第2話 石田と愛梨
「ではホームルームを終了するでござるっ!各自解散っ!然らば御免っ!」
担任の号令で雄治は帰りの支度を始める。愛梨に話掛けられたが、それ以外は比較的に平和な1日となったのだが──
(ウチの学校の先生癖が強すぎるだろ……敢えてヤバいの集めたのか?)
──と坂本雄治は心の底から思ったという。
──学校の教員に疑問を抱きながらも、帰りの支度を始める雄治……しかし、ヤケに気怠そうだ。
それもその筈、なんせ週末に控えた歓迎会の件で今から生徒会室へ向かわなければならないのだ。
雄治は引き受けた事を心から悔いていた。もちろん家に帰ってゆったりとする時間が減るからである。
「じゃあ行こうか」
「ぬぉ!?」
何の音もなく石田が後ろに回り込んでいたし……しかも急に話しかけるから本当にビックリしたんだが?
ただ石田の登場で驚いたのは俺だけではない。姫田愛梨もビックリしたらしく目をパチクリさせていた。
「今日は生徒会に行くんじゃなかったの?」
今回は俺に用事だと思うんだけど……会話で解るだろう──まぁ姫田愛梨は尋常じゃない位に脳みそがイカれてるし、そんな事まで頭回らないよな。
「……え?──あっ!姫田さん、坂本と隣の席だったんだね……知らなかったよ……」
「…………」
余計な口は挟まないけど、そこは知っといた方が良いと思うぞ彼氏として。
「う、うん……そうだけど?」
「そうなんだね。でも今日はごめん、俺は『彼』に用事があって来たんだ」
そして石田は俺へ視線を向けた。
それだけで石田の言う『彼』の正体が俺だと気付いたらしい姫田愛梨……だが、何故か途端に不機嫌な表情に変わる。
「……もしかして雄ちゃんに会いに来たの?」
「うん、まぁね」
「……どうして?」
「いやどうしてって……一緒に生徒会の手伝いをする事になったんだ」
「石田くんがそうなのは知ってたけど……雄ちゃんもそうなんだ……どうして黙ってたの?」
姫田愛梨は抗議の眼差しを俺に向けて来るが、もちろんそんなモノは無視する──と言うより、俺は姫田愛梨には朝からずっと塩対応だ……なのにこうやって話し掛け続けて来る図太さは実に素晴らしい。そういう所ほんと大っ嫌い死ね。
「でもさ、石田くん……別に雄ちゃんを迎えに来なくても良いよ?」
「「はぁ?」」
なんだコイツ?
思わず石田と声をハモらせてしまったぞ。
死ねと思ったばかりなのに、それ以上の負の感情が愛梨に対して押し寄せて来る。
今日は一日中なにを言われても無視し続けていたが、これは文句を言わずに居られなかった。
「なんでお前が勝手に決めてんだよ?」
「……あっ、やっと口を聞いてくれた……嬉しい」
「……ゴミ女」
「なっ!?い、言い過ぎでしょ!?──もういつまで怒ってるの!?雄ちゃんが私に対して冷たいから優香さんに愚痴愚痴言われてるんだよ!?ほんとに……雄ちゃんも大変だよね、あんな最低なお姉ちゃんを持っちゃってさ」
「……次、姉ちゃん悪く言ったらマジ殺すからな?」
「こ、殺す?な、え?」
「お前みたいな女に姉ちゃんの良さなんて一生解らないさ……石田行こうぜ」
「ああ……すまなかった、俺が来た所為で」
愛梨に聞こえないような小声で石田はボソッと呟いた。ただ、今の会話はたとえ小声でなくても愛梨の耳には入らなかっただろう。
雄治に言われた言葉が余程ショックだったらしく、愛梨は呆然と立ち尽くしている。これほどの暴言を吐かれたのは初めてだったようだ。加えて相手が雄治なら尚更ショックは計り知れない。
そんな茫然自失の幼馴染を放置し、雄治は石田と一緒に教室を後にする。そして廊下を歩きながら雄治はさっきの呟きに対しての返答をした。
「石田が気にすることじゃないさ」
「……ありがとう坂本……やっぱり優しいな」
「だろ?」
「ああ……それとこの場所を覚えているか?」
「ただの廊下だろ?」
「俺と坂本が初めて言葉を交わした場所さ」
「う、うん………んん?」
凄い記憶力だな……若干キモいけど、まぁ細かい事は気にしない様にしよう。深く考えると怖いし。
「そうだ石田、我儘な注文だけど姫田愛梨の手綱をちゃんと握ってくれませんかね?」
「……善処します」
「歯切れ悪いな」
「はは、ちょっと自信がないよ」
もっと自信持って欲しいんだけどね。
今のところは大丈夫そうだけど、アイツの我儘っぷりが発揮されたら……どうなることやら。
「それともう一つ」
「ん?なんだい?」
「なんか変なメールを送って来るのも止めてもらっても良いですか?」
「それはマジでごめん」
今度はめちゃくちゃ歯切れ良いな。
────────
生徒会室に到着すると、俺と石田以外の全員が既に集まって居た。
姫田愛梨に絡まれてた所為で出遅れたらしい。
生徒会長、金城さん、弥支路さん……それに今日は姉ちゃんが加わっている……とはいえ姉ちゃんが時間通りに居るのが驚きだ。
恐らくは生徒会長が連れて来たんだろうけど、猛獣を手懐けられるなんて……本当は凄い人なのか?
「雄治……取り敢えず私の隣に座り?」
「お、おう」
言われた通りに、俺は姉ちゃんの右隣の椅子に腰を降ろした。そして俺の左側に石田が座り、正面には生徒会長と弥支路さん……それにお嬢様が座っている。
「雄治、いま可憐ちゃんと話してたけど、とりま良い子だよ?楊花もだけど後輩に恵まれてんねアンタ」
「何の報告だよ」
「ほんとに何の報告なのよ坂本ちゃん」
「ありがとうございますわ、優香様」
少し不機嫌な高宮と凄く上機嫌な可憐……実に対照的だと雄治は思った。
ただ高宮の機嫌が悪い理由が、後輩女子と仲良く話しをする坂本優香への嫉妬だとは夢にも思ってないようだ。
──そして六人は打ち合わせを始める。
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