第2話

「ピッピッピーーーッ」


 やっと、終わった。

 手を膝に置いて前かがみになる。


(あれ・・・っ)


 私は自分の考え方がおかしいと思いつつも、相手がタッチを求めてくるのを見て、私は体勢を直してタッチをし、なんとなく出来上がった列に並びながら相手のチームの選手達とタッチしていく。すれ違う相手選手はとても嬉しそうな顔をしていて、私の前を歩くチームメイトの背中は寂しそうだった。


 私は顔を見上げる。

 視野が狭くなっていた私がスコアを見る。




 1対0。

 



 守備のチームで活躍してきたチームにいた私にとって親の顔より多く見た顔見痴れないスコア。

 もちろん、トップレベルで試合をしていれば、このスコアで勝つこともあれば負けることもある。

 

 私のオウンゴールによる点数。


 堅実な守備に定評のある私にとってその「1」はとてもインパクトがあった。

 観客を見ると、みんな残念そうな顔をして荷物を片付けていた。


(ダメだ・・・)


 ロッカールームでもシャワールームでも私の心は雲がかかっていて、治らない。

 それは、ミーティングでも変わらずで、


「気にするなよ、田島」


「はいっ」


 監督の言葉に条件反射で返事はできるけれど、心と頭に入ってこない。

 というか、試合のプレーを思い出そうとしても、あのオウンゴールしか覚えておらず、あとのプレーは何をしていたかわからない。


「あのオフサイドトラップは良かった」


 監督がそうやって、私を褒めてくれる。

 私は一昨日の夢を思い出すかのようにうっすらした記憶をなんとか思い出そうとする。

 そういえば、簡単にマークを外してしまった選手が、ゴールネットを揺らしたことがあったような気がする。けれど、審判が旗を水平に上げて、オフサイドでノーカウントのようになった。けれど、あれは意図したものなんかじゃない。


「ちょっと、田島っ」


 私はそのきつい言葉を発したエースストライカーでFWの長谷部さんを立ち上がりながら、私を見下ろす。


「この試合は、あなたのせいで負けたわ」


 空気が凍る。

 いや、凍ったのは私だけだったのだろうか。

 でも、その言葉がようやく私の心に届いたのも事実。


「だから、この試合はあなたに預けるわ」


「・・・?」


 よく・・・・・・わからない?


「あの~、長谷部さん?そう言うのって、ハーフタイムとかに言うんじゃない?」


 岩本さんが手を挙げて言うと、


「あー・・・、うーん・・・」


 熱くなって長谷部さんは悩んでしまっていた。

 時々コツコツ頑張ってきた私にはわからない天才肌の長谷部さん。

 ときどき、ありえない外し方をするけれど、最初の一撃は必殺の一撃だった。

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