第8話 邂逅①
その頃王宮では、ブラッド・ローレンスが屋上のバルコニーから街下を眺めていた。間もなく伝令が駆け込み、戦況を伝える。
「ガイア軽騎兵五十名は壊滅!敵はジェリド・アッサム以下数騎のガラリア近衛兵!間もなく王城に到達します!」
「まさか………」
小さく呟きながら、顎先に細く伸びた鬚を摩る。表情は変わらないものの、面長の青白い顔は、すっかり血色を失っている。もう一方の主力部隊である魔法聯隊は〝へそ〟の調査に出ている。軽騎兵隊が壊滅したとあっては、王城は誰が守るのか!
ブラッドは慌てて王の間に駆け込んだ。
「軽騎兵隊は壊滅!ジェリド・アッサムは間もなく王宮に達するとの報!」
シグルド・アルバトロスは王座に佇み、沈黙を守っている。
「魔法聯隊は〝へそ〟の調査に出ており、帰還までは数日!事態は一刻の猶予も許しません!」
がらんとした王間に甲高い声が響き渡る。
ブラッドは、今更ながら主力両部隊を同時に王宮外に派兵したことを悔やんだ。魔法聯隊不在の間隙を突かれたとして、我ら大国ガイアが誇る軽騎兵隊の精鋭が一瞬で壊滅するなど誰が予想したであろうか!
「かくなる上は、私が防戦に当りましょう」
ブラッドはこの失態を取り返すべく、自ら派兵を志願した。
『政策と貴族の家』名門ローレンス家は、代々が魔法に長けている。ブラッドもガイア一流の使い手であり、特に防御魔法を得意としている。
だがしかし、だ。王城門で敵を食い止めるにせよ、宰相であるブラッド自らが出撃するということは、指揮命令系統が一時的に停止することとなる。
万に一つも考えたくはないが、あのオグマ・ライオンハートが攻めてきた場合はどうする!ジェリド・アッサム隊の急襲原因も分からぬ中で、果たして……。
ブラッドは一しきり考えを巡らせた後、王の傍らで呆けた顔で佇んでいるサシャ・アルバに目をやった。
こいつがいるではないか……。
レイピアを突かせたら、ガイア中を探しても右に出るものはいない。大体、サシャの父、東海警備兵付きメジト・アルバは何をしていたのだ!この非常事態に平和ボケをして、防備を怠けたのではないか!
〝へそ〟が戦略的緩衝地帯となっている以上、西方からの侵入は東海からしかあり得ないのだ!
「サシャ・アルバ!すぐに出撃せよ!今すぐだっ!」
「なぜ」
「状況はわかっているだろう!街は焼かれ、敵は眼前に迫っている」
「知ったことか…」
「お前に期待など!私がでるまで時間を稼げばよい!」
「勝手なことを!」
今にもブラッドに飛びかかろうとするサシャを、雷のような声が遮った。
「ご注進!ご注進!!!」
「申せ!」
「ジェリド・アッサムただ一騎!王城に向け駆けてきます!」
「ジェリド一騎のみだと?やつめ!一体どういうつもりだ!」
薄毛を掻きむしりながら、右往左往する。
「シグルド王。いかがいたしますか…」
シグルドは一切の姿勢を崩さない。
真正面を見据えたまま、重い口をゆっくりと開いた。
「捨て置け」
ブラッドは平伏し、畏まった。目を伏した横顔はすっかり血色を取り戻し、紅潮している。
青くなったり赤くなったり…まったく忙しいやつだ、とサシャは思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます