第2話 - 2 シュヴァルツ高等学校、交流戦 ~筆頭同士の対戦

 大柄なベルゼムの前に、頭の半分ほど、さらに長身の女性が対峙した。シュヴァルツ高等学校1年生筆頭、メアリー。今回が、初めての対外試合となる。両者、筆頭同士の対戦となった。


 先鋒であるベルゼムは、ここまで4人を下して来た。奇をてらわず、正々堂々たる試合運びで、相手との実力差どおりに順当勝ちをして見せた。ただ副将戦での苦戦が響き、さすがに疲労の色は濃い。しかし眼前の敵を見据える眼光は険しく、まるで獰猛な獣のそれであった。


 威圧され、メアリーは完全に気圧された。「気楽に頑張って来いなんて、絶対に嘘じゃない……」という意味を込めて、先生に恨みの視線を送る。能天気な笑顔で、ガッツポーズを返された。もうダメ、棄権しよう!! と決意した瞬間に、審判から試合開始の号令が発せられた。


「始め!」


 大男(自分ほどではない)が、一気に間合いを詰めて来た。初撃の突きが、喉元を襲う。メアリーは上体をねじり反らし、辛うじてこれをかわす。一瞬、眼前の木剣で左目の視界が塞がれた。体勢を立て直す間もなく、二撃目の突きが腹部を狙う。メアリーは、これを後方に倒れ込んで逃れ、その勢いで回転して距離を取り、立ち上がった。わずかに、場内がどよめく。


 ズレた兜を戻しながら、メアリーは再び、先生に目をやった。「絶対に無理ですって! 棄権して良いですか?」の思いを伝える。先生は親指を立て、何か言葉を発した。口は、グッジョブ! の形に見えた。……コノヤロ~!


 オーソドックスな中段に構え、切っ先をベルゼムの胸に向ける。戦う意志というよりも、私に近づいて来ないで……という心情であった。


 同じくベルゼムも中段に構え、息を整えた。相手との距離は二足ほどか。重く疲労のある今、できれば最初の打ち込みで勝負を決めたかった。自分よりも上背があり、身体能力の高さも解った。練習を見た印象では、技術も決して低くはないはずだ。


 ベルゼムはジリ足で、ゆっくりと距離を詰める。メアリーは合わせて下がり、距離を保つ。


 ベルゼムは圧をかけながら、メアリーが動くのを待った。せんを取るべく、彼女の攻め気に全神経を集中させる。メアリーの表情は、泣くのを必死に堪える幼い子供のように見えた。まさかこの試合に立つ者が、本気で怯えているとでも言うのか?


 メアリーは必死で、大泣きしそうなのを我慢していた。この人、強い! さっきの攻撃だって、かなりヤバかった。こんな人、うちの同級生にはいない。棄権しようにも、そんな事をしたら何を言われるか解らない。最悪、あの先生だったら退学もあり得る。何とか早く終わらせて、この怖い顔をした男の人から離れたい。


 負ければ、あのとんでもない一撃をくらう事になる。痛いのは嫌だから、残された選択肢は勝つしかない。そう結論づいた時、メアリーの腹が据わった。窮鼠きゅうそ、猫を噛むモードに入った。


 表情が消え、メアリーをまとう空気が一瞬にして変わった。ベルゼムに戦慄が走った。――それは、ほんの小さな隙だった。恐怖で重心が後退した刹那せつな、メアリーの上段斬りが飛ぶ。ベルゼムは剣で受けるも、後ろ重心では威力に負けて流される。その分、次の胸部への刺突に対応できなかった。……勝敗は決した。ベルゼムは苦悶に顔を歪め、片膝をついた。


 メアリーがホッとした表情を見せるも束の間、勝ち抜き戦であることを思い出した。恐る恐る、クラーゼン側の控えスペースに目を向ける。全員が、自分に注目している。さらに巨大な体躯をした男が、燃えるような眼差しで笑みを浮かべているのを見て、メアリーは心底の後悔をした。

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