第3話 苦渋の選択
騒がしくなるかと思っていたが、メンツが真面目だったお陰で企画はスムーズに進行した。
姉ちゃんは凄くやる気のない顔してた……まぁ俺もそうだが。やっぱり姉弟だと思い知らされるね。
訪問予定の小学校は、俺が通う高校の近くにあるらしく、当日学校に集まって一緒に行く事となった。
ただし、近いという理由から徒歩での移動となり、しかも行く日は土曜日。
そう休日。
【みんなで当日学校に集まる】とか不吉な言い回しを始めた辺りから嫌な予感はしてたんだけど、やっぱり休日に集まる事になった。
休日の遊びたい日に学校にわざわざ出向くのだ。
朝も無駄に早いから夜更かしも出来やしない。
あまりにもふざけてる。
因みに交流会での取り組みの内容だが、地域の歴史に触れたり、小学生達が考えたレクリエーションを行ったりするとの事……こう言っちゃなんだけど、思ってた以上にしょうもなかった。でもキャンプとかスポーツをさせられないだけマシかな?
「はぁ?週末って金曜日じゃないの?土曜日に集まるとかかったるいんだけど?」
おっ!流石は姉弟っ!考える事が同じだっ!
ここはお姉様の意見に乗っかってしまおう。
「そうですよ生徒会長。金曜日にずらしましょうよ」
「雄治……分かってんじゃん、一緒にボイコットしようやっ!」
「よっしゃっ!姉ちゃんイェーイ!」
「雄治イェーイッ!!」
俺は姉ちゃんとハイタッチを交わした。
金城さん以外から冷めた視線を感じるが嫌なものは仕方ない……どうにか不当な休日出勤は回避しないと。
「……ねぇ、坂本ちゃん、後輩くん」
「ん?どしたん?言っとくけど今の私鋼だから、説得とか無駄よ?」
「姉ちゃんヒューヒュー」
「ふっ、姉ちゃんに任せとき?」
雄治からの応援を受けて優香は更にイキり出す。
「逆に二人とも何で休みの日じゃないと思ったの?学校が終わった遅い時間に行く訳ないでしょ?」
それに対して高宮は正論を浴びせた……腐っても生徒会長である。
「坂本、それに坂本のお姉さん。流石に冗談が過ぎるのでは?」
「そうですね……ウチの生徒会長にまで言われてしまったら大概ですよ?」
「ん?あれ弥支路ちゃん?私ひょっとしてディスられてる……?」
「(雄治様は正面顔も素敵ですわ〜)」
生徒会長だけでなく、石田、弥支路にまで注意を受ける始末だ。若干一名へんなお嬢様は居るが。
アレだけイキッてた姉弟の心は揺れる。
「……………は、鋼だし」
「ひ、ひゅーひゅー……」
「それに後輩くん、坂本ちゃんがこう言ったとき止めなきゃダメでしょ?お姉さんと違って後輩くんは真面目なんだからね?なんで『ひゅーひゅー』とか言っちゃうかな?」
坂本雄治の心はここでポッキリと折れた。
「………はい、すいません。生徒会長の言う通りです。でも悪いのは全部姉ちゃんです」
「あ、雄治っ!アンタ裏切ったなぁ!?………あれ?なんか私って不真面目だと思われてる系?」
「そうだよっ!よく学校休むしっ!歳下の女の子は誑かすしっ!」
「………すんまへん。でも誑かすって何さ?」
姉ちゃんに対して此処まで言えるのか……
姉ちゃんが素直に謝るのも意外だったけど、それ以上に姉が生徒会長を信頼してるんだと伺える。
「……凄いな」
「ん?後輩くん、どうしたの?」
「いえ、何でもないです」
この人には姉ちゃんの良い所がちゃんと見えてるんだろうな。ヤンキーで弟のプリンとか平気で強奪する凶暴な人だけど、俺は最近になって姉ちゃんの優しい部分に沢山気づくことが出来た。
急に不良なんぞになり出した所為で、つい最近までビビってた……でもよくよく考えれば何かグレるキッカケが有ったのかも知れないと、今ではそう思えるようになった。
当然、不良を卒業すれば良いに越した事はないけど、それでも今は大して怖くはない。
「でも休日に集まるとかやっぱり──」
「姉ちゃんってばまだ言ってんのか?もういい加減に諦めなよ?」
「ぐぬぬ……」
往生際の悪さに雄治は思わず突っ込んだ。
「──じゃあもう分かったよ、やればいいんでしょやれば?」
弟に指摘されて優香も諦めが着いたらしい。
鋼の意志は何処へ行ったのやら……優香はしぶしぶ引き下がるのであった。
「坂本ちゃん、解れば良いんだよ」
高宮は不貞腐れる優香と、さっきまで姉の意見に同調していた雄治を観てやっぱり姉弟なんだと、少し微笑ましく思った。
───────
「──じゃあ当日についてなんだけど、小学校では2人1組のペアで行動して貰うことになるからね?」
「……おっ?」
ペアを決める話になった途端、姉ちゃんと石田と金城さんが同時に俺の方を向いた。
やだなに……怖い、怖い。
「では生徒会長」
「ん?な、なに、石田くん」
石田が真っ先に手を挙げた。
男子が苦手な高宮はドモリながら石田に応える。
「やはり此処は男女で別れた方が良いと思います。つまり自分と坂本のペアは確定で、他の二組は女性陣で話し合って決めるのはどうでしょう?」
「いや、それは──」
高宮は何か言い返そうとしていたが、勝手に決められた雄治も正直それで良いと考えていた。
同性の方が何かと動き易いからだ。
──しかし、周りがそれを許さない。
「ちょい待ち……アンタ、雄治の友達?」
「はい、坂本雄治くんとは親友同士です」
「………え?(勝手に親友にされてるんだが?)」
「弟と仲良くしてくれてあんがと」
「いえ……御礼を言うのはこちらです」
雄治はいつの間にか親友認定されてるのに驚いたが、あえて何も言わない事にした。
「まぁ、それはそれとして……石田くん、悪いけど此処は姉弟で組んだ方が良いと思うんだよね。勝手知ったる姉弟だしさ」
「……いいえ、ここは自分と坂本が組むべきです。お言葉ですがお姉さんは日頃自宅で一緒なのですから、ここは譲ってくれても良いのでは?」
「家の中と学校では全然違うし。それを言ったら石田くんは同級生なんだから、休み時間とか一緒に居られるじゃん」
「でもクラスが違いますし………そうだ、ここは坂本くんの意見を聞きましょう」
「……それな」
二人は同時に雄治の方を向いた。
「私か──」
「俺か──」
「「どっちが良い!?」」
え?……普通にどっちも嫌なんだが?
黙って聞いてたらいつの間にか熱くなってるし、なんなんだよこの二人……
………
でも決めないと話が進まないよな?
どっちも嫌と言っても通じ無さそうだし……じゃあ当初考えてた通りで──
「石田で」
「よしっ!!」
「ふぁっ!?」
喜ぶ石田と絶望する優香。
因みに雄治が石田を選んだ理由は至極簡単……姉を選ぶのが恥ずかしかったからである。
「やっぱり、俺と坂本は運命の赤い糸で結ばれていたようだな……まさしく愛だっ!!」
やっぱ石田も嫌だな。
「はぁ~~~……マジで有り得ないんだけど?……はぁ〜〜……はあぁぁぁっ〜〜……」
いや落ち込み過ぎだろ。
──話し合いに決着?が着いた……しかし、黙っていた生徒会長の高宮が此処で立ち上がる。
「あの……二人とも、盛り上がってる所悪いんだけど後輩くんと組むのは金城さんだよ?」
「………え?どういう事ですか?」
「どうもこうも無いよ。私の話を最後まで聞かないで……むう~」
「すいません」
「なんかごめん」
頬っぺたを膨らませて怒ってるのをアピールする高宮。ただ優香と石田のみならず、誰一人として恐れる事はなかった。
むしろホッコリしている……要するに怒っても全然怖くないのだ。
「事前にペアは決めて有るのっ!本当は私が後輩くんの面倒を観て、坂本ちゃんには金城さんをお願いしようと考えてたけど、何処からともなくペアの情報を聞き付けた金城さんにジャンケンで負けちゃって……」
少し悔しそうな表情を浮かべる生徒会長。
ここで静観していた金城可憐が口を開く。
「……ごめんなさい、お姉様、石田さん。今回は雄治様を頂きま──」
「ダメっ!やっぱり後輩くんとは私が組むっ!優香ちゃんとは上級生同士だから組めないし、ここは後輩くん以外嫌だもんっ!弥支路ちゃんは行事だと口煩いから嫌だしっ!」
「え?急に飛び火……」
「生徒会長様、唐突にどうなさいましたの!?」
「なんか揉めてんね?なら姉である私が──」
「いやいや、実際に坂本が名指しで選んだのは自分なのだから、此処は彼の意見を尊重すべきでは?」
四人は一斉に雄治を見る。
「後輩くん……もう一度聞くけど──」
「「「「誰と一緒が良い!?」」」」
「……おぉう……みんな嫌……って言ってもダメな感じね……はい」
この四人の中から選ばされるの……?
ロクなヤツ居ないんだけど……?
俺そんなに悪いことして来たかな?
此処まで追い詰められるくらい悪い事した覚えはないよ……この世界に神なんて居ねーよ絶対。
居たとしたら絶対に俺恨まれてるわ。
「もぉ〜良い加減にして下さいっ!真面目なの坂本さんしか居ないんですか!!?」
唯一まともそうな弥支路さんは怖いし。
俺が正常なら弥支路さん一択だったよマジで。
もうお家に帰ろうかしら?
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