第4話 【秘密】俺の許嫁は元アイドル?!
「へぇー、幸太くんの部屋広いね! 漫画がいっぱいある!」
「まぁ、陰キャの部屋ってこんなもんでしょ……」
「あ、私このフィギュア持ってるよ! 可愛いよね」
「綾間さんってアニメとか好きなの?」
「うん! 大好きだよ! ここの棚にある漫画はほとんど読んでるしラブコメ全般好きなんだぁー」
うちのクラスの美少女は俺と張り合えるくらいのオタクだった……。
例えるなら俺がゴジラで綾間さんがモスラ。(※分かりづらくてすみません)
俺が勝手に思い描いていたイメージと違い過ぎて混乱してしまいそうだ。
そしていつの間にか俺は彼女を追い払うというミッションのことは完全に忘れてしまって、楽しく好きなラブコメの話しを彼女と語り合っていた。
まぁ、俺がお試しでって承諾してしまったんだけど……。
話が一段落すると綾間さんは少し考える素振りをした後、座ったまま前屈みになって言った。
「幸太くんには今日から私の旦那さんになるということで大事な秘密を教えてあげます」
「お試しだけどね……」
すると綾間さんはホッと息を吐いてから呼吸を整えて言った。
「私ね、元アイドルなんだ……」
冗談だろうと思った。
でもそれが本当だということはすぐに分かる。
「綾間凪咲って知ってる?」
「あ、うん。この間引退したアイドルだよね」
「それが私なんだ」
「はぇ?!」
まさかの告白に鳥肌が立ち思わず変な奇声をあげる。
俺はすぐさまズボンのポケットからスマホを取り出し『綾間凪咲』と検索をした。
見比べて見るとたしかに似ている。髪型が違うだけなのに言われるまではまるで別人のように見えた。
だが確かに顔は似ている。
「でもなんでうちの学校なんかに通ってんの?!」
「それは……。アイドルを辞めて一人暮らししたいってお父さんに言ったんだ。そしたら許嫁の幸太くんが住んでる所に近いここの学校にしなって言われて……」
「綾間さんの友達は元アイドルだって知ってるの?」
「いや、多分知らない。いつかは言わないと駄目だろうね……」
言いたくないのも無理はないだろう。
元国民的人気アイドルだって知られたら、今まで仲の良かった友達でも気を使ったり距離を置かれてしまったりするだろうから。
俺ならバレるまでは絶対に話せないだろうと思う。
「だからこのことは絶対に秘密ね」
「うん。でもなんで俺なんかに教えてくれたの?」
「言ったじゃん。私の旦那さんになるんだからって」
綾間さんのセリフにドキッとする俺は一瞬好きになりそうになった。
でも俺はもう恋はしないって誓ったんだ。
これ以上ラブコメみたいなありえない展開に期待してひどい目にあいたくないから。
◆
――中学二年の冬。俺はある女の子に恋をしていた。
その子の名前は
ある日俺は朝日さんと二人で帰ることになり、話を盛り上げようと精一杯になってしょうもないギャグや冗談を言ったりしていた。
普通ならしけるようなことでも彼女は楽しそうに笑ってくれる。
馬鹿だった俺は『もしかして俺のこと好きなんじゃないの?』とか思って、その日に彼女に告白をした。
結果はもちろんフラレた。
それから俺はクラスの笑い者認定されてしまい、わりと豆腐メンタルな俺は萎えて数週間家にこもってしまった。
思い出せば今でも恥ずかしくなるような黒歴史だ。
だから俺は三次元には興味がない(なくなった)し期待もしないことを貫くことにしたのだ。
「――ねぇ。幸太くん! 幸太くん?」
「あ、ごめん。何?」
「何か考え事してた?」
「うん。昔の思い出? みたいな……」
「聞きたいなぁー」
俺は横に首を振って拒否する。
こんな黒歴史、絶対人に教えられるわけない。今度は半年ぐらい部屋から出られなくなりそうだし。
「それで綾間さんはどうしたの? 俺のこと呼んだよね」
「うん。今日からここに住むわけなんだけど、私の部屋ってどこ?」
――二階の広い寝室にあるベットに少し距離を空けて寝転ぶ二人。
なぜこんな状況になったかというと……
「――えぇ!? 部屋もベットもないの?」
「うん……。空いてる部屋もあるけど父さんの書斎とか物置ばかりだから」
うちの家にはめったに来客もこないし、人を泊めたことなんて一度もない。
なので空き部屋も無ければベットもない。
広い家のくせに住人のクセが悪いせいで、いざという時に機能しない。
困ったものである。
「じゃあ今日は俺がソファーで寝るよ。綾間さんは二階の寝室ね」
「駄目だよ! 体が痛くなっちゃうよ」
「でもどうしたら……」
「一緒に寝ればいいじゃん」
――という感じで今、俺の横にはクラスメイトで元アイドル美少女が転んでいる。
異性とひとつ屋根の下での就寝は初めてなので緊張する。もうすでに手汗びっしょりだ。
パジャマに着替えた元アイドル――綾間凪咲可愛い……。
こんなんじゃ朝まで眠れそうにない。
そんな感じで一人ヒャッハーしていると隣から柔らかな小さな声が聞こえた。
「ねぇねぇ旦那さま……。今日一日私といてどうでしたか?」
「恥ずかしいから名前でお願い」
クスクス笑う俺の許嫁。
スタンドライトでかすかに照らされたその表情は天使のように可愛い。
「まぁ、悪くはなかったかも……」
「うーん。素直じゃないなぁー もぉー」
そう言うと綾間さんは照明を消して俺に近づき、小さく耳元で囁いた。
「私は幸太くんが許嫁で良かったし、楽しかったよ……」
「なっ!!?……」
またもクスクスと笑う綾間さん。
これは多分、俺をからかっているのだろう。
俺もからかいたい……。
「――俺も、楽しかった……。いや、今のなしっ」
俺がそう言った時にはもう隣で静かな寝息が聞こえていた。
「……」
それが微笑ましくて、初めての感覚だった。
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