第三部 克服しようと足掻く者
第1話 あの頃の記憶
今から6年以上も前の話。
まだ小学生だった頃の雄治は、金髪の男の子と一緒に良く遊んでいた。
場所は決まって人気のない空き地。
とても気が合う子で本当は毎日遊んでいたかったが、この頃から愛梨と一緒に居ることが多かった為、そう頻繁には会えなかった。
「え!?カップ麺を知らないの!?」
「……そんなに有名なの?」
男なのに金髪で長い髪……加えて常に帽子を被り、どんなに暑くても肌の露出の少ない格好をしていた……カップラーメンを知らないほど世間知らずで、それでいて綺麗な顔立ちをした少年。
そんな彼が雄治にとって一番の親友だった。
名前をレンと名乗っており、何故か苗字を名乗ろうとはしなかった。男同士なのに互いに触れ合うと恥ずかしがったり、不思議に思う事も多々あったが、雄治はそんな彼と一緒に遊ぶことが本当に楽しかったのだ。
……しかし、自分以外と親密なのが気に入らない愛梨に何度か咎められていた。この時から既に愛梨の束縛が酷かったのだ。
「──優ちゃん……その子と遊ぶのをやめて」
「……え?どうして?」
「良いからっ!今度あの子に会ったらもう口聞いてやらないからね!」
「……解ったから、そんなに怒んないでよ」
だが、当時はまだ愛梨を好きでは無かったのもあり、忠告を無視して雄治はレンと遊び続けた。
幼馴染からの頼みを反故にするほど、彼と遊べる日々が魅力的だったのだ。
……ひょっとすると、雄治にとって一番の思い出だったのかも知れない。
──だが、そんな日々も唐突に終わりを告げる。
いつもの待ち合わせ場所へ行くと、黒服を着た見知らぬ老人から声を掛けられた。
「貴方が坂本雄治様ですね?我が家のお嬢様は習い事を抜け出して貴方と遊んでた様です……大変申し訳ないのですが、今回の件で旦那様がお怒りなので、もうお嬢様は此処へは来れません」
「……お嬢様?なんの話?女の子とは愛梨以外と遊んでないけど?」
「……なるほど……そう言う事でしたか……」
老人は顎に手を当て何やら考える。
予期せぬ事に面を食らった様子だったが、直ぐに何かを閃いたように顔を上げて説明を始めた。
「先程のは人違いでした。実はここで一緒に遊んでた少年から言伝がありまして……彼は訳あってもう此処へは二度と来られないみたいですよ?」
「……子供だからって舐めてる?そんな雑な嘘に誤魔化されないよ?」
「て、手強い……!!──ではなく、本当に待っててもお嬢……少年は来ませんよ?」
「……俺はレンを信じる」
「……そうですか……ほんとに申し訳ないです」
「良いですよ!元気でね!嘘つきのお爺ちゃん!」
「嘘つきは心外ですが……雄治様こそお元気で。短い間でしたが、お嬢様の幸せそうな顔を観られて嬉しかったです」
(お嬢様は知らないって言ってるのに……もしかして老化進んでる?)
──深く頭を下げ老人はその場から姿を消したが、取り残された雄治はいつまでもレンが来るのを待ち続けた。
「………」
しかし老人の言った通り結局来なかった。
もしかしたら急用が出来たのかと、その日は諦めて別の日に訪れたが、それからレンがその場所を訪れる事はなかった。
──そんな日が少し続いた別の日。
見知らぬ女の子が以前話した老人と一緒に、一度だけ訪れた事があった。レンと同じ髪色をした少女が泣きそうな顔で手を振って来たので、雄治もそれに手を振って返した。
「…………」
そして、ベンチに座りながら待ち続ける。
それからその少女も来ていない。
季節が一巡した頃、中学生になったのを皮切りに、とうとう雄治も諦めてその場所には行かなくなった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
~雄治視点~
「今から学校なのに寂しい夢を見ちまったな」
目を覚ました雄治は独り言を呟く。
昨日は目が覚めると姉に殺されそうになった……それに比べればマシな目覚めだが、それでもノスタルジックな気分には浸ってしまう。
「最近、なぜかこの夢を見るんだよな……レンの奴、元気にしてるかな?」
当時は恨んだりもしたが、成長した今なら止むを得ない事情というのも理解できる。きっと家庭で何か起きたんだろうな。
家族関係に悩まされてるからこそ分かる。
だから今は全く恨んでいない。
「よしっ!行くかっ!」
俺はいつもの様に支度を済ませて家を出た。
姉ちゃんは先に行ってる。
一緒に行かなかったのは、姫田愛梨を牽制する為だったらしいんだけど……やはり案の定、外で待ってたらしく、姉ちゃんが奴を無理やり引き連れて行くのが窓から見えてしまった……姉ちゃんグッジョブ超好き。
身支度を終えて俺も家を出た。
「──おはよう御座います!雄治様っ!」
「……おう」
愛梨は居なかったが、外には金髪のお嬢様……金城可憐が待ち構えていた。
一週間に一度なら来ても大丈夫だと言っていたが、まさか週初めの月曜日に居るとは思ってもおらず、雄治は少し驚くのであった。
──しかし不意に登場されても、一緒に登校する事になっても、やっぱり彼女に嫌悪感を抱く事は無かった。
それが不思議でしょうがない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます