第4話 幼馴染にストーカーされる男
──生徒会室を出て驚愕した。
話し合いが無駄に……ほんとに無駄に長引いた所為で辺りは暗くなってしまっていたのだ。
結局、当初の予定通り金城さんとペアを組む事になった。もう誰でも良かったが、あの中だと金城さんが一番やり易いかも……歳下だし。
また、彼女には謎の安心感があり、女で普通に話せる数少ない一人だからな。
高宮生徒会長と弥支路さんは書類片付けでもう少し残るらしく、石田は家の用事があるから慌てた様子で生徒会室を飛び出して行った。
本人もまさか此処まで遅くなるとは思っても無かったのだろう……でも原因の三割は自分自身だぞ?
金城さんは見た目通り金持ちだったらしく、高級車が迎えに来て居て、それで帰ろうとしている。
「………?」
運転手の老人と目が合った。
凄く泣きそうな顔で頭を下げて来たんだが……な、なんだろう?
金城さんに対しても『良かったですね!』『おめでとうございます!』と感極まった様子で声を掛けている。
一見見ると老化の進行した爺さんだ…………でも……見覚えがあるんだよな……
俺はそう思いつつも、車に乗り込む金城さんを見送る。
彼女はそんな俺へ向け、嬉しそうにずっと手を振っていたので俺もそれに応えるように手を振り返した。
「──雄治、じゃあ帰るよ」
「……先に帰っってて」
「ん?用事でもあるの?」
姉ちゃんに誘われたが、今日はどうしても家に帰りたくはなかった。少し我儘を言ってしまおう。
「うん……ちょっと、明日が祝日だし、友達の家に泊まる約束が有るんだよ。悪いんだけど母さんにも夕飯は要らないって伝えといてくれる?」
「……わかった」
今日はあの出来事があって以来、初めて母さんが夕飯は作ってくれる日なんだ。
そして顔を合わせるのも久しぶりだ。
だから会いたくなかった……どうしようか悩んでいたけどアホらしい。
嫌なら逃げれば良いんだよ。
別に立ち向かう必要もないんだから。
逆に揉めでもしたら姉ちゃんを嫌な気分にさせてしまう恐れも充分にある。
それにどうせ逃げ続けて来たんだ……今更、逃走回数が増えても気にする事なんてない。
「……それじゃ」
「……うん」
校門を出て姉ちゃんとは別方向の道を歩いて行く。
本当なら姉ちゃんと肩を並べて一緒に歩いてる筈なんだけど……
……
……別に姉ちゃんと帰るのは嫌じゃない。
少し前までは怖かったけど、今はちっとも怖さを感じなくなっている……だからこそ御免よ。
──姉ちゃんと別れてしばらく歩いた後、俺はカバンからスマホを取り出した。
今日は石田からのメッセージが無かったので、いつも送られて来る母さんからのメッセージのみだ。
正直アイツからのメッセージにはウンザリしている。
細かな行動連絡なんて興味ないし、嫌だとも言っても母さんは解ってくれなかった。
最近まではどうでも良いと思ってたけど、あの出来事があって以降は通知を見る度にイライラが募ってゆく。
あの人は俺に縋るしかないのか?
父さんに告げ口するとでも思っているんだろうか?
姉ちゃんに言うと思ってるのか?
あの時逃げた俺が今更になって立ち上がるとでも思ってるのか?
正直後悔している……でも、もう無理だ。
当時まだ中学生だったとはいえ、内緒にする道を選んだのは自分なんだから、高校生になって考え方が変わったからと言って、今更家族に打ち明けるなんて絶対に出来ない。八方塞がりなんだよ、もう。
それに──
──試しに母さんから送られてきたメッセージの内容を読む。
「………ッ!」
やっぱりドス黒い感情が湧き上がって来る。
自分でも制御出来ない程に……こんな状態で顔を合わせでもしたら何を言ってしまうか分からない。
だから俺は逃げる道を選んだんだ。
「──もう一生顔を合わせなくても良いけどな」
雄治は一言そう呟き再び歩き始めた。
暗い帰り道……街灯を頼りに歩いて行く。
「……じぃ〜」
「…………」
背後から何者かの気配を感じる。
めちゃくちゃ嫌な予感がしたので振り返ると──そこには案の定、電信柱の影に隠れながらこっちを見ている姫田愛梨の姿があった。
目が合った瞬間はビクッと震えた姫田愛梨。
しかし、あっという間に開き直り、笑いながら近付いて来た……もはや狂気を感じる。
「…………どこ行くの?」
「碓井の家」
「こんな時間にどうして?」
「泊めてもらう」
「……うちに来なよ」
「お前と会話した俺が馬鹿だったよ」
なんだよウチに来いって。
無視すると煩そうだから適当に返答してたけど、少しでも話すとツケ上がるなコイツ。
──雄治は無視して歩き始めた。
「あっ!ま、まって!」
「…………」
うげっ……着いて来やがった……よくあんな態度取られたのに着いて来れるよな。頭診てもらえよ。
「…………」
「…………」
碓井の家までは歩いて15分のところ。割と近い。
途中コンビニを通るので、そこで土産でも買う予定だったけど姫田愛梨が居るから止めた。
恨むなら狂人を恨んでくれ。
「ゆうちゃん、この道を一緒に歩くの初めてだよねぇ?なんか新鮮だな~」
「…………」
俺は一緒に歩いてるつもり無いんだが?
相変わらずだな、どうでも良いけど──いやどうでも良くないわ普通にうるせぇコイツ。
「そういえば優香さん雀士に寄って帰るみたいだよ」
「…………」
マジかあの女……やってることが正真正銘のチンピラじゃねーか。てか麻雀するなら誘えやっ!
いやいや、姉ちゃんも流石に弟と一緒に麻雀するのは嫌か……?
「明日さ、商店街のケーキ屋さんでゴージャスプリンが半額なんだって!」
「…………」
まじかっ!絶対明日買いに行こうっ!でもプリンを買うなら姉ちゃんに気をつけないと。
「新しいゲームセンターも出来たみたいだよっ!オープン記念で100円で2ゲームできるんだって!」
「…………」
なんでさっきから有用な情報ばっかり教えてくれるの?
──愛梨が一方的に話している、雄治は一言も喋らず黙っているだけ……この調子で二人は距離を開けながら碓井の家を目指し歩き続けた。
────────
────────
「すまない雄治くん、恭介は一人暮らしの恭太郎……ウチの長男なんだが、あいつの家に泊まるんだよ」
碓井の父さんが紳士的に対応してくれている。
けど参ったなぁ、碓井居ないのか……もう公園に野宿するしかないんだろうか?
「私の家はいつでも大丈夫だよ!」
俺がいつでもダメなんだよ。
碓井の父さんの前で余計なこと言うな割とマジで。ニヤニヤしながら見てるし絶対なにか勘違いしてるわ。
そしてその間違いは今直ぐにも正すべきだ。
「この人とは付き合ってません」
「ん?そうなのかね?」
「はい、私とゆうちゃんは付き合ってません。そんな低俗な関係じゃないので」
「え?そ、そう?(て、低俗?変な子だなぁ)」
碓井の父さんと話をしてから立ち去った。
頻繁に遊びに来るから碓井の父さんは偶に話しをする関係なんだよな。まぁ姫田愛梨が煩い所為で長居は出来なかったんだけど。
しかし……う〜ん、行くとこが無くなった……でも家には帰りたくないし、どうしたもんか。
てか今の俺ってなんか家出少年みたい。
思い切って【ホームレス高校生】のタイトルで小説を出版しようかな?
「今のゆうちゃん家出少年みたいだよ?『ホームレス高校生』ってタイトルで本出版するの?」
「…………………死ね」
「……ッ!やっと話してくれたっ!」
「…………」
「それにさっきも殺すって言われたしっ!なんか解らないけど、なんかそう言われると胸が疼いちゃうな……この胸の高鳴りは何だろうね?」
相変わらずやべぇなコイツ。
「………なぁもう帰ってくれない?」
「嫌だよ……だって、此処で帰ったら今日のゆうちゃん終わっちゃうもん」
何だよ今日のゆうちゃんって……もうやべぇ以外の感想が出て来ないんだが……?
怖いからもう無視しよう。
「……日に日にゆうちゃんが遠くに行ってる……最近そう感じてるの──だから頑張らなくちゃって……そう思ってるんだ私」
「……………」
碓井がダメとなると……後は、石田くらいなもんか?
他にも友達は居るけど、碓井以外は全員電車に乗らないとダメだし……まぁ100%ダメだと思うけど此処は石田に頼んでみるか。公園野宿は嫌だしな。
「ゆうちゃんを傷付けないように頑張るから、ゆうちゃんも私に嫌なところが有ったら教えてよ……頑張って直すからさ。もし石田君と付き合ってるのが嫌なら直ぐにでも──」
「もしもし石田?悪いけど今日一日、石田の家に泊めてくれ……うおっ!食い気味でOKかよっ……てかマジで良いのか?──え?大歓迎?そ、そうか……おう、じゃあサンキュー」
「……………」
「ああん?」
通話を切った途端に姫田愛梨が睨んで来るし。
俺が彼氏の家に泊まるから嫉妬してんのか?
……まぁ良いや、とりあえず石田の家に向かうか……流石にそこまでは着いて来ないだろう。
流石にな……?
……流石に──
いや多分来るな、この女。
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