第5話 ガイア軽騎兵①
とばせ!とばせ!市街地までは約五キロの距離。
市中の噴水広場を過ぎる。まだここまで火の手は上がっていない。
王宮方面へ逃げまとう市民の間を掻き分け、セシル・ビラクとネビル・エルンストの先方隊も馬を走らせる。街下南方のバザール地区は真っ赤に燃えている。王城へ炎が達するのもそう時間はかからないだろう。
「消防隊も気の毒にな。敵から砲撃されてるんじゃ成す術も」
「やつら、必ず追い払ってやる!」
家屋から灰が舞う中を、ドドウと騎馬が走り抜ける。
遠巻きにボンボンと至る所で銃声が響く。
セシルは声を張り上げた!
「ネビルよ、見よ!」
「あれが魔導短銃か!」
ネビルが野太い声を上げ応じる。
「俺も初見だ。なに、あれ自体は恐らく大したことはないだろう。やみくもに撃っても騎馬には当たらんさ!」
銃声が近づくにつれ、数体の市民の遺骸が見えた。うつ伏せに寝転ぶもの、焼け焦げた手足が固定され、動かなくなっているもの。無残に息絶えた市民は、ほんの数時間前まで、これまでと変わらない長閑な一日のはじまりを過ごしていたのだ!
「なんだってこんな……!」
セシルは、声にならぬ呟きを絞り出した。鼻孔に吹き込む熱風を感じる。喉の奥から気色悪い吐き気が込み上げてくる。
「ガラリア騎兵だ!」
焔の向こう側に、ゆらりと十騎程の影が現れた。
ガラリア近衛騎兵。全員が鉄仮面を被っている。黒鎧を纏い、手には小銃、腰には手槍を挿している。中央には人一倍目立つ銀鎧を纏った男。表情は分からないが、こちらを睨んでいるようにも思える。
あれが、、、中央兵団が互いに遭遇するのは初めてのことだ。国境付近で守備兵による多少の小競り合いはあった。だが、白昼堂々この大国ガイアの首都ロトに近衛兵が乗り込んでくるなど、前代未聞である。
ガイア側軽騎兵は約五十名。数的有利は明らかだ。
さてどうしたものか・・・。軽騎兵隊長は思案する。速やかな敵方殲滅は図りたいが、如何せん市街地ど真ん中。逃げ遅れた市民の安全も気掛かりだ。
一瞬の思案の隙をつき、敵方から3騎がこちらへ突っ込んでくる!
「まさか、たった三騎で・・・!」
中央から銀鎧の男が長柄槍を振り上げ突進してくる。両脇に黒鎧のガラリア近衛兵が魔導短銃をこちらに向け構えている。
「くっ!迎撃準備!先方はやつらの動きを止めよ!」
先手を取られたガイア軽騎兵団は狼狽えた。騎兵は守備には向かない。機動力を活かした突撃こそが強みなのだ。やむなく、鶴翼の陣形で敵を中央に誘い込む。
「たった3騎だ!囲め!鶴翼から方円へ。敵将の殲滅を図る!先方は後続からの突撃にも備えよ!」
セシルとネビルも迎撃に転じる。まずは、正面突撃を食い止めねば!
黒鎧のガラリア近衛兵は今にも発砲しそうだ!
「間に合うか!」
「距離は、近いさ!」
セシルは騎馬の横っ腹を締め上げると、一目散に突撃する。
先に距離を詰められている以上、カウンターの格好となった。
ボンッと轟音がなり、火炎弾が頬を掠める。頬肉が焦げる匂いがセシルの鼻孔奥深くに刺さる。痛みに勝る闘争本能が、セシルの身体を熱くする。
ぐんぐんと距離を詰める。
一閃!!
ロングソードが黒鎧のガラリア近衛兵を袈裟懸けに切り伏せた。脱力して崩れ落ちるガラリア兵!
「やるなセシル!」
「これまで十五年も訓練してきたんだ!あんなまがいものっ!」
セシルの攻撃を横目に、ネビルも、もう一騎を横殴りに斬りつける。確かな手応!ガラリア近衛兵は、ぐらりと逆さにずり落ちた。
「もう一騎!」
銀鎧を纏った長身黒髪の男!
ジェリド・アッサムに違いない。
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