第10話 邂逅③

 「サシャっ!」


 ブラッドの真下、サシャは降下しながらレイピアを抜き放つ!

 鋭くしなりながら、細身の刀身が風を切る。

 着地と同時に跳ね上がると、ジェリド目掛けて突きかかった。


 ガキンと金属が擦れ、ジェリドは、長槍でかろうじて突きを受け流した。


 「くっ!貴様!」


 早い!ケタ違いの速さだ!一瞬判断が遅かったら切っ先は首筋に触れただろう!

 刀身をくるくる回転させると、サシャは続けざまに突きを繰り出した。


 「俺が女に見えるのか!」


 「そんなこと!」


 「そんなこと!だとっ!!!」


 柄で受けるが、するりと横滑りした切っ先がジェリドの蒼眼に迫る。

 力を込めぎりぎり眼の前で受け止める!互いの武器が交錯し、両者の力が拮抗して動きが止まった。こいつ……力も相当に……!ジェリドがさらに力を込めて切っ先を押し返す。

 恐らく本当に殺す気はないのだろう。先ほどの攻撃といい、すんでのところで意図的に力を緩めているように思える。

 ジェリドはサシャを見た。艶のあるブロンドから覗く眼は、紺碧に輝いている。

 ふと、ジェリドはこの美しい紺碧の眼をどこかで見たことがあると思った。


 「お前……」


 サシャもジェリドを見つめ返す。

 少し驚いたような表情をして、さっと身を翻しサシャは軽やかに反転した。


 二人の間合いは、攻撃範囲外だ。

 ジェリドは、ふうっと一息吐いた。


 「女と言ったのは謝ろう。でもお前のその眼は……!」


 ジェリドはかぶりを振った。

 サシャも不思議そうな表情を浮かべる。初めて会ったのに、どこか懐かしみを感じるのはなぜだろう。

 

 ブラッドは、この様子を遠巻きに眺めている。サシャのいきなりの行動には驚いたものの、サシャがこのままジェリド・アッサムを撃退してくれれば、好都合というものだ。


 「サシャ・アルバ!何をしている!やれ!時間を稼げば、後は私が何とかしてやるぞ!」


 サシャはブラッドを顧みると睨んだ。

 ブラッドが続ける。


 「お前は、婦女子か!侮辱には報復の態度を示すのだ!これは必ずだ!恥を知れ!お前はあの母親のような女とは違うだろう!」


 サシャはみるみる怒りの表情となり、声を絞り出した。


 「死にたいのか……!」

 

 「勘違いをするな!侮辱したのはそこのジェリド・アッサムだからな!お前が一番嫌う〝女〟と、のたまったのだからな!」


 サシャはブラッドを見上げながら吐き捨てた。


 「お前は、いつか必ず殺してやる」

 

 再び、ジェリドを顧みる。ジェリド・アッサムは半ば呆れた表情で言った。


 「もう、よい。俺はお前とはすっかり戦う気が失せたぞ……。俺の目的は金貨、金貨だ!エルドラドの金貨!それだけだ!お前が〝女〟だろうと男だろうとそんなこと!」


 西方の男はやはり一言、多い。

 サシャ・アルバは再び目に怒りの色を露わにすると声を上げた。


 「お前に……女がわかるのか!」


 「女など……いくらでも……」


 ジェリドは勝ち誇ったように首筋に手をやると、ゆっくりと摩った。

 確かにこの男、成人してからというもの女に困ったことはない。


 「ともかくだ!金貨を返せ!俺たちのものだ!盗まれたものを取り返す!そんなこと、誰だって当たり前のことだろう……!“ドクロのモノグラム”の男が追っていた金貨だ!」


 サシャは小首を傾ける。金貨……?もしや、先ほど手に入れた金袋のことか。中身は見ていないが、ふーんどうやらこの男にとって、非常に大事なものらしい。


 「俺が持っているとしたら?」


 「悪いが力づくでも奪うぞ。お前を殺してでもな」


 「へえ、それは面白そうだ。今、俺はすこぶる機嫌が悪い」


 「奇遇だな。前言撤回だ!お前の表情を見ていたら、俺も腹が立ってきたぞ」


 蒼い眼が見つめ合う。二人は再び、武器を構えた。

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