第14話 面倒な奴ら大集合
生徒会室には四人の生徒が集まっている。
三年生、高宮生徒会長。
一年生、金城さんと弥支路さん。
そして二年生の坂本雄治こと俺……因みに大好物はプリン。それを奪い取ろうとするヤツは絶対に許さない。それが例え血の繋がった姉だとしてもだ。
……話を戻そう。
金城さんと此処で会うのは初めてだけど、後の二人は生徒会役員だから、この部屋での顔見知りになる。
「あっ……ふふっ」
目が合うとお嬢様は嬉しそうに手を振ってくれる。彼女とは殆ど面識が無いと言うのにやっぱり不快感は全く感じない。ほんとになんだこのお嬢様?
「………元気?」
「元気ですわ。そしてお久しぶり雄治様っ!今日も凛々しいですわっ!」
「元気そうで良かった……でも凛々しいとか言わないで……まぁ全部ほんとの事だけどさ」
「そうでございますわ!!」
「……う、うん」
(はい、突っ込まれませんでしたっ!)
そして四人は各々席に座る。
俺の隣には金城さん、正面に生徒会長、斜め向かいに弥支路さんが座ることになった。
ただ学年こそバラバラだが、男子生徒が俺一人という恐ろしい状況下に置かれている。
生徒会長に悪気は全く無いんだろうけど、今の俺にとってこの空間は非常に恐ろしいモノだ。
特に弥支路さんが危ない。
なんせ彼女は優秀な人だから、弥支路さんが本気を出せば俺なんて簡単に潰されてしまうのだろう。敵にすると厄介だ。これまで通り適度な距離感を持って接しよう。
──雄治がこう思う様に、弥支路はこれまで彼に対し、最低限の会話しかして来なかった。
もちろん雄治が苦手という事ではなく、高宮との話を邪魔しない為だったり、雄治が先輩だから気を遣っていたというのが主な理由だったが、その絶妙な距離感で接していたのが仇となった。
しかも彼女は普段から類稀な秀才っぷりを発揮しているので、それも雄治の疑心の念を深くしている。
「……?坂本先輩?どうしました?」
「………いや………別に……」
「そ、そうですか……」
(──なんかいつもと違うような……?)
弥支路は違和感に首を傾げる。
ただ、そこまで気にする事はなかった。まさか警戒されてるとは夢にも思ってないのだ。
なのでこれまで通りお茶を雄治の前に置いた……雄治が美味しいと飲んでくれるいつものお茶を。
「坂本先輩、今日も呼び出してすいません」
「いえ……ありがとう……ございます……」
「敬語は良いですって」
弥支路に対して敬語なのはいつも通りで、そこは前と変わらない坂本雄治の姿だ。そして賢く空気の読める彼女は程よい距離感に戻る。
(まさか金城さんまでたらし込むなんて……坂本先輩も隅に置けませんね)
内心は弥支路も雄治を気にはしている。
ただ、高宮が彼に抱く【彼女自身も無自覚な気持ち】を察しているので、尚更、この距離感を保つ。親しい人とライバル関係になりたくないからだ。
(とは言っても……)
弥支路はそんな高宮へ目を向けて呆れ顔をする。
高宮も雄治と距離がある。互いに触れられる程の距離にはなかなか近付こうとしない。
ただその奥手さが今の雄治には良かった。お陰で彼も生徒会長を警戒しなくて済むのだから。
「…………」
雄治は目の前に置かれたお茶をずっと見詰めていた。
場が少し沈黙気味になったので高宮はコホンと可愛いらしく咳払いをし、徐に話を始めた。
「えぇ~と……実はちょっと後輩くんに頼みがあって……」
「何ですか?」
雄治がお茶をジッと見詰めながらそう尋ねると、高宮は笑顔で説明を開始した。
「実はね、地域の小学生との交流会を行うんだけどね?良かったら後輩くんに手伝って貰いたいなぁ~……って、思うんだけど。ちょっと私と弥支路ちゃんだけだとキツくて」
「……………小学生との交流会?というより他の役員の方々はどうしたのです?」
高宮と弥支路の二人だけと言う言葉に疑問を抱き、雄治はそれについて訪ねる。
生徒会役員はもっと多い筈なのだ。
「生徒会メンバーは幼稚園、小学生、中学生、の3組に分かれてるの。だからそれぞれで協力してくれる生徒を集めるようにって、先生に言われて」
「…………そうですか。カスみたいな先生ですね」
「口悪過ぎだよ?……まぁそれは良いとしてぇ──後輩くん手伝ってくれないかなぁ~、と思ってね?」
「…………手伝い?」
「うん……どうかな?」
「…………」
雄治は無言で考え始める。
ただそれは交流会を手伝おうか悩んでる訳ではない。最悪なことを想像していたのだ。
──もしかして、こうやって雑用を押し付ける為に、普段から親切に接していたかと。
雄治は生徒会長の人柄を知っている。彼女がそんなことする筈がないと解っていてもつい疑ってしまうのだ。
「あっ、もちろん強制じゃないからね!嫌なら断っても良いからねっ!」
「……良いんですか?」
「うん!もちろんだよっ!私が後輩くんに声を掛けたのは、君が一番信頼出来ると思ったからなんだよ?他の男子とかだと相手が年下だからつい乱暴になったり、イキがったりする子も居ると思うけど、後輩くんならそんな事しないでしょ?」
「……あ、ありがとうございます」
……冷静になれ坂本雄治。
今のが生徒会長の本心で間違いない。この言動も俺を乗せる為のおべっかいとかでは決してない。そこまで疑う必要はないんだ。
生徒会長は人見知りの根暗だけど、人を欺く様な事はしない筈。だから信じよう。
もし怪しく思ったらその時は逃げ出せば良いんだしな。大丈夫、生徒会長は良い人だ……いつも俺の事を助けてくれて………
……
……あれ?
生徒会長に助けて貰った記憶が無いんだが?
そう言えば学校にゲームとか持ち込んでるし、この人ちょっとヤバいんじゃないのか?
ただまぁ、それとは関係なく──
「で、どうかな?」
「あ、普通に嫌です」
「えええぇえッッ!!!???」
「あ、うるさ」
信じる信じない以前の話……普通に嫌だった。
もう女性が苦手とか一切関係なく、学校のボランティア活動の為に時間を潰すのが勿体なかった。これが裏表なしの本音だ。
第一、何が悲しくて小学生の相手なんかしなくちゃダメなんだよ。女子小学生とかも居るんだろうし、行っても怖い思いをするだけだからな?
「ど、どうして?や、やっちゃおうよ?ね?」
「おっとぉ?強制はなしですよ?」
「ぐぐっ……!」
高宮はまるで力が抜けたかのように、椅子の上へとへタレ込んだ。何処から来る自信だったのか、雄治が断るとは考えてもなかったらしい。
「それに生徒会長は勘違いしてますよ?」
「勘違い?」
「はい。小学生相手に乱暴な事はしませんが、イキがりはすると思いますよ?」
「確かに……言われてみれば、ちょっとそんな所があるかも……?」
「……そんな事ないと思うけど?」
「後輩くんが自分で言ったんだよ?」
「いやそんな事ないって言葉が欲しかっただけですけど?」
「そんな事ないって言ったら来てくれる?」
「うわしつこい」
こんなやり取りが少しの間続いた。
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