第10話 対峙する親子
明日が書けないので、1日早く投稿しました。
宜しくお願いします。
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「ここで待っていれば来ると思うんですけど」
「へぇ〜……こんな所がありますのね」
「はい……私も、母を尾行しなければ気が付き来ませんでした。とてもオシャレな店です」
「私も雰囲気の良い店だと思うっ!」
「生徒会長の通う学校からも近いよね」
「……うん、桃花ちゃん……ねぇ?どうして私にはタメ口なの?」
今日は日曜日だが、桃花の父親は会社の同僚と釣りに出掛けているらしく、眉浦家には母と娘の桃花しか居ない状況だった。
すると案の定、少女の母は何者かに連絡を行い、この場所で待ち合わせをしていた。
桃花は名前だけを覚え、後ほどインターネットで検索し場所を特定したらしい。
とても良い時代だ。
それにしても何と無用心な母親か。
まさか娘に浮気を疑われているなど微塵も考えておらず、桃花の母は白昼堂々と誘いを掛けていた。
丁重に待ち合わせ時間までも全て通話で済ませていたので、桃花は真相を明らかにするチャンスだと考えた。
本当なら今日は対策を立てるだけだったが、急遽その予定を変更し、雄治達とこの店に先回りしたのだ。
ただ、チャンスだとは思いつつも、通話を聴いた時には桃花の目から大粒の涙が溢れていた。
楽しそうな会話も全部ハッキリと聞いてしまった……会話の内容で、通話先の相手とはただならぬ関係としか思えず、桃花の中でほんの少し期待していた【勘違い】という希望は脆くも崩れ去った。コレで本当に何もかも終わりだと……少女は諦め泣いた。
「……この場所は」
「ん?雄治様?どうしましたの?」
「……いや、何でもない」
ここは姫田愛梨と良く通ってた喫茶店だ。
人目に付かない住宅街にある小さな店──なるほど、確かに密会場所には打って付けだな。
しかし、まさか自身と縁のある場所とは……此処まで来ると運命的過ぎて笑える。でもこの店には出来る事なら近付きたく無かった……だって、どうやったって姫田愛梨のアホ面が脳裏を過ってしまうからだ。
「あっ!奥の席っ!あそこだと本棚が死角で見つからなそうですね!」
眉浦桃花の指差す先……あそこは姫田愛梨と来る時いつも一緒に座っていた席だ。今になって思うと四人掛けの席に二人で座ってたんだよな?しかも数時間くらい入り浸る事もあったし、店の人に申し訳ない事をした……でも常に客居なかったから大丈夫か?
「ちーす!お客さん4人っすね!」
「あの、あちらの席で宜しいですか?」
「あ、オッケーっす。つーかネーサンすげぇ服っすね!デジマやば過ぎでしょガチでっ!プレコスっすか?ヤッベ!」
「……癖の強い店員ですわね」
四人は頭のイカれた店員に席まで案内される。
──そしてもちろん、高宮生徒会長と金城可憐の間で勃発する『誰が雄治の隣に座るか』という大勝負。
可憐は100%恋愛感情、高宮は良く解らないが雄治の近くに座りたい……それぞれの邪な想いが交差し聖戦は始まった。
まず、雄治が座ったのを観てから動き出すのが定石である。ここを間違えると雄治とは座れない。何故なら雄治という男は女性不信に関係なく、最初に座った人の対面側に座るタイプの人間だからだ。
それと二人で先回りしてもダメ。
例えば可憐と高宮が向かい合って座った場合、どちらかが選ばれない事になる。そうなったら選ばれなかった方がメンタルをやられてしまう。
故に雄治の動きを見極めなくてはならない。先手必勝の大勝負だが、僅かでもタイミングを間違えば雄治の隣に座ることは叶わない。
隣に座るのと向かい合って座るのとでは明らかに質が違う。例えば隣同士ならわざと間違えて肩を触れ合ったり、雄治が飲んだものをわざと間違えて飲んだり、都合良く行けば手と手がわざと間違って触れ合ったりも出来る。
要は隣人の立場を利用して、公に好き放題イチャイチャすることが出来るのだ。
しかし、正面だとただ見てるだけになる……しかもこの場合、意図したハプニングを見せ付けられる事となるのだ。そうなると奥歯を噛み締めながら、もどかしい気持ちとなり深い絶望感を味わう。
「………ッ」
「……ふぅ」
そんな屈辱、高宮も金城も味わいたくなど無かった。故に真剣になって雄治の動向を観察していた。
(なんか生徒会長と金城さん、アホなこと考えてそうだな)
目をギラつかせる二人を観て、雄治はどうせロクでもない事を考えていると悟った……しかし、二人の思惑までは解らない。
故に取り敢えず席に座る事にした。その行為こそが開戦のゴングだとも知らずに……
「……ッ!!」
「……今っ!」
それを見計らって二人は同時に動き出す。
運動音痴の高宮もこの瞬間に限り限界を超越していた。可憐も動き難い服装など意に返さない軽やかな動きで雄治へと迫った。
「……あっ!」
「……ふっ!」
そして僅かに金城可憐がリード。
高宮よりも先に雄治の座った席へ迫るのであった。
「なんのっ!」
「……くっ!」
しかし、高宮も負けじと食らい付く。
両者一歩も譲らず、激しい攻防は雄治と桃花にバレないギリギリのラインを保ちつつ熾烈さを増す。
「あっ!私お兄ちゃんの隣ねっ!」
「え?」
「ふぇ?」
──ひょいっと、桃花は雄治の隣の席になんの躊躇いもなく座る。
まさかの第三勢力、予測していない所からの奇襲に、二人は見事出し抜かれてしまったのである。
「「ズゴーーーッ!!」」
両者とも盛大にズッコケる。
まさに無欲の勝利だ。桃花には雄治とイチャイチャしたい等という下心なんて無いのだから。
そしてズッコケた二人を、それはもう氷点下に冷めた目で雄治と桃花は見下ろしていた。
(馬鹿だなこの二人)
(可憐さんはマトモだと思ったのに……もうお兄ちゃんだけ居れば良いかも……帰ってくれないかな)
───────────
何事もなかったかの様に、可憐と高宮は向かいの席に座った。口惜しさは残るが痛み分けなら気持ち的にセーフ……加えて桃花は敵にはならないと二人は直感的に察している。
「ここのアメリカンエレガントスペシャルコーヒー、美味しそうですわね。これを頂けますでしょうか」
「かしこまりっした」
金城さんが頼んだコーヒー……姫田愛梨がいつも頼んでた奴だ。この店を訪れ、更にこの席に着いたのもそうだが偶然もここまで来ると恐ろしい。
「じゃあね、私はスペシャルバナナパフェねっ!」
「かしこまりっした」
生徒会長が頼んだのは、コレまた姫田糞愛梨がいつも頼んでたデザート……もしかしてさっきからワザとやってない?
「う〜ん……私はミルクセーキ。食べ物はいいです」
「かしこまりっした」
あ、コレは姫田愛梨が頼まない奴だ。
もう俺の味方は眉浦桃花だけだよ。
そんな眉浦桃花はソワソワと忙しない様子。
いや無理もない、刻一刻と時間が近付いてるんだからな……もう間もなく、この子は決定的な場面に立ち会う事になる。
取り敢えず俺も何か頼むか。
「アイスティーをお願いします」
「ちっ、かしこまりっしたハーレム野郎」
「ん?なんだ急にこの野郎」
そういやコイツ、前に石田と一緒に来た時、俺に恥を描かせてきた男じゃねーか……てか態度悪過ぎだろ、腹立つな。
ムカツクし、いつもの手でビビらせるか。
「いいのか?俺は坂本優香の弟だぞ?」
「いや誰すかそれ」
何?姉ちゃんの威厳が通じないだと?
「……さてはお前カタギだな?」
「うっす。見た目チャラいすけど、酒もタバコもしませんし、先生に怒られるようなこともしやせん。あ、あと暇な時は老人ホームにボランティア行ってます。うっす。おばあちゃんっ子っすマジで」
「めっちゃいい奴じゃん。なのになんで俺にそんな態度なの?」
「あっ、恭介兄ちゃんの弟なんで──それにぃ?前に家でも会ってるっすよ?」
「え?碓井の弟なの?」
「うっす。兄ちゃんがなんかー、雄治はドMだから態度悪く接しろって……ドMとか雄治さんぱねぇっすね」
「なるほどね、はいはい」
明日が碓井の命日だな。
そういや碓井の家に行った時、一度だけ会ったな……確か名前は──
「ユウスケ?」
「誰がサンタマリアやねん。恭弥っすよ!碓井恭弥っ!覚えてて下さいよマジ!」
「でも君態度悪いしな」
「バニラアイスサービスしますんで!」
「まぁ俺も先輩だしな。今回は許してやるよ──分かったらとっととアイス持って来いっ!」
「うっす!パイセンちょろいっすね!」
そう言って恭弥は厨房へと消えていった。
碓井の弟が居なくなり一息吐いてると、隣と正面の席から視線を感じる。
雄治は顔を上げ、彼女達の方に目を向けた。
「「「…………」」」
「なんだよ?ジッと見て……」
「いえ……殿方が相手だと凄く楽しそうでしたので」
「いや何度か殺そうと思ったよ」
「こ、後輩くんのお馬鹿さんっ!」
「んだと?まな板根暗生徒会長がっ!」
「え……だってドMなんでしょ?」
「だから違うって!」
「ほんと?………良かったぁ〜」
「ははっ」
「ふふっ」
「………」
「………」
「ねぇ後輩くん」
「どうしました?」
「まな板根暗生徒会長ってなに?」
「ごめんなさい」
────────
注文した飲み物やデザートが届き数分が経過した。
それから程なくして遂にその時が訪れる。
──カランコロンッ
「らっしゃーせー」
「いつものをお願いね」
「じゃあ私も」
「あざーしたー」
白いワンピースを着た髪の長い女性と、黒Tシャツにジーパンを履いた整った顔立ちの男性。
女性の方は眉浦桃花に似ており、雄治や他の女性陣もアレが渦中の相手だと気が付いた。
そこに先程までの和気あいあいとした雰囲気は微塵もない。残った飲み物すら飲むのを止め、息を殺して二人の話に耳を傾ける。
「お母さん……うぅ」
現場を目撃し、涙を流す少女。
直接見るのが二度目だからと言ってそれに慣れるものではない。
「大丈夫だから……俺と金城さんがついてる」
「そうですわ、桃花さん」
珍しく雄治が少女の頭を撫でる。
愛梨と仲良かった時ですらやらない……それだけ桃花は疲弊している様に見えた。
そもそも女性嫌いになった今の雄治がこうして頭を撫でるのは……親近感もあるのだろう。
同じ痛みを共有できるもの同士として。
「……ん、ありがと雄治さん」
撫でられた少女は目を細め、少し嬉しそうに頷いた。
「…………?」
自分の名前が呼ばれなかった事に高宮は困惑したが空気を読んでなにも言わなかった。
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