第6話 幼馴染の異常性(極)
トイレを出た俺は、最初に教えて貰っていたリビングへと向かう。
石田宅は二階建ての一軒家。
案内がなければ迷う程には広く感じる……でも初めて訪れた他人の家だとだいたいこんなもんか?
碓井の家も初めて行ったとき最初は広く感じたなぁ……でも慣れると自分の家と変わらない広さだと認識を改めた覚えがある。
──そしてリビングに入ると、石田もトイレを済ませていたようで、テーブルの上に大きめのボードゲームを置いて俺が来るのを待ち構えていた。
そのボードゲームとは世界的にも有名な人生ゲーム。石田は間違いなくコレをやる気だ……この時代に。
でもメンツが酷い所為でやりたくない。
しかもなんか石田の妹も居るし。
石田妹はハッキリ言ってヤバいから嫌だ。
「…………」
「……うふ」
目が合うと性懲りも無くウインクをかまして来た。
なので俺は石田と姫田愛梨からは見えないように、石田妹に向けて中指を立てた。
いわゆるファッ◯ユーというヤツだ……なんか姫田愛梨の所為で、俺も日を追う毎に悪へと染まってるな。
「くふっ♡」
「……え?」
どうして中指を立てられて嬉しそうにしてるの?
あの妹怖っ……もう関わらないでおこう。
(女子に中指立てるなんて……どうしよう、雄治さんと居るの楽し過ぎて癖になっちゃう!──お兄ちゃんが堕ちるのも分かる気がするなぁ~)
雄治と自分の妹が裏でとんでもないやり取りを繰り広げているとは露知らず、石田はボードゲームを意気揚々と広げ始めた。
それを見ていた雄治は慌てて止めた。
「人生ゲームか~、あんまりだな~」
「………………え?…………やらないの?」
準備中だった腕を止め石田はがっくりと項垂れる。まるでエサを奪われた子犬のようだ。
──おぉう……そんな涙目になるの辞めなさい。
可哀想だけどこのメンツじゃ無理だな……せめてウンコより邪魔な姫田愛梨が居なくならないと。
……いやもうやりたくない理由は姫田愛梨だってハッキリ言ってしまおう。
「姫田愛梨がやるならやらないぞ?」
「そうか──えぇ~と、姫田さん外も暗くなったしそろそろ帰る?」
「絶対に帰んないけど?」
「……心配なんだ、姫田さん女性なのだから」
「大丈夫、夜分の外出には慣れてるよ」
「でも帰るべきだと思うんだ」
「うんっ!人生ゲームをやったら帰るね!」
「………さ、坂本っ!」
俺に振って来るなっ!ソイツの取り扱い方法なんて全く分かんねーぞ!?
それよりも石田……お前って奴は彼女と一緒に居るよりゲームを優先するのかよ。
まさか人生ゲームと彼女を天秤にかけて、姫田愛梨の方を斬り捨てるとは夢にも思わなかったぞ。
ってかそんなにしたいのか人生ゲーム?
う~ん、そうだなぁ……彼女より優先する位だから相当やりたい筈だ。泊めて貰う立場ってのもあるし、此処は妥協して付き合ってやるか。
なんかウンコ女も帰る気が全くなさそうだし。
「石田…………やっちゃう?」
「……ッ!!ああっ!!もちろんだともっ!!」
「お兄ちゃんっ!!私も良い!?」
「ああ、もちろんっ!!坂本も良いよな!?」
「…………うん」
「私も良いよねっ!石田くんっ!」
「……ああ、もちろん……坂本も良いよな?」
「………………………………………ぅん」
───────────
──かくして人生ゲームの幕が上がった。
しかし、最悪な事にゲームは開始から終盤となった現在までずっと愛梨の独壇場となってしまっている。
いや正確には愛梨と雄治……この二人の独壇場だ。
そして何故二人セットかと言うと──
「じゃあ回すね?」
愛梨の回したルーレットの針は4を指した。
「1、2、3、4──と、このマスは……」
【愛する旦那との間に子供が出来る。祝金を各プレイヤーから貰う】
「ちょっとまたぁ~?ゆうちゃんこれで16人目だよ~?もう頑張り過ぎぃ~えへへ~」
こんな風に、序盤でパートナーになってしまった雄治と愛梨との間に子供がバンバン産まれ、その祝儀でお金を荒稼ぎしているのだ。
愛梨がルーレットを回す度に子供が産まれる……まさにそんな状況が延々と繰り返されている。
ただそれが例えフィクションでも、雄治にとっては耐え難い地獄そのモノなのだ。
「ふぅーっ!ふぅーっ!」
「うくっ……ゆ、雄治さん、鼻息荒いですけど……だ、大丈夫ですか……うくく」
「……なにわろてんねん」
「だ、だって……姫田さんと結婚して……そこから子供が16人も出来るって……はぁはぁ……ふっ!」
「ぐぬぬ……!」
二葉は雄治と愛梨の仲が悪いのを知っている……だから今の状況が面白くて笑っているのだ。
性格はあまり宜しくないが、これが本当の二葉という人間の姿だ。彼女は誰に対しても猫を被り、いい子を演じているに過ぎない。
ただ、自分と同じで【人間性に爆弾】を抱えている雄治には同族意識を持って居るらしく、こうやって雄治となら素の自分で話せるみたいだ。
因みにだが、例のメールは石田二葉の本当の姿だ。自分では完璧な文章だと信じて疑っていない。
「いいから早く回せよ。次はお前の番だろ?」
「……………お前?」
「……二葉さんの番だろ」
「はぁ~い」
この女マジでめんどくせぇな……!!
俺が呼ぶ時だけ名前じゃないと無反応なんだよ。
「坂本……いつから二葉と名前で呼び合う様な仲になったんだ?」
「……いろいろあったんだよ」
「いろいろ有りましたね~?」
「ふ~ん……俺も名前で呼んだ事ないのに……」
「え!?お兄ちゃん!?なんか怒ってない!?」
妹に先を越され拗ねる石田一樹。
一方で、嬉しそうに雄治との間に出来た子(プラスチック棒)を眺めていた愛梨だったが、二人が目を離したタイミングを見計らって雄治に耳打ちをした。
「石田くんの妹さん、ちょっと質が悪いと思うの……気を付けた方が良いよ?」
「……………」
クソ女と意見が合ってしまった。死にたい。
──二葉がマスを移動し、今度は雄治がルーレットを回す番となった。雄治がヤケクソ気味に回したルーレットの矢印は10を指す。
よしっ!良い感じ良い感じっ!このまま全速力で駆け抜けて一気に終わらせようっ!!
そしてもう二度とやらないこんなゲームッ!!
「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10ッ!!──えっとなになに?」
【母の浮気現場を目撃する。そのショックで立ち直れなくなったところを妻に慰められる。そして子を成す。双子が産まれるも営みの激しさでベッドが壊れてしまい祝金と相殺になった】
「…………………」
「もうっ!ゆうちゃん激しすぎっ!えへへ~!」
「ああん?」
「………次は俺の番だな」
「お兄ちゃん頑張って!」
石田の回したルーレットの矢印は3を示した。
「1、2、3──このマスは」
【右隣のプレイヤーが通りすがりのヤンキー女に高級なプリンを奪われた。そのショックで立ち直れなくなったところを妻に慰められる。そして子を成す。五つ子が産まれるも近所から毎晩営みがうるさいと苦情が来て裁判沙汰。一回休み】
「右隣は坂本か……クソッ!またか!」
「雄治さん……マジですか、ぶふっ!!」
「ゆうちゃんっ!もう御近所さんが恥ずかしくて外を出歩けないよっ!でへへっ!」
──ドゴッ!!
「痛いっ!──え?ゆうちゃん?どうして肩を思いっきり叩いたの……?ほんとに痛いんだけど?ねぇどうして?」
「調子乗んなよさっきからっ!!大っ嫌いつってんだろーがっ!!しかもなんだよっ!子供が出来る度に腹をさすりやがってっ!!現実でも子供が出来てる感じ出すなやっ!!」
「え?これ?この仕草のこと?」
愛梨は自分の腹をさすり、これの事かとジェスチャーして見せた。
「だからそれやめろっ!!」
「出来ちゃったんだから仕方ないでしょ!?それなのにどうして叩いたのっ!?沢山子供を産んだお陰で私の身体はもうボロボロなのよっ!?」
「出来てねーだろ!!ゲームの話だろ!?お前はゲームで妊娠したら現実でもそうなるのか!?」
「ゆうちゃんさっきからなに興奮してるの?」
「………ぐぉ」
もう一度手を出すところだった──しかし、雄治は拳を握り締め……寸前で耐えた。
そして、その光景を見ていた二葉は声を押し殺すようにクツクツと笑っている。
想像妊娠する女に対して本気でキレる被害者の男。お笑い番組が大好きな二葉ですらこんな面白いシチュエーションの会話を見たことがない。
間違いなく、今までの人生で一番面白い場面に遭遇していた。録画できないのが残念な程である。
──このゲームなんなの?
さっきから何一つ面白くないんだけど?
なんか俺の心を抉るようなマスばっかり……母親の件とか笑い事じゃないし。
それに最初はノリノリだった石田も今は退屈そうにしてる……ここはゲームの中止を提案しても案外通るんじゃなかろうか?
「石田、もう辞めないかこのゲーム?」
「……そうだな、さっきから不愉快なことばかり続いてるし、辞めようか」
「でもお兄ちゃん、このゲームって略奪愛や同性愛のマスがあるらしいよ?」
「よしっ!続けよう!!──次の姫田さんは産休で一回休み。坂本も一回休みだから……次は俺かっ!じゃあ回すぞ!!」
(どういうテンションやねん……てか続けるんかい。もう嫌なんだけどマジで……)
石田が勢いよく回したルーレットの針は1を指す。
そして移動したマスにはこう書かれていた。
【右隣(雄治)を奪おうと、彼の妻に対して貴方は立ちはだかっている──】
「おお~~っ!!!」
「よっしゃ!!」
石田は声を上げた。
それに雄治も続く……どうやら愛梨と離れられるなら相手は誰でも良いらしい。
「え、辞めて……石田くん……」
「坂本は俺のモノだよ」
(なんでも良いけどキモい会話だな)
石田は自分の止まったマスに書かれている文章の続きを読み進めてゆく。
【──しかし、二人の固い絆の前に貴方は大敗北。右隣(雄治)とその妻は互いに絶対なる愛を再確認し、また産まれる】
「……石田くん残念だったねぇ?ゆうちゃんは私のモノだよ?」
「もうやめるか、石田」
「そうだな、じゃあ片付けるよ」
「あああぁぁぁッッ!!?」
「はぁ……はぁ……この三人とやる人生ゲーム面白い……ぷくくくっ」
結果、無理やりボードを折り畳み強制的にゲームを終わらせる事となったが、坂本雄治は二度と人生ゲームはやらないと心に誓うのであった。
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