第3話 王宮にて

 さて、王宮。


 皇帝シグルド・アルバトロスは、玉座に鎮座する。


 黒塗面金の王座は煌びやかなれど、王宮の造りは質素簡潔だ。

 高さのない段差上を4本の木柱が囲み、両脇には紫の帳のみが掛けられている。


 「もう、間もなく来るでしょう」


 傍らで、宰相のブラッド・ローレンスが囁く。

 ふむ、と王は軽く頷いた。

 胸元にはあほうどりの刺繍が施された青銅の鎧。僅かに傾く。


 「サシャ・アルバ様が、お越しになりました!」 


 「通せ」


 衛兵が長槍を下ろす。

 ブラッドが手払いをする。衛兵は、整然と隊列を組んで奥へと引き下がった。


 「来たか。サシャ・アルバ」 


 「ブラッド、俺に一体なんの用だ」


 「まあ、そういうな。貴様だって、暇を持て余しておろう」


 「なにを!」

 

 サシャがブラッド目がけて、つかつかと近寄る。眼を凝視する。黄金色の髪の隙間から、紺碧の瞳が覗く。

 

 ブラッドは、サシャの勢いに少したじろいだ。


 「下がれサシャ・アルバ。御前であるぞ」


 「どちらが暇か!小間使いなら、宮女にでも頼めばよかろう!」


 傍らで、頬杖をつきながらシグルド・アルバトロスが眺めている。


 「サシャ、今日は重要な用事があって貴様を呼んだのだ」


 「ほう。古書の整理か、リュカまでのお使いか、はたまた番犬イシスの世話か」


 「無礼なやつめ!」

 

 頬を紅潮させながら、ブラッドが叫ぶ。


 「まて」


 シグルドは、手を翳すと、ブラッドを制した。


 「私から、話そう」


 静かながら、はっきりとクリアに響く低音。

 壮年の落ち着きと自信は、迷いのない声質にも顕れている。やはり、この方は生まれながらの王だ、とブラッドは思う。重厚端厳の佇まいは、他者を圧倒する威厳を備えている。

 

 「下がれ」


 しぶしぶ下がるサシャ。畏まる。平伏する。



 その時である!

 衛兵が、慌てた様子で王の間に入ってくる!

 

 「ご注進!ご注進!!」


 「なんだ!」


 紅潮したままのブラッドが声を張り上げる。


 「敵襲!敵襲!!!」


 「なに!敵襲だとっ!?」


 「王都ロトの街下南門よりガラリア近衛兵、ジェリド・アッサム騎兵隊!」


 「ジェリド・アッサム?ガラリアの近衛兵長が、なぜここにいる!」


 「詳細不明!南門は既に突破され、市中への侵入を許しています!」


 「くっ!迎撃準備だ!王宮手前で何としても食い止めろ!」


 「はっ!!!」


 「敵襲だと…この600年、西方との戦闘など……」 


 「しかも…不味い…主力の魔撃大隊は海賊殲滅のため東海派兵中だ…このタイミングで敵襲など……」


 みるみるうちに、ブラッドの顔面が蒼白に変わっていく。

 顧みる。王は、黙して動かない。


 「シグルド王…ガラリア国王オグマ・が動いたようです」


 表情は変わらない。

 だが、ゆっくりと深く息を吐く。

 シグルド・アルバトロスは呟いた。


 「で、あるか」

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