第13話 雄治の異常性



「以下の英文を翻訳するデースッ!!──Mind can be observed and known. But you can know directly only your own mind, and not another's. You may look into my face and guess the meaning of the smile or frown, and so read something of the mind's activity. that is not always rig──まぁ何というか超簡単デース!」



英語の授業中……今の状況を真剣に考えてみた。



──この数日の間に、俺は女性に対して発症する症状についてある程度把握する事が出来た。


結論から言ってしまうと、面識のない女性と話しをするのはかなりキツい。

話したことがない女性が相手だと、この間のお婆ちゃんの時みたいな疑心暗鬼の念に駆られてしまう。

クラスメートの女子が相手でも、これまで話してなかった女子だと似たような感情になる。

他にも教室で騒ぐギャル共の声は耳障りで仕方なく感じてしまったりと──どうやら場合によっては疑心の念どころか嫌悪感を抱くようだ。


これまで普通に話してた女性が相手の時でも、何気ない会話のワンフレーズに脳が気を付けろと勝手に警報を発してしまい、変に警戒する事もあった。高宮生徒会長の時と同じ症状だ。

そうなってしまうと、相手が知り合いなだけに突き放したりする事も出来ず、直ぐに逃げ出したい感情に駆られてしまう。

後は姉ちゃん以外の女性に近付かれるのは無理で、ある程度の距離感を保って貰わないとまともに話をする事すらままならない。



「………どうなってんだよ」


……こんな症状誰にも相談できない。

下手したら女性軽視だと白い目で見られかねないし、人間性も疑われてしまう。

だから俺が頑張って、自分一人の力でどうにか解決策を見つけるしかないんだ。



──ただ、中には例外も存在する。


例えば姉ちゃん。

あの人だけは無条件で信用してしまう……本当に今まで通り普通に話しが出来るんだ。

それに最近になってから姉ちゃんは色々良くしてくれる様にもなった。プリンの件はまだ許してないけど、俺が唯一心から信頼してる女性で間違いない。

だからこそ、この人に裏切られたら本当に終わりなんだと確信が持てる。こうなると尚更相談出来ない……姉ちゃんにだけは絶対に嫌われたくないから。



──そして、悪い方の例外として楊花が居る。


彼女に対しては顔を合わせると数々のトラウマが勝手に蘇り、異常なまでの拒否反応が現れてしまう。


だが彼女に関しては俺の責任が大きい。

彼女が町田くんにした事は許されない事だとは思うが、それはあくまでも町田くん視点の話に過ぎない。

母さんの時と違って楊花は家族でも無ければ、俺と実際に付き合ってた訳でもないのだから、第三者がとやかく言う様な話じゃない……本気でそう思ってる。

でも心がどうしてもそれを分かってくれない……身勝手に彼女を許すなと騒ぎ出す。だから拒絶してしまうんだ。


ただ楊花とは、姉ちゃんのお陰でまた連絡が取れる様になった。面と向かったり彼女の声を聞かなければ今のところ問題ない。

こんな風に徐々にでも楊花との関係が改善されると嬉しく思う。最終的には前みたいに……そう思えるほど今でも楊花のことは好きだ。



──そして俺にとって良く解らない存在なのが、金城可憐という歳下のお嬢様についてだ。

彼女はハッキリ言って他人に分類される関係の筈……なのに割と普通な感じで話す事が可能。

何故なのか分からないが、俺にとって金城可憐とはまさしくイレギュラーと呼ぶべき存在だろう。



──そして気になるのは母さん。

あの人とは俺がこうなってから一度も会ってない……なのでどうなるのか分からないけど、碌なことにならないのは何となく解ってしまう。

会うのが本当に怖い……




「……これって良くなるんかね?」


正直不安だ。

何であんな程度の出来事で、こんな訳の分からない状態に陥らなければならないのか……?



「はぁ〜………」


先の事を考えると自然に溜息が漏れてしまった。



「──じぃ~………」


「…………」


隣の席の姫田愛梨がジッとコッチを見ている。

マジで鬱陶しい。あの目ん玉潰したい。


それでも俺は無視を決め込む。あの女で悩むことなんて無いんだよ。アイツは俺の人生に不必要な生物……だから石田、しっかり面倒見てくれよ?

あんま脳みそ詰まってないから大変かもだけど、まぁ石田なら大丈夫だろ……俺と違ってしっかり者だし。



──そして気が付くと授業は終盤に差し掛かっていた。これは流石にマズイと思い、雄治は授業に集中する事にした。



─────────



結局、放課後まで姫田愛梨とは一言も話さなかった。

あの女も朝の一件で機嫌が悪かったらしく、向こうから話し掛けて来る事もなかった。この関係を維持出来れば非常に嬉しい。

でもあの女の脳みそは相当腐ってるから、明日には忘れてるんだろうな。


特に誰とも帰る予定が無かったので、俺は鞄に教科書を詰め込んでそのまま帰ろうとした。しかし、廊下へ出た所で見知った女性から声を掛けられてしまう。


相手は唯一面識のある上級生様だ。



「ああっ!間に合って良かったぁ~!ちょうど後輩くんに会いに来た所なんだよっ!」


「生徒会長……」


女性に対して不信を抱いてしまう今の俺だが、そんな中でも比較的に症状の薄い相手……それが話しかけて来ている高宮生徒会長だ。



「今から生徒会室に来れる?話があるんだよっ!」


えぇ……嫌だわ。帰ってゲームしたい。



「ごめんなさい、これからシャバに出て来る姉ちゃんを迎えに行かないと……」


「えぇ!?坂本ちゃん刑務所に入ってたのっ!?」


「はい……作る御飯がマズくて……それで捕まって……」


「えぇ……それだけで捕まるの……?」


「はい……俺もう、どうすれば良いのか……」


「ふぅ~ん……でも今日、坂本ちゃん居たよ?」


「ああ、ですよね」


「…………」


「…………」


「………どうして迫真顔で嘘吐くの?」


「ごめんなさい」


「うふふ、素直に謝ったから許しちゃう!」


なんだコイツ!?適当に謝っただけなのにアッサリと許してくれたぞ……?!でもまぁ……どうやら何でも信じてくれる訳ではないらしい。


嘘を付いたお詫びとして会長の頼みを聞く事にした。



小さな先輩の後を着いて生徒会室へ向かうと、中には──



「……ご機嫌ようですわ、坂本様っ!」


金城可憐が上品な挨拶を披露し、俺に向かってニッコリと笑い掛けて来た。



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