第9話 邂逅②

 ジェリド・アッサムはただ一騎。城門へ馬を走らせた。

 胸部に若干の違和感を感じて、視線を落とす。

 銀の胸当てには、薄く一筋の掠り傷が浮いている。


 「セシビ……なんとかと言ったか……ちっ!少し油断したか……」


 思ったより技のスピードが速い。ジェリドは若武者の太刀筋を思い返した。ガイア軽騎兵は、所詮決まりきった攻撃の一辺倒。どのように攻撃してくるか予想することは容易い。この微かな薄い一筋は、ジェリドの高天原より高いプライドを傷つけた。


 「小僧!今度あったら跡形もなく粉砕してやるっ!」


 怒りに任せて、馬を駆る。黒髪が靡く。鉄仮面から少し汗ばんだ浅黒い肌が覗く。

 城門付近に着くと、ジェリド・アッサムは声を張り上げた。


 「ガイア王城民に告ぐ!ブロンド髪の男はどこだ!この中にいるだろう!」


 ゆらりとブラッド・ローレンスが城壁に姿を現した。城壁の高さは約5メートル。必要以上に高さがないのは、調和と結束を重んじるガイアにとって、クーデタの可能性など微塵も想定していないからだ。


 「貴様がジェリド・アッサムか!」

 

 ブラッドは声を荒げると、遥か街下を指差した。


 「貴様は街を急襲し、多くのガイア民を殺し、果ては王城にまで迫った!貴様の力量は見上げたものだ!だが、あまりに不意打ち!無礼千万ではないか!」


 みるみる顔がゆで上がり真赤だ。地団駄を踏む。


 「そして貴様は、ただ一騎!狙いは何かっ!」


 ジェリドは仮面越しにブラッドを見上げる。仮面をしゅるりと外す。眼が美しい。黒と蒼のオッドアイ。なんと艶のある目だろう。


 「この度の非礼は詫びよう!だが……こちらも無用な殺戮を好んでやるわけではない」


 低音によく響く声質。若く荒々しいが、湿り気のある色気も含んでいる。

 

 「貴様たちも知っているはずだ!〝金貨〟といえばわかるか」


 「金貨?なんのことだ」


 ブラッドには皆目見当がつかない。

 

 「しらを切る気か!」

 

 ジェリドは、ふうと一呼吸置いた。


 「まあ……よい。ともかく、だ。ブロンド髪の男を引き渡せ」


 「お前の要求に応じる気などない!今回の件は、両国に大きな禍根を残すぞ!それでもなお、貴様はこのガイア王城に鉾を向けるのかっ!」


 「今更なにを!ええい、面倒くさい!もう一度言うぞ!ブロンド髪の男を引き渡せ!今すぐにだ!」


 ジェリドが長槍を振るう。風圧に草木が舞い、まわりの空気が一瞬歪んで見えた。



 ふらりと、ブラッドの傍らにサシャ・アルバが現れた。不機嫌そうに、首を傾げている。太陽は既に高い位置にあり、黄金色の髪はいつにも増してさらさらと輝いた。



 「なんだ!男と聞いていたが、!」


 ジェリドの声を聞くやいなや、サシャは大きく跳躍し飛びかかった。

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