第13話 少女の信頼
『雄治、本当にごめんなさい』
「桃花、本当にごめんなさい」
『雄治、お父さんにも本当の事を話しましょう』
「桃花、お父さんには黙ってて」
『雄治に壊れて欲しくないの』
「家族を壊したくないの」
自分の母親と照らし合わせてしまう。
そして驚かされる……何故ならあまりにも違ったんだ、対応が本当に違う。
桃花の母親は家族を壊したくないからと、娘の口を閉ざそうとしている。
だけど俺の母親は、俺を壊さないため父さんに全部を話そうとしていたのに、その口を俺が閉ざした。
俺は自分から壊れる道を歩み、桃花は自分の母親から壊れる道を歩まされようとしている。
どうしても許せなかった。
その先にある苦しみが理解出来てしまうから許せないんだ。
何年も苦しんで、幼馴染の愛梨とかいうボケに裏切られ、そんな負の連鎖が積もり積もって楊花まで話を聞かずに突き放してしまった。
同じ思いを桃花にさせたくはない。
だから止める事にした。他人の家庭に首を突っ込むのがどんなに愚かなのかは常識として分かる。
だけど……ほっとけなかった。
「浮気した自分が悪いんだろ?」
「あ、貴方には関係ないでしょ?!」
「関係ありますよ、桃花さんに頼まれて来たんですから」
「桃花……あなたねっ?!」
桃花に向かって怒鳴り声を上げる。
何に対し怒っているのか?他人に痴情を知られたから……?それとも娘に信じて貰えてなかったから……?
どちらにせよ最低な母親で間違いない。
「取り敢えず、背後にも金城さんと変な生徒会長が居るんで逃げられないですよ」
すると生徒会長と金城さんが姿を現した。
俺の言葉に反応したようだ。
「……話は聞かせて貰いましたわ」
「…………私もです(変な生徒会長?)」
敵対する相手が増えると、人間はそれだけで威圧される。お陰で桃花の母親は更に動揺していた。
「私はこれで失礼する」
隙を見計らい、恥ずかしげもなく逃げようとする浮気男──だが逃す訳がない。
俺は周り込んで行手を阻んだ。
「ど、どいてくれたまえ!」
「逃げても良いですけど、全部こっちの良いように話が進みますよ?──まぁこっちに非はないんで居ようが関係ないと思いますけど……状況は知っといた方が良いんじゃないですか?」
「………くっ!」
観念した浮気男は黙って頷いた。
そして桃花の彼に対する敵意は尋常じゃない……恨み籠った目で睨んでいる。彼女にすれば一番恨むべきは奴なんだろう。
母親と違って情がないから骨の髄まで恨めるんだ……その気持ちは痛いほど分かるぞ。
そんな桃花の背中を金城さんが背後から摩り、少しでも少女を安心させようとしていた。
生徒会長は『変じゃないもん』と呟きながら俺を睨んでいる。ごめん。
「わ、わかった……だが、私にも家庭がある。それを壊したくはない。金で解決できるならばそうする……だから──」
「俺にそれを言われても仕方ないですね。当事者は桃花さんですから……というか、人の家庭を壊しといて、そんな逃げ方は図々しいですよ?」
「…………」
そういうと俯きながら席に戻る浮気男。
年齢は40歳くらいか……桃花の母親が30歳前半くらいだし、結構歳は離れている。
まさか逃げようとするとはな……良い歳して非常識な男だ。
まぁ常識が有れば浮気はしないし、詰んでいるこんな状況で逃げたりしないか。
俺は次に桃花の方を見た。
金城さんに励まされ続けたお陰でだいぶ落ち着きを取り戻している。
俺も安心させる為に声を掛けた。
「桃花……俺たちを頼ってくれたんだから最後まで付き合うし何があっても君の味方だ。自分のやりたいようにしてくれて良い」
「………ありがとう」
(もっと適当だと思ってたけど、真剣に付き合ってくれる……雄治お兄ちゃんに相談して本当に良かった)
桃花は涙を拭って前を向く。
雄治がどこまでも味方だと分かったから、それが心強かった。
最初は保険のつもりで、ただ歳上で話の分かる人に来て貰いたい……そう思っていた。
だから交流会で小学生の女の子に慕われていた雄治に目を付けて頼る事に決めたのだが……今では雄治を頼って本当に良かったと、桃花は心の底から思っている。
そのお陰で勇気を振り絞る事が出来た。
「お父さんには話すよ」
「桃花!!こんな人に騙されないで!!」
「私を騙そうとしてるのはお母さんでしょ!?それに雄治さんはこんな人じゃない!!私の相談事も真剣に聞いてくれる優しい人だよ!!」
「……そうだよ!後輩くんは凄いんだよ!」
「生徒会長……少し静かにお願いしますわ」
女子は苦手なのに、ここまで信頼されると悪い気がしない。もともと桃花とは似たような苦しみを味わっている者同士だし。
金城さんもちゃんと桃花を落ち着かせてくれたし、彼女も連れて来て本当に良かったと思う。
生徒会長は……まぁ……
──それから桃花は父親に連絡をする。
事情を聞くと仕事を途中で切り上げて1時間程で到着した。
浮気男を見るやすぐさま殴り掛かって行ったが、暴力を振るうと不利になる可能性があったので急いで止めた。
「皆さん……桃花の為にありがとうございます」
父親は礼儀正しく礼をしてくれる。
優しく柔らかな印象の男性だ。こんな人が激昂して殴り掛かるのだから、よっぽど浮気が許せなかったんだろう。
浮気女……もとい、桃花の母親はまるで自分が被害者かのようにずっと泣き続けていたが、周囲の視線は依然として冷たいモノだった。
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次回は6月14日 12:00に更新します。
『冤罪で大切な人達に傷付けられた少年、無実の罪だと分かった後に謝られても絶対に許さない』
も投稿してます。
宜しくお願いします。
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