第7話 姫田愛梨の家族 〜愛梨視点〜
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〜愛梨視点〜
──石田の家で人生ゲームを終えた愛梨は、その後、雄治と少し話をしてから家へ帰った。
ほんとなら一緒に帰りたかったが、雄治が石田の家に泊まるので諦める……例え雄治が一緒でも、他人の男の家に泊まるのには抵抗があったのだ。
「……ただいま」
玄関を開けて家の中へ入る……いつもの事だ。
「おかえり愛梨。勉強もしないで何処をほっつき歩いてたの?」
廊下でお母さんに怒られる……いつもの事だ。
御飯を食べて来た事を伝えると、執拗に何処で食べたのか聞かれた。
正直に『ゆうちゃんと一緒に食べてた』と答える。
「……なら良かったわ。雄治君と一緒ならね──分かってるとは思うけど、雄治君を離したらダメよ?他の男に目移りしてもダメ……良い?」
そして母さんはゆうちゃんがどれだけ凄いのか、一緒になるとどんなメリットが有るのか、ゆうちゃんの義理の母になるのが楽しみだとか……いろいろ話してくれた。
全部知ってる事なのに……なにを今更。
だけど、これもいつもの事だ。
取り敢えず、お母さんは私にゆうちゃんと結婚して欲しいらしい……言わなくてもするのに。
「愛梨は馬鹿なんだから、雄治君が支えてくれなきゃどうなるんだか……全く、彼が幼馴染で良かったわ」
「……うん……喉乾いちゃったから、飲んでくるね」
「はぁぁ……そそっかしいわね、全く」
もうこれ以上聞きたくなかった……しかし、緊張で喉が渇いたのは事実だ。
私は母さんとの会話で乾いた喉を潤す為に、冷蔵庫の置いてあるリビングに向かった。
──リビングで飲み物を飲んでたらお父さんに話しかけられた。話題はテストや成績に関して。
「愛梨、前のテストはどうだった?」
ソファーに座り、ビールを飲みながら聞いてくるから、私も負けじとオレンジジュースで対抗した。
「……学年10位だったよ」
「………ベスト10か?」
「下から10番目だけど」
「はぁ〜……もういい」
「………うん」
お父さんは東大を出て、若くして管理職を任されるようになったエリート……だからこそ勉強の出来ない私を軽蔑している。
社会的な肩書きは凄いのかも知れないけど……少なくとも親としてのお父さんが私は嫌いだ。
「勉強は……もういいか……しても無駄だしな」
「……でも」
「でもじゃない──全く、いったい何処で育て方を間違えてしまったのか……」
「…………」
散々ディスられてしまった……でもいつもの事だ。
「……しかし大丈夫、良い大学に行かなくも雄治君と結婚すれば幸せになれるぞ」
あっ、またゆうちゃん……でも愛の感じない、ただ利用するだけの話……もう聞きたくない。聞きたくない。
一息にオレンジジュースを飲み干して、私は部屋に急いで戻った。もう話し掛けられたくないから。
「──はぁはぁ……」
部屋に戻った私は、胸の動悸を抑えながらゆうちゃんの写った写真を眺めた。
友達の居ない私には子供の頃からゆうちゃんしか居なかった。ゆうちゃんだけが私と対等に話してくれる。
数万を超える写真も、写ってるのはゆうちゃんと、偶に優香さん。お父さんとお母さんは数枚だけしかない。
「こ、こんな事をしてる場合じゃない……ゆうちゃんが好きそうな情報を調べないと……新しく出来たゲームセンターの話はしたから──」
インターネットを使って地域の情報を調べ上げる。
こうして役に立つ事で、雄治に許して貰おうと考えているのだ。
役に立てればきっと許してくれる筈だと信じて。
「……か、軽はずみにオーケーしちゃったから……こんな事になるなんて考えても無かったよ……毎日お母さんとお父さんが馬鹿馬鹿言うだけの事はあるね、私」
──どうせ雄治とは結婚するんだからと、性格の良さそうな男子の告白を承諾したのが間違いの始まり。
異性と一緒に遊んだ経験の無かった愛梨は、そのドキドキを楽しみたかっただけなのだ。
キス、ハグ、手を繋ぐ……そんな関係になるつもりは毛頭ない。
だから、付き合うだけなら大丈夫だと思っていた。
自分が逆の事をされたら嫌なのに、そこまで考えて居なかったのだ。
それで雄治を深く傷付けてしまっていると……雄治に直接言われるまで愛梨は本当に気付きもしなかった。
愛梨にとっての交際関係とはそれ程に軽いもので、身体に触れさせさえしなければ問題ないという考え方なのである。雄治と交際を迫られたとき保留にしたのもその為だった……軽い関係になどなりたくない。
「が、頑張ってゆうちゃんが喜ぶ情報を調べなきゃ……私にはゆうちゃんしか居ないのに……ゆうちゃんしか居ないよぉ……」
その日愛梨は、何度も涙を拭いながら近辺情報を調べ続けた。
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