第3話

「どうじゃ、我が愛孫は」



家の外から老人が姿を現し、声を投げかける。



「ええ、良い育て方をなさいましたね。感覚が鋭い。ですが、いささか実践不足な点もあるでしょう」



青年の言葉を聞きながら、老人は満足げに頷く。



「うむうむ。全くその通り。やはりお前に頼むのが正解じゃな。しかし、お前が約束を覚えているとは意外だったぞ。お前は忘れっぽいからな…」


「…あ、あの」


「いやいや、恩師との約束など忘れようにも忘れられませんよ。ましてやあなたとの約束ならね。それに、ことがことですし」


「えっと、あの…」


「そうか、それはよかった。先程の動きからして、鈍ってはいないようだな。やはり、お前に任せるのが正解か」


「はい!恩師の頼みとあれば、喜んで承ります!」


「あ、あの!!」



エマの大声で、ようやく二人が我に帰り、彼女の方に視線を向ける。



「おっと、すまんすまん。置いてけぼりにしてしまった」


「いえ…あの、貴方は一体…」


「それでは、紹介しよう。こやつの名前はイイノセ・ヨウスケ」



イイノセ?

珍しい名前だとエマは思った。



「私の一番弟子で、これからお前の師匠となる男だ」


「師匠?」


「うん。どうもよろしく」


「え、普通に嫌なんですけど」



エマの言葉に青年がずっこける。

よくわからない人だなぁ。


「そ、そんなぁ。僕のこと苦手なんですか?」


「逆に初対面であんな殺気向けられて苦手にならない人なんていませんよ」


老人はうんうんと頷きながらイチノセの方を叩く。


「大丈夫じゃイチノセ。こう見えても恥ずかしがり屋さんなんじゃ。そのうち慣れる」


「いや、おじいちゃんも同罪です」


「なにぃ?!」


「何あたり前のようにこんな得体の知れない人を私の師匠にしようとしてるんですか!やるにしてももっと段階があるでしょう!」


「せ、正論じゃ…」「え、得体の知れない人…」



二人はそれぞれ別の要因でショックを受けている。



「だ、だがな、此奴はすごいんだぞ!強いんじゃぞ!」


「そ、そうです!僕は強いんですよ。一騎当千!勇猛果敢!今や歴戦の猛者であるこのお方をも超える戦士に…」


「なんだと?!生意気じゃ!」


「あいだっ!」


「もういい加減にしてください。私は誰からも教わりませんから!お引き取り願います」


「そ、そんな…。ど、どうしましょう!」


「そんなことワシに聞くな!…な、なあエマ。少し話を…」


「ああもう、うるさい!じゃあ私は仕事してきますから!二人は仲良く家の中で昔話に花でも咲かせててください!」



そう言うと、エマは勢いよく家から飛び出して、そのまま足速に畑の方に向かっていった。

それを口おしげに見送って老人たちは顔を見合わせ…



「…それじゃあ、お言葉に甘えて語り合うとしようかの!」


「ええ!この間いい酒が手に入ったんですよ〜」


「おお、それは楽しみじゃ!」


「「はっはっは!!」」



互いに肩を叩き合い、笑いながら家の中へ戻っていった。

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