第8話 初詣

 午前一時半。

 地方都市の小さな神社。

 種々様々な白息が整然と並んでいる。


 真冬の深夜とは思えない人の賑わい。

 僕はその群の中、数人の男子グループに潜んでいる。

 気心の知れた友人達だ。

 だが僕は彼らに誘われでもしないと今頃、温い部屋で床についていただろう。


 鳥居を潜り、

 石段を上がり、

 参道を歩く。

 人波は寒空に凍えながらも、

 賽銭の額で悩み、神籤の内容で一喜一憂している。

 前年の万事に感謝し、今年の無事を願い、

 友や家族と紅潮した頬を見合わせる。


 それらを遠巻きに眺め、僕も五円玉を投げ入れ柏手をうつ。

 境内を後にしようと歩き出した時、

 お焚き上げで暖をとる女性と目があった。

 赤いワンピースを着た女性。


 別段。

 その人が絶世の美女というわけでも、

 これが恋の始まりというわけでもない。

 ただ赤い衣が朱色の炎に照らされた彼女は–––、


 一本の松明のように見えた。


 視線が離れ。

 彼女は歩き出す。

 僕の白い息は炎の上昇気流に呑まれ、

 オリオン座に向かって霧散する。

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