第4話

 そして、ある程度尻尾を堪能した所で、私は街に帰ることにした。

 なんとなく、人気のない森に寂しさを感じたからだ。


 帰る道中。あれほど長かった道も、狐火さんと雑談、いや恋話に花を咲かせていたら、あっと言う間だった。

 担当直入に言おう。楽しかった。


 そして、狐火さんのテイム報酬のあるアイテムを使った。



〜街〜


 何故か、街を歩いているだけなのに、周りが妙にザワツイている。

 

 ある者は、「化け物」だ逃げろ。だとか口走っていたけど、ただ街を歩いているだけ。

 何が怖いんだろうか?


「おい。お前。なんか強そうなの連れてるな。俺と決闘しようぜ」

「決闘? 面倒なのでいやでず」


「おまっ、ふざけるな。今、プレイヤーランキング一位のこの俺が直々に決闘を申し込んでいるんだぞ!」


「何がプレイヤーランキングだ。ただの称号じゃん。まだ、ゲームが発売されてから数時間も経っていない団栗ドングリの背比べ状態での一位でイキってる輩は、我ら作業厨に結局は負けるんだよ。良いよ。それを理解して、そこまで言うなら、決闘は引き受ける。PVPモード起動」


「「PVPモードが起動しました。本モード中で消費されたアイテム、MP、HPはモード終了時、全て返却されます。PVPを楽しみくだい」」


〜PVP〜



「今回はコロシアムか。それにしても広いな。でもそんな事は関係ないぶっ倒してやる」


「状況説明ありがとさん。私眠たくなってきたから目を開けたくないんだよね」


「貴様。最弱の鷹匠のくせに許さん」


「最弱がなんだって? 最弱ってイキってる奴じゃないの?」


「ふんっ。体付きで分かるぜ。お前今、レベル一桁だろ? そんなステータスで俺に勝てるかな?」


「主、どうするのじゃ? 煽るのは良くないぞ?」


「ちょっとね。イラッときたから、これから気をつける」


「なんだ? 作戦会議か?」


「狐火さんは今回は休んでて」

「分かったのじゃ」


「そんな、時間は無いぞ! じゃ行くぜ!!」


 ゆっくりと目を開ける。確かにその空間は広かった。


 10mほど先に。大剣を構えた野郎が向かってきている。

 その体付きは、大男さながらの巨体で、ぶつかっただけでも吹き飛ばされそうだ。


 でもそんな事は関係ない。


 距離として2m。

 大剣のリーチ内だ。

 

 振りかぶった大剣は私の脳天目掛けて降ってくる。

 しかし、その剣の重さからだろうか。速度は生憎ながら遅い。


 腰を捻り、肩を剣に並行にする。

 顎を引き、後ろに倒れる。

 紙一枚の空間で避ける。

 何もない空を切る大剣は、結局は地面を叩き火花を散らした。


「スキル「剛腕(T1)」を使用」

 相手は腐ってもランカー。一筋縄ではいかないようだ。

 一時的に筋力を増強したようで、もう既に剣先は天に登っていた。


「じゃぁ私もスキル使おうかな。スキル「スレイヤーワイト(T?)」」

「「使用します。状態異常、「下限拡張」を確認」」


 私は、初期装備の短剣を抜いた。

 その刃渡り15cmぐらいしかない短剣で、振り下ろされた大剣を弾く。否、自分を弾いた。


 飛ばされた体から見える景色は、一面に広がる床の模様。

 短剣を突き立て衝撃を殺す。


 間に入られた大剣の刃も短剣でいなす。

 いなす。いなす。


「すばしっこい奴め。逃げるな!!」


「スレイヤーワイト」の効果はこう。

 第一に、条件が難しすぎるが「下限拡張」の付与

 第二に「一定確率」(1%)で、触れた武器、装備の耐久値、又は触れた標的のHPを20%削る。

 第三に、このスキルはスキルスロットを使用しない。


 それだけだ。


 1%が確定なら、26%なんて必然だよね。


 そう。ゲームの世界だけなら、私は幸運の持ち主だから。


「「効果を確認。大剣の残り耐久値は80%です」」


 とりあえず、いなす。


 そこまでプレイヤースキルが高いわけじゃないけど。

 守る位なら私にも出来る。

「「効果発動を確認」」


 大剣が横から振るわれる。

 短剣でこれも受け流そうとするが、思い切り飛ばされた。

「「効果発動を確認」」

 壁に激突する。


「「HP39減。現在のHPは11です」」

「あんな大口をたたいておいて、この様かよ。笑えるぜ」

 振り下ろされた大剣。


 避けられない。

 短剣で耐えるしか。

 刃同士がぶつかる瞬間、眩い光が舞う。

「「効果発動を確認」」


「まだ、耐えるか。「剛腕」!!」


「「状態異常、「骨折」を確認」」


「はは。右腕が折れちまったか」

 天井だった剣が持ち上がる。


「スキル「斬撃(T2)」と「剛腕」!」


 振り上げる大剣は、その影を私に落とした。


 しかし。


「「効果発動を確認。武器「鋼鉄の大剣(T3)」を破壊しました」」


「「幸運のコートの無効化された効果、状態異常回復を一度発動させます。状態異常は全快しました。「スレイヤーワイト」により状態異常「下限拡張」が付与されました」」


「なに?! 鋼鉄だぞ?! 耐久値に長ける鋼鉄だぞ?!」


「あーあ。壊れちゃったね。どうしちゃたの? もう終わり?」


「殴る。殴り倒す!」


 とてつもなく大ぶりなその動きは、スキが面白いほどに大きかった。

 到達場所などは簡単に想像ついて、避ける事はおろか、掌で挙動を変える事も容易だった。


 触れると言う事は、アレが発動する。


 一回。二回。三回。四回。最後、五回。



「「挑戦者のHPが0になりました。PVPモードを終了します。お疲れまさでした」」




 喧嘩を売られた場所に戻ってきた。どうやら、周りの人間はこの試合を見ていたようで、ぼーっとしていた。それはもう絵にかいたような、”豆鉄砲を食らった鳩”みたいだった。

「じゃっ、私はショップに行ってくるね。ランカーさん」


 振り向かず歩く。



〜ショップ〜


 「おう。お嬢ちゃんお久しぶり。連れはテイムしたクリーチャーかい?」


「まぁそんな所です。で、お願いがあるんですけど。装備のエンチャントって何処で出来ます?」


「エンチャントだったら。それも、この店で出来るぜ!」

「えぇ!? おじちゃんそんな事も出来るんです?」


「あぁ、そうだな」


「じゃぁこれお願いします」

「これは、この店で買ったコートじゃないか。エンチャント費用は5000Gって所か」


「じゃぁ、お願いします」

「へへ! 任せておきな!」


「ちなみに、どんな効果が付きますか?」

「そうだな、「一定確率」で「破壊不可」が付くはずだ。これに限っては運だからな」


「ほら出来た! 効果は、移動速度上昇だぞ! 当たりだ!」

「もう一度お願いします!」


「え? ええのか? 強めの効果だぞ?」

「お願いします」


「おっしゃ分かった」



「ほれ出来たぞ、、、、、ん? これは「破壊不可」だな。初めて見た」

「おぉ!! やったぁ! おじちゃん最強じゃん!」


「そんな事、言われたら照れるぜ。ほらよ、耐久値の値がなくなっちまったぜ。大事に使えよ。あ、でも、もう壊れないな。がはは!」




「「防具の特殊効果。装備時は装備者のみ使用する事が可能。しかし、装備されていない場合、触れている物体もその効果が使用できます。ただし、イベント等では、装備されていない防具は持ち込めません」」




「お主は、その事を知っておったのか?」


「まぁ、確信は持てなかったけどね」


「確かにそうじゃ。店長は「破壊不可」に対してだけ「一定確率」と言ったから、「破壊不可」にだけ+25%の効果が上乗せされたのかのぉ」


「そうだね。言葉のトリックだね。他のエンチャント効果も「一定確率」だけど表記しなければ、ただの可能性、どまりだからね」


「お主は頭がええのー」

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