第15話 女性不信の症状は無自覚に現れる
雄治と生徒会長。
二人の話が悪化の一方を辿りそうだった為、黙って様子を見ていた金城可憐が見かねて話に割って入る。
「……生徒会長。そういう事でしたら仕方ありませんわね。嫌がる雄治様に無理強いは出来ませんもの」
話し合いが始まってから無言だった金城可憐が、ここで口を開いた。
生徒会長と雄治の会話を邪魔したくなかった……というのは所詮は単なる建前で、彼女は雄治の横顔に見惚れてしまい黙ってたムッツリに過ぎない。
想い人を間近で閲覧できる喜びを彼女は堪能していただけなのである。割と変態チックだ。
「生徒会長が雄治様をお呼びになると耳にした時は嬉しかったのですが、一番大事なのは雄治様の気持ちですもの。それに強制はしないと言っておきながら、それはあんまりでしてよ」
「う、うん……確かにそうだよね」
雄治と一緒に行事を行い、互いの親交を深めようと画作していたらしく、高宮椎奈はしゅんと項垂れた。
「今更な話だけど、もしかして金城さんもボランティア?」
「あ、はいっ!地域の子供達に何か手助けができればと思いまして……!」
「そうか。優しいんだなやっぱり」
こういう所なのかも知れんな、この子を受け入れられるのは。
「……はぅ……ありがどうございばす……いへへ」
「う、うん」
笑い方若干キモいけど。
俺が引いてると生徒会長が謝罪の言葉を口にする。さっき執拗に勧誘を行ったことに対してらしい。
「……ごめんね、後輩くん」
別に気にしてないけど……?
でもアレだな、折角だしちょっとからかおう。
「いやごめんじゃ済まないですよ。一生恨みます」
「………ご、ごめんなさいぃ~……!!」
おっ!効いてる効いてる!
「あとイキがるって冗談で言ったのに、それに対して『ちょっとそんな所があるかも』って言った事も恨みます。いやそれは結構マジで」
「え……ちょっと流石にみみっちくない?」
「………いまみみっちいと言った事も一生──」
「も、もう分かったからっ!何なのっ!もう!」
「冗談ですよ。金城さんの他に手伝ってくれる方はいらっしゃいますか?」
この質問には弥支路が答える。
雄治は無意識に体を強張らせた。
「今のところは金城さんだけですね」
「そう……ですか…」
「はい……?」
態度の変化に気付く弥支路……しかし、話の腰を折ってしまうからと何も言わなかった。
そんな歳下生徒会員を他所に、雄治は顎に手を当てて少し考え始める。
(折角誘ってくれたのに、断ってそれで終わるんじゃ申し訳ない。少しアドバイスでも送るとするか)
「二年に石田って奴が居るんだけど、彼なんてどう?人格的にも問題ないと思うけど……?」
「石田さんには私からお声掛けしました。でも『坂本雄治が参加するなら僕も参加する』と仰ってまして……」
「なんでよ?」
何なのアイツ?俺が行く事でなんの得があるんだよ?
てか俺がこの話を断ったら戦力激減じゃねーか……どうしようかな?
「生徒会長じゃなくて弥支路さんが声掛けたの?」
「実は生徒会長って、坂本先輩以外の男性に話し掛けるのが怖いらしいんですよ」
「ちょっ!余計なこと言わなくていーのっ!!」
男性不信かな?
でも俺だけ大丈夫とかもしかして舐められてる?これまでの呼び出しも算段とかが有った訳じゃなくて、純粋に俺は舐められてたのか?
姉ちゃんの弟だからって馬鹿にすんなよな。
あ、姉ちゃんの話題で思い出した……
「ウチの姉ちゃんとかどうですか?無表情を維持しつつ子供に暴力振るいそうな見た目ですけど、小さい子の面倒見が凄く良いですよ」
「うん。知ってるっ!」
俺に聞かなくても分かってたらしく、ほんとに嬉しそうに生徒会長は頷いた。
姉ちゃんの事が苦手だと思ってたけど、姉ちゃんの隠れた良さに気付くなんて……意外とやるじゃないか。
因みに今の知ってるは『無表情を維持しつつ子供に暴力を振いそうな見た目』に対しても同意したと捉えて良いのか先輩よ?俺口軽いから言っちゃうぞ?
「だから真っ先に誘ったんだけど……『弟が参加するなら参加する』の一点張りで……」
「姉ちゃんまでそうなの?」
「うん!愛されてるね!」
「…………いや、う〜ん」
ドイツもコイツも何なんだっ!
自分で言うのも何だけど最近病んでるし、俺が居てもそこまで面白くないと思うが……?
いやしかし、絶対に行くつもりなんて無かったのに心が傾きかけてる。俺が断ると欠席者が増えてヤバそうだもんなんか……生徒会を困らせるのは不本意だ。
「ち・な・み・にっ!!」
「……まだなんかあんの?」
「私も後輩くんが参加するなら参加しますっ!」
「だったら辞めてしまえ」
「あ、言い過ぎ」
阿保の生徒会長は一旦放って置いて……みんな俺に何を求めてるの?
俺が居ても別段、毒にも薬にもならないと思うんだけどな?てかそこまでムードメーカーでもないし。
ただ参加すれば姉ちゃんも石田も来るのか……
………
………それなら参加しても良いかな?
あの二人が居れば心細くはならないだろう……それに、あえて女子中学生が屯する死地へ飛び込む事で、女性に対する不信を克服できるかも知れない。
「………なんか俺が行くと参加者が増えそうですね。じゃあ今回だけ参加しますよ」
「やったっ!!」
「やりましたわっ!!」
「ありがとうございます!坂本先輩っ!」
三人とも大いに喜んでくれた。詳しい話はまた後日という事で話し合いは終結する。その後は少しだけ生徒会長の話に付き合った。
──そして、解散した後の俺は一人で廊下を歩きながら、先までの事を思い返す。
「そういや、女性相手なのに普通に話せたな。結構良くなって来たのかも知れない」
この調子なら症状が良くなるのも時間の問題だな。
そしたら楊花ともきっと話せるようになる……そして、そうなったら真っ先に謝ろう。
「でも今は会う事を想像するだけで怖いんだよな」
「何が怖いんですの?雄治様?」
「いや、気にしないで──つーか着いて来たの?」
「はいっ!一緒に帰りましょうっ!」
「まぁ良いけど」
俺はお嬢様と距離を開けつつ一緒に帰る事にした。
やはり彼女との間に会話はなく、偶に聞こえてくる彼女の鼻歌がヤケに耳にこびり付いて離れなかった。
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~弥支路視点~
「あれ?」
雄治と可憐が去った後、弥支路は四人分のコップの片付けを行っていた。しかし、雄治のコップを片付けようとしてある事に気が付いた。
「坂本先輩、お茶一口も飲んでないです。どうしたのでしょうか?」
「え?でもずっとコップ見てたよね?」
席から立ち上がり、高宮もコップの中身を確認する。
「ほんとだ……」
やはり減ってなかった。
飲んだ形跡が何処にも見当たらない。まるで最初から飲む気が無かったような……そんな違和感すら感じられる残りっぷりだ。
「体調が悪かったんだよ、きっと」
「そうですね……いつも必ず飲み干してくれるんですからね」
「だよだよっ!それより弥支路ちゃんっ!石田くんに連絡をお願い!私は坂本ちゃんに後輩くんが来る事になったって伝えるからっ!!」
「はい、分かりましたっ!」
二人は何事も無かったかのように行動を開始した。
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次回、ちょっとした百合回です。
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