嫁は結婚式を挙げてみたい

幸太こうたくん、暇だねー」

「そうだねー」


 日曜日の薄暗い朝。

 外の天気は予報通り早朝から雨。


 今日は陽太ようたと図書館に行く約束をしていたのだが流石にこのドシャ降りでは行けそうにないので家に引きこもっている。


「幸太くんー」

「なに?」

「外で走りたいー」

「雨に濡れて風邪引いてもいいなら走ってくるといいよ」


 外で走りたい。わからなくもないけど流石に……。


 しばらく雨の音だけがリビングに鳴り響き落ち着いた時間が続く。

 何もしないまませっかくの日曜日が終わってしまうのは少し寂しいと思ったので、俺は一応綾間さんに提案してみる。


「じゃあ……。しりとりとかしてみる?」

「あぁ! いいね!」


 思ったよりも乗り気な綾間あやまさん。


 テンション下がりがちな雨の日なのに明るい綾間さんを見ていると俺まで楽しくなってくる。そこが彼女の長所でもあるのかもしれない。


「じゃあ、しりとり」

「えぇ、違うよぉー。『許嫁しりとり!許嫁のけ』でしょぉー?」

「あぁ、『け』から始まるんだ……」


 何故か勝手にルール決めている綾間さん。

 楽しそうなのでいいけど。


「許嫁しりとり。許嫁のけ!」

「んぅー、『け』かぁ……。あ! 結婚けっこん!」

「綾間さん……。『けっこ』で負けだけどいいの?」

「ほんとだ!!」


 意外と天然な綾間さん。


 こんな調子で人気アイドルのセンターができていたのだろうか……。

 仕切り直して始めの『許嫁のけ』からまた始める。


「じゃあ……。結婚式したい!』

「なんか要望になってない!? 『結婚式』だけでいいと思うんだけど」

「むぅぅー。ノリ悪いなぁー。しりとり飽きたぁ……」


 ですよねー。ていうか俺も飽きた。

 自分に回答権が回ってこないとゲームにならない。

 綾間さんがこんなにもしりとりが下手だとは全く思っていなかったので残念だ。

 外に目を向けると雨はまだ結構降っていて外に出られるような状況ではない。

 すると綾間さんはソファーに寝転び体の力を抜いて小さく呟いた。


「結婚式かぁ。いいなぁ……」


 それは無意識にふと出た独り言のように聞こえた。


 俺は人前で話すのもすごく苦手だし結婚式みたいにお金の掛かるだけの儀式はなるべく参加したくない。でも一生に一度だけの大切な行事だということは十分わかっているつもりだ。


「綾間さんは結婚式やっぱり挙げたい? いつかだけど……」

「うん、挙げたい!」

「なんで?」

「うぅーん、深い意味はないんだけど。一度はウエディングドレスも着てみたいなーって……」


 もしこれから先の未来、俺が彼女と夫婦という家族関係を築くことになるのなら結婚式を挙げるという選択も考えておくべきなのかもしれないと思った。


「私は幸太くんと結婚式挙げたいなぁー」

「そう言ってもらえて光栄」


 俺も彼女の一言で結婚式というものに少しだけ興味が湧いてきた。





           ◆





「幸太くん!これ知ってる?!」


 綾間さんが興奮気味で近寄ってきてスマホ画面を見せてきた。

 そこに写っていたのは最近流行りの五つ子花嫁ラブコメディー。

 そしてカラーのイラストと一緒に大きな見出しが付いていてそこには映画化と書いてある。


「へぇー! このアニメ、映画化するんだぁー」

「そそ! 知らなかったでしょ!」

「うん!今知った。 それって二期の続きのストーリーなのかな!でもオリジナルストーリーでもいいんだけどなぁー」


 気づかない間に俺も結構盛り上がっていた。

 だが綾間さんは俺と同じアニメオタクなので気を使わくても話せる。

 俺が彼女と生活するにあたって一番重要な決めてだったと思う。


「私はアニメの続きな気がするなぁー」

「そうだったらいいねぇー。でもなんでそれ教えてくれたの?」

「幸太くんの部屋にそのフィギュアが沢山飾ってあったから」


 そういえば綾間さんがこの家に来てまだ間もない時、俺の部屋に入ったんだっけ。

 元人気アイドルの記憶力の凄さに感心する。


「そういえば綾間さんってフィギュアとかグッズはどうしてるの?」

「部屋に全部保管してるよー」


 今まで全く気づかなかった。

 うちに初めてきた時にはスーツケース一つしか持っていなかったし、別の日に持って来たのだろう。


「見に来る?」

「いや、遠慮しとく」


 絶対、俺が断ると分かっていて聞いてきただろ……。

 そんなことを考えていると綾間さんが俺の腕を人差し指で突っついてくる。

 その顔は少し赤く少し間が空いてから言いづらそうに言った。


「この映画一緒に観に行かない……?」


 その言葉を聞いて嬉しくなった俺は『うん!』と少し大きめな声で答えた。










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