第9話 浮気相談
待ち合わせ場所は公園だった。
賑やかな駅前を抜けた住宅街にある小さな公園。
また今の時代がそうさせるのか、昼の真っ只中だというのに子供達の姿は見られない。
そんな人気のない遊び場のブランコ周辺に集まってるのは雄治と可憐、そして相談を持ち掛けた眉浦桃花の三人だ。
……そう、その三人だけが居る。
………
………
………その筈だった。
当初の予定では間違いなくそうだった。
しかし、今は異物が一人混じっている。
「…………」
「…………」
「…………」
雄治達三人はその異物に注目する。
「うえあぁ〜んっ!後輩ぐんっ!ざっぎはありがどう〜っ!」
「いつまで泣いてんすか?姉ちゃんで慣れてるでしょヤンキーの相手は」
「坂本ちゃんはヤンキーじゃないよ……?」
「いや疑いようのないヤンキーですやん。例え優しくてもヤンキーである事実は覆らないから、むしろそれすらも長所ですよ」
「ヤンキーが長所なの?」
こうして生徒会長も連れて来る羽目になった。
あれだけ大泣きして、尚且つ、俺の服を掴んで離そうとしないし、それにずっとくっ付いて来るんだよ……他の女に同じことされたら暴力振るってたぞ、姫田愛梨の時みたいに……あの女いつか殺してやる。
そんな大泣きする人を置いて行ける訳もなく、仕方なく連れて来たのだ。他の二人には悪いんだけどね。
今の生徒会長を観て、同じ学校に通う金城さんはもちろん、交流会でカッコいい生徒会長を観ていた眉浦桃花……両者共にドン引きである。
金城さんに至っては生徒会長を一目置いてたらしく、子供のように泣きじゃくる姿を目の当たりにし、少しショックを受けてる様子だ。
そんな彼女と小声で話をする。
『これが本当の高宮生徒会長だから諦めてね。普段は威厳を保とうと必死こいて頑張ってるんだよ。基本スペック根暗だからあの人』
『凄く出来る女のイメージでしたわ』
『いや出来ない出来ない。生徒会の業務すら俺や役員に押し付けてるから。あの交流会だって人見知りだから同級生に声掛けらないからって、歳下の俺や金城さんに頼るくらいだし』
『さ、散々の言いようですわね』
「そこっ!何を小声で話してるのっ!?どうぜ私の悪口でしょっ!!うぇーんっ!」
──小声で馬鹿にしていると音声を拾われてしまう。
なんで悪口って分かるんだよと思いつつ、どう言い訳しようかと迷う雄治だが金城可憐が強気に動く。
「生徒会長っ!いつまで泣いてますの!」
相変わらず貴族が着るドレスのような服装で周囲の目を惹きつけている。この服装以外はまともな女性なのにと雄治は心から思った。
「……だってぇ〜知らない人に絡まれてぇ〜!でもそれをね、後輩くんが助けてくれたよぉ〜……」
「かぁーー!!羨ましいですわっ!!」
「かっこよかっだよぉ〜後輩く〜ん〜」
「そんなの知ってますわっ!!!」
「あの……二人とも俺をそんな風に持ち上げるの止めてくれる?まぁ全部ほんとの事だけどさ」
「そうだよ!」
「そうですわ!」
「………………」
え?ボケたのに誰一人突っ込まないの?笑わせるつもりで言ったのに……白い目で見て来る眉浦桃花が普通の反応だと思うんだが?
てか視線冷た過ぎだろクソガキの癖によ。
「それに『俺の高宮生徒会長には指一本触れさせないぜっ!』って言ってくれたのっ!」
「えっ?物凄い捏造なんだが?新聞記者かよ」
「いいないいなですわっ!私も言ってもらいたいですわっ!」
「だから捏造だって……信じないでくれる?金城さんあれなの?直ぐに騙される純粋な読者なの?」
雄治の自信あるツッコミも意に返さず、二人の口論はヒートアップしてゆく。
「それから少し抱き合ったの」
「いやそれは嘘ですわ確実に」
「いや!本当だよ!?ねっ?後輩くん!?」
「……案外、そこは本当だよ」
「ええぇぇーーーー!!?ですわーーーー!!?」
「それより、さっきの『純粋な読者』のツッコミどうだった?だいぶ自身あったんだけど?」
「あのツッコミ良かったですわ……って、そんな場合ではありませんですわっ!どういう事ですのっ!抱き合ったって!」
「いや別に大したことじゃ──」
「後輩くんの胸板……凄く逞しくて良い匂いしたよ?でへへ〜」
「あの……止めてくれます?そういうこと言うの?」
「くぁーーーっ!!ずるいですわっ!生徒会長だけ卑怯ですわっ!!」
「金城さんって、まともだけど天然だよね?」
「……で、では私も──」
掌をワキワキさせながら雄治に近付くのは金城可憐15歳。抱き合ったという話を聞き、理性が崩壊してしまったようだ。
「絶対にダメだからっ!」
そして本気で嫌がる坂本雄治17歳。
金城可憐や高宮が相手だからまだマシなだけで、コレが他の女であったなら罵声を浴びせているところだ。
「お願いしますっ!ほんの一瞬でいいですわっ!」
「ダメだって!」
「お願いですわっ!お金払いますっ!」
「金城さん……本当に怒るよ?マジで本当にキレちゃうよ?というか金城さんそんな人じゃないでしょ?まともな所に一目置いてるのに、生徒会長みたいにトチ狂ったことするの止めて?」
「ト、トチ狂ってる……?私が……?──き、聞き捨てならないよ後輩くんっ!!」
「……ですが……生徒会長さんだけズル──」
「もう皆んな良い加減にしてよっ!!!」
「「「……!!」」」
今日は大事な相談があるんだよ……?なのにどうしてふざけるの?特に生徒会長さんは何っ!?真剣に悩んでるんですよ私はっ!!皆んなの馬鹿っ!高校生なのに本当に馬鹿っ!!」
「「「もう本当にごめんなさい」」」
女子小学生に激しく叱咤され、高校生三人組は心から反省するのであった。
────────
程なくして場が落ち着く。
そこで桃花が浮気現場を目撃したこと、また、どういった状況で出会したのかを話し始める。
──聞けば手を繋ぎ笑いながら歩いてたり、二人きりで食事をしてたりと、桃花が尾行を行ったそのたった1日だけで情報が次々と出て来た。
ふざけてる場合ではなかったのである。
「…………」
「……それは……黒ですわね」
無言の雄治と、黒と断定するから可憐。そして彼女が言う通り聞けば聞くほど真っ黒だった。
何処にも勘違いが発生する場面などなく、故意に会い、故意の関係だと確信が持てた。
「……一人じゃどうする事も出来なくて……それで勇気を出して相談したんです」
「…………」
雄治は自分の母を見掛けた現場と重ねていた。
自分の時はどうだったか?
母はあのとき手を繋いでいたか?
笑いながら出て来たのか?
「…………違う」
少なくとも眉浦桃花の母親の様な感じではなかった。少女の母親は酷いものだ。それに比べて母は……笑顔も無かったし、手を繋いでもなかった。
むしろ必死の形相だったか?それに相手の男はどんな表情をしていたっけ?
………
………
ああ……もっとちゃんと観れば良かった。だってもう思い出せないんだから……いや、でもそんな余裕なんて無かった。母が自分に嘘を吐いたのが嫌で、あの時の俺は心は閉じ、耳を塞いでしまっていたんだ。
それに今更悔やんだ所で、俺が母を遠ざけた年月は帰って来ない。
でも……もし、母の言い訳が本当で、母が無理やり連れて行かれただけだったとしたら……俺は本当に取り返しのつかない──
「雄治様ッッ!!!」
「後輩くんッッ!!」
「……はぁはぁ……えっ?」
「大丈夫?顔真っ青だよ……?」
「もう今日は帰りましょう、雄治様」
そんなに酷い顔色してたのか……あぁ……手のひらも汗でびっしょりだ。
鮮明に思い出そうとするとやっぱりダメか……もう数年前の出来事なのにな。
「……俺は大丈夫。眉浦桃花も早くなんとかしたいでしょ?」
「お、お兄ちゃん体調悪そうだし別の日でいいよ」
コレは不味いな。
助けるつもりが完全に足を引っ張ってる。こんな弱ってる女の子に気を遣わせたらダメなんだよ。
しかも少女の母親に比べればマシとか……自分が楽になってどうする。もっと考えてあげないと、この子の事をもっと真剣に。
「お兄ちゃん……大丈夫?」
「ああ、もう大丈夫──それと、お兄ちゃんとか言わないで」
「……ごめん、雄治」
「呼び捨てやめて」
「やだ雄治」
「◯田裕二みたいに言うな」
「うんっ!調子が出てきたね!」
「ああ、もう大丈夫ダ!」
よしっ!気持ちは落ち着いて来たシ大丈夫っ!いつもノ調子だ。コレなラ心配掛けル事もなイだろうっ!
「…………後輩くん」
「…………雄治さま」
普段の雄治らしいやり取りに……見えなくもない。
しかし顔色は悪く、やはりまだ辛そうにしている──少なくとも可憐と高宮の目にはそう映っていた。
それに気付かないのは小学生の桃花くらいだ。
二人は悩む……この一件、本当に踏み込んでも大丈夫なのかと。
正直かなり生々しい話だった為、途中で帰ろうと高宮は考えていたが、尋常じゃない雄治の様子を見て考えが変わる。
「金城さん……どうしてこんな大変な話を後輩くんが手伝おうとするのか分からないけど、今の後輩くんは放って置けないよね」
「ええ、わたくしもそれで手伝う事にしましたの。雄治さまが気を病まないように、しっかりサポート致しますわ」
二人は顔を見合わせ力強く頷いた。此処から引き返せないのならば最後まで付き合うだけの話だ。
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