第21話 幼馴染と母親

前半と後半で温度差あり。


ーーーーーーーーーーー



──どこまでも相容れないと思った。


俺が何かを話そうとした矢先、少しは信じても良いかと考えた矢先、母親は余計な事をして俺の決意を台無しにした。


悪気がないからこそ、ますます嫌気が差す。


俺がどれだけ姫田愛梨を嫌ってるのかを話してないから、一時的な喧嘩だと考えているんだろう。


それに、姫田愛梨が偶然あの場所を歩いてたという間の悪さ……もう何もかもが母との和解を拒むように思えてならない。


今、車内には俺と母さんと姫田愛梨の3人。

運転席には当然母さんなのだが、後部座席には俺と姫田愛梨が並ぶように座っている。


急に招き入れるから唖然としていたのもあるけど、俺の制止は間に合わなかった。


運転中に降ろす訳にもいかないし。


……いや、そんなことないか。



「姫田愛梨、窓から降りろ」


「え?走行中だよ?」


「何言ってんだ?そんなの関係ないだろ?」


「真顔で何言ってんの?──あ、もしかして映画に憧れてる?生スタントが観たいんでしょ!?そうなんでしょ!?」


「うん、そうだよ……みせて」


「え?無理だけど?」



──ドゴッ



「あ、いたい!──なんで肩を思いっきり叩くの!?」



──思わず愛梨を叩く雄治。

しかし、後悔の類いは微塵もなかった。


因みに、この暴力はツッコミでもなんでもない。

怒りが蓄積させて生まれた純粋な破壊行動だ。


そこには憎しみしかない。


そして、流石に杏奈も母親である以上、黙って見過ごせない案件でもあった。



「ゆ、雄治……ぼ、暴力はダメよ?」


「………分かった」


雄治は取り敢えず適当に頷いた。



──誰の所為でこうなってると思ってんだよ。

俺は、色んなことを経験して、もう一度、話す機会が作れたらと真剣に考えていたのに。

和解は……直ぐには難しいかも知れないけど、今日をキッカケに出来れば、少しは前に進めると本気で思ってた。


それなのに……こんなのを乗せやがって……


俺は隣に座っている姫田愛梨を睨み付ける。



「……すぅ〜……はぁ〜……」


「愛梨ちゃん?深呼吸してどうしたの?」


「いえ……ゆうちゃんの臭いを味わってます……車の中って充満しますよね」


「……………」


…………


…………


やべ、また手が出そうになった。


……コイツは人を怒らせるプロなの?


マジでムカつく。


ドラマや漫画なんかでこんな言葉を聞く。


『好きの反対は無関心』


そんな事はない。

いやもう全然そんな事はない。


誰だよ、適当なこと言いやがって。

どう考えても憎しみしかないわ。

好きの反対は明らかに殺意だからな。


俺は見るからに不機嫌そうな態度をとっていた。

すると、観かねた母さんが姫田愛梨に声を掛ける。



「あはは……あ、愛梨ちゃんって、そんな冗談言う子だっけ?」


「はい!これからは自分に正直に生きようと思いまして!」


「あらそうなの?」


「はい!!」


「………じゃあ本気で匂い嗅いでたって事?」


「え?……だからそうですけど?」


「………そうなのね」


(私がおかしいのかしら?)

(コイツ相変わらずやべぇな)



バックミラー越しに、母さんが俺の顔色をチラチラと窺ってるのがハッキリと分かった。


(後悔してんだろうな、姫田愛梨を乗せたこと……いや

なんか苦笑いしてるけど、これを招き入れたのアンタだからな)



この人は、いつもやらかしてから失敗に気付く。

昔はそんな抜けた所も嫌いではなかったけど、今は逆にそういう所が好きになれない。



「母さんは、いつだってそうだよね」


「え……雄治?」


「俺は歩いて帰るから、降ろしてよ」


「──!?」


もう本当に限界だった。

この空気感は耐えられない。


今日は、もう母さんと話さなくても良い。



「ご、ごめんなさい、雄治……愛梨ちゃんがここまでおかしくなってるとは思ってなくて……」


「私、別に普通ですけど?」


「ごめんなさい、ちょっと静かにね?」


「あ、はい」


母さんは今更になり、自身のやらかしに気が付いた。

だけど悪気がないんだもんな……純粋に仲直りさせようと姫田愛梨を乗せたんだろう。


だからこそ避けられない。

俺が姫田愛梨との決別を話さなかった以上、この場を逃れても、何処かで母さんは俺と姫田愛梨を引き合わせようと躍起になった筈だ。


そうさせてしまうほどに少し前の俺と姫田愛梨は仲が良かった。それ故に、俺が母さんに心を開けば開くほど、その可能性が高くなったと思う。



「ま、待って、雄治!」


再び信号待ちになった所で俺は車を降りようとした。

それを真っ青になりながら止めようとする母さん……でも、今更後悔しても遅い。


隣に体臭を嗅ぐ女が存在しているクルマには1秒も乗ってられねーよ。



「……ゆうちゃん」


「なんだ姫田愛梨」


「フルネーム止めて?」


「それでなんだ姫田愛梨」


「ゆうちゃんが降りる必要ないよ」


「ああん?」


「……私が降りるから」


「え?」


「そんなに嫌がるとは思ってなかったの……本当だよ?」


「…………そうか」


「ゆうちゃんが雨に濡れる必要ない……風邪引いたら大変だしね?」


「……そうか」


「だから……ごめん、ね」


「そうか」


「…………」


「はよ降りろよ」


「引き留めて欲しいんだけど?」


「降りて欲しいんだけど?」


「……………」


「……………」


「……………」


「やっぱり俺が降り──」


「ご、ごめん雄治……青信号だから車発進させるわね」


「………あ」


姫田愛梨にハメられた。



「やたらゴネてたのは、信号が青になって『ウチの母親』が発進せざるえない状況に持ち込む算段だった訳か」


「え?違うよ?──ゆうちゃん何言ってるの?」


「……………」


ぶっ殺してぇ……


え?俺コイツのどこが好きだったの?

外見しか取り柄ないだろ?

つーか俺的には姉ちゃんとか、金城さんとか、楊花とか……まぁ一応、高宮生徒会長の方が美人だと思うし。


だからマジでどこが良かったのか分からん。

黒歴史ってレベルじゃねーぞ。



……ああもういい、馬鹿は無視してしまおう。

というかマトモに受け答えして馬鹿みたわ。


俺は窓の外を眺める。

姫田愛梨からエゲツない視線を感じるが、殴りたい気持ちを抑え込み、黙って目を瞑る事にした。



「………ウチの母親、か」


「お義母さん、どうしました?」


「お義母?──いえ、なんでもないわ……それより、雄治と、どうして喧嘩したの?……雄治の怒り方は尋常じゃないわよ?」


余計なこと聞かなくていいから……まぁ、もうコイツらと話す気はないし、勝手にしてくれ。



「それは──」


隣に雄治が居るにも関わらず、愛梨は悪びれる様子もなく事情を説明した。


雄治からの告白を保留にした事。

返事を保留にしたまま彼氏を作ってしまった事。

恋人が居るにも関わらず、雄治を束縛しようとした事。



「──な、なんてこと……」


話を聞いた杏奈は先程よりも顔を真っ青にしていた。

スーパーが近場だったのもあり、既に家に到着しているのだが、雄治はとっくの昔に車を降りている。


冗談ではなく、もう母親と姫田愛梨に関わりたくないようだ。それが分かるから、杏奈はこんなにも真っ青に顔色を変えていた。



「……愛梨ちゃん……なんて事を……」


「で、でもちゃんと反省して……」


(ああ雄治は、私だけでなく愛梨ちゃんにも裏切られて居たのね)



ただ、自分と同じように取り返しがつかなくなる前に仲直りして欲しかっただけなのに、愛梨のやらかしは簡単に許される事ではない。

告白を保留にしたまま恋人を作るなんて、言ってしまえば都合良くキープにされているようなモノだ。


ただの知り合いでも酷いのに、幼い頃からずっと一緒に過ごした関係であるなら尚更だ。

それなのに、杏奈はお節介を焼き、愛梨を車に乗せてしまったのだ。



──杏奈はショックのあまり、ハンドルに頭を置いたまま動けなくなっていた。


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ギャグっぽいですが、雄治はマジです。

次回も地獄は続きますが、可憐さんやレイナも居るので程よい地獄になると思います。


前回の話、かなり久しぶりに10件以上のコメントを頂きました!


とても嬉しいです!









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