第8話 二葉の気持ち


雄治、石田一樹、石田二葉の三人は家の前で話をしている。辺りは既に真っ暗だ。



「坂本……ほんとに帰るのか?」


石田家で夕食をご馳走になった後、愛梨は家へと帰って行った。そしてヤバイ女が居なくなった事で雄治は冷静さを取り戻していた。本当ならば碓井の家がダメな時点で大人しく帰るつもりだった……しかし、姫田愛梨という起爆剤が雄治の冷静さを失わせていたのである。


「うん……なんか普通に考えたら着替えとかも持ってないし、流石に体操服はマズイからな。公園で寝泊まりとかもあり得ないし」


「服は用意してあるって言っただろ?(公園で寝泊まり?)」


「……俺用の服が有るのがほんと謎だけど……でも俺と石田ってそこまで仲良くないじゃん?」


「ッ!!?」


「出会って間もない訳だし……それなのにいきなり泊まる──」


「もういいっ!!それ以上は聴きたくないっ!!」


「あ、なんかごめん」


凄く悲しそうに怒ってる。でも石田と話すようになってから一週間も経ってないんだぜ?



「……じゃあ、いったい何をしに来たんだ?」


「……遊びに?」


「俺との関係は遊びだったのか!?」


「友達ってそんなもんだろう?」


石田の言う友達関係が俺には分からない。

もしかして、石田の中の友達って、遊ばずに勉強とかし合える関係なのか?

でも今日は人生ゲームやったし……いやもうプライベートの石田が何を考えてるのか全くもって分からん。



「えっと、お兄ちゃん?友達ってだいたいそんなもんだと思うよ?」


意外にも助け舟を出して来たのは悪鬼二葉……石田妹は友達とは何なのかを一生懸命教えていた。

喫茶店の一幕で少し疑っては居たんだけど、石田って友達が居ないんだな。だからこそ距離感を図り損ねているのかも知れない。



──坂本雄治の推察通りだった。

石田一樹に、物心付いてから初めて出来た友達が坂本雄治ただ一人。

彼が一番欲しかったのは気心許せる友達。男子達から避けられる寂しさを埋める為に、一樹は恋人を作って居たに過ぎない。

そして、念願だった唯一無二の存在を相手に、どう距離を縮めて良いのか、石田には解らないだけなのである。


そんな石田は二葉の耳打ちに『うんうん』と頷いた。

因みに二葉も兄と境遇が同じく、女友達とは縁がなかった……しかし、石田一樹のように異性と仲良くなって寂しさを埋めるような事をしなかった。


それが功を制したのか……最近になり親友と呼べる存在が二人も出来たのである。

それに二人とも二葉と同じくらいの美少女……学年三大美少女と言われ、美女ランキングベスト3は彼女達三人が常に独占している。



「………」


そんな美少女二葉は、兄が落ち着いたのを確認し雄治を見詰める。

自分が話し掛けるだけで鼻の下を伸ばし、話し掛けてくる時は下心丸出しの男たち……正直、二葉は父親と一樹以外の男という存在にはうんざりして居たのだ。


だが、坂本雄治だけは違った。

全くと言って良いほど女性としての自分に興味を抱いてくれなかった。



「……何見てんねん」


「……あっ」


(見詰めると本当に嫌そうな顔をする……なのにどうして?ドキドキが止まらないんだけど……?私って暴言吐かれて喜ぶド変態だったのかな?)


二葉は胸に手を当て心を落ち着かせようとする。

外が真っ暗なのが幸いした……もし明るければ耳まで真っ赤に染まった顔を見られていただろう。



「ゆ、雄治さん……夕飯美味しかったですか?」


「──あっ、夕飯ごちそうさま」


「はい、お粗末様です!──ウチはお父さんが元料理人だから、本当に美味しいんですよっ!」


「おう!死ぬほど美味かったよ!」


「そうですか!?そうでしょう!!」


「うん……(テンションうぜぇな)」


でも今まで食べて来たどんな料理よりも美味しかったのは事実だった。ただそれは息子が初めて友人を家に招き、テンションの上がった元料理人の父親が張り切り過ぎてた所為でもある。



「雄治さん、絶対っ!ぜっったい!!また遊びに来てくださいね!!」


「二葉さんはいつも家に居るの?」


「はいっ!部活してないので居ますよ?」


「うん、じゃあもう二度と来ないね!」


「ふぁっ!!?」



─────────



──20時か……姫田愛梨が帰るのを待ってたら結構遅くなってしまった。

石田には迷惑を掛けたくないと言ったけど、それは建前に過ぎない。本当に泊まりたくない理由は二葉という妹の存在だ。


家にも母さんが居るけど、俺の部屋に入って来るような愚行は絶対にしない。

でも石田二葉はそういう悪戯を平気でやってきそうな狂気がある。あの子が居ると心配で寝れない。



「母さん会わないように気を付けないと──」


家に到着し、雄治は静かに玄関の扉を開けた。

しかし、直ぐに顔を青くする。



「──あれ?雄治?友達のお家に泊まるんじゃ無かったの?」


「……ッ」


今日はとんでもない厄日だ……ずっと嫌な出来事が続いてる。



「ゆ、雄治……?」


「…………」


まさか、最後に母さんと玄関で出会すなんてな……お風呂から出て来たタイミングだったのだろう。



「……雄治?顔色悪いけど大丈夫?」


「………大丈……夫……」



──まずいな。










思ってたよりキツい。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る