第7話 メロウ・アリーナ

 その頃、この様子を城壁の陰から眺めていた者がいる。


 鮮やかなショートの紫髪に、小柄な体格。華奢な線の割に、大きな胸元が目立つ。

 腰にはショートダガー、短弓を半身に掛けるが、胸の谷間に紅紐が挟まっている。

 名を、メロウ・アリーナと言う。ガイアの諜報官である。


 「あぁ……神様……!今日はなんて日なの…推しが、ジェリド様が!この街に襲撃してくださるなんて……」


 内股気味にモジモジしながら、恍惚とした表情を浮かべている。


 「よくはわからないけど、あれやこれやの武器やら技も繰り出しているみたいだし、掛け声のような声も発していたわ。か、掛け声…!お声が直接耳に……あぁ……ジェリド様の声が私の耳の奥深くに……」


 伏し目がちに首を左右に振りながら、目は潤み、頬を赤く染めている。

 突然、キッ目を上げ、呟いた。


 「しかしながら!あの女!!!」

 「ジェリド様に攻撃するだなんて!許せない……!」


 「でも……」


 また伏し目がちになり、小さく呟く。


 「でも…でも…もっと攻撃が当たれば、綺麗なお顔が見られるかも…いえ、決して仮面姿がダメっていっているわけじゃないわ。すでに仮面萌えも堪能してる。でも、でもね、シチュエーションとして、不可抗力でもチラ顔をみられたら、眼福極まれり……」


 「不可抗力……不可抗力……」

 「ちょ、諜報官としての敵内情視察の絶好の好機でもあるし………」



 メロウは参戦を決定した。


 「い、いくわ!とりあえず近くまで」


 ジェリドまでは約30メートル程。メロウは体を左右に揺らしながら駆けた。

 女に向けて長槍を振り下ろすジェリドが視界に入る!


 「あぁ、あの長い手足、かっこいい……」

 「青髪の女はどうでもいいけど、でも!」


 胸から長弓を外し、素早くまず一射!

 ジェリドが振り向く。矢を叩き落とす。

 続けて二射、三射。ジェリドは軽く叩き落とす。


 「今度は、アーチャーか!まったく次から次と小蝿のように!」


 ジェリドはいら立ちを隠せない。仮面越しの息が少し上がる。


 「お前らに用はない!“ドクロのモノグラム”の男を知らぬか!」

 

 「その前に貴方!名を名乗りなさいよ!私はではないわ!」

 

 リナが言い返す。


 「私の名は、『政策と貴族』の家、フローレンス家の長女。リナ・フローレンス。女に切りつけるなんて信じられないわ!」

 「それから、そこの紫髪の女の子!加勢に感謝する!貴方は西方のひと?それとも東方のひと?」


 慌ててメロウが返す。

 「わ、わたしは、『諜報と農民』の家アリーナ家の次女。メロウ・アリーナよ!」


 ジェリドが二人を見つめる。

 「俺は、ジェリド・アッサムだ。名乗るまでもないが……」


 (嫌なやつ!)

 ⇒リナ・ローレンス

 (わ、わたしを見てる認識してる!あのジェリド様が……尊み秀頼一……)

 ⇒メロウ・アリーナ


 「我の名は、『政策と貴族』の家、ビラク家の長男。セシル・ビラ……」

 「あなたは下がってて!!!」(リナ&メロウ)


 「ふん!俺だっていたずらに女を傷つける趣味なんてないさ」

 「何度も言わせるな。“ドクロのモノグラム”の男を追ってここまで来たのだ!」


 (“ドクロのモノグラム”…?そういえば、さっきの狼藉ものたちのバンダナに……)


 リナはお喋りな西方のならず者を思い出した。


 「それって、金貨を追っている……」


 「お前!知っているな!その男はどこへ向かったか言え!!」


 「それなら私が焼き払ったわ……」


 「焼き払っただと……なんてことをお前……まぁよい、そいつの持ち物はどこだ」


 「知らないわよそんなの。金袋ならば、あのブロンド髪の男が……」


 「ブロンド髪の男!そいつはどこだっ!」

 

 「それならば王宮に……」


 「ふむ。やはり王宮にはいかねばならないか」 


 ヒュンヒュンと1矢、2矢。ジェリドが長槍で弾く。


 「お、王宮にはいかせないわ!(不可抗力!)」

 

 「俺は用事を済ませたら帰る。だからお前らはだまっていろ!」


 カッカッとジェリド・アッサム騎兵隊が参集してくる。

 ガイア軽騎兵の屍がそこいらに転がっている。


 「よいか!これより王宮に向かうぞ!」

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