第16話 善行のツケ 〜優香視点〜


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~優香視点~


──やっぱり眠い。


弟の為に昨日から早起き頑張ってるけど全然慣れやしない……もうマジで超眠い。でもまだ2日目だから弱音なんて吐いてる場合じゃないんだよね。


雄治の為、雄治の為、雄治の為……よしっ!



「ふわぁ~……」


でも眠い……だけど雄治のためぇ……ねみぃ。



──優香は大きなアクビをしながら弟と二人で登校していた。朝早いから人気が殆どない。

すると、ここで優香の脳裏にとある疑問が浮かび上がった。



「よく考えたら雄治はどうしてこんなに朝早いのよ?別に部活もやってないでしょ?学校でなんかあんの?」


「特に何もないけど?」


「じゃあどうしていつも早いの?」


「姫田愛梨が出来るだけ人が少ない時間を二人っきりで歩きたいって……………あれ?───いやいやいやいやちょっと待てやっ!!結局オレが早起きなのも、最近イライラするのも全部アイツかよっ!!」


急にめっちゃキレんじゃん。こえーよ。



「お、おう……じゃあ明日から遅くしない?」


「いや、習慣付いちゃってるから今更無理」


「……そう」


この子やっぱり馬鹿だなぁ。

ま、こういう所が可愛くもあるんだけど。



「そう言えば、なんで愛梨のこと姫田愛梨ってフルネームで最近呼んでるの?」


「……アイツには一切の親近感を持ちたくない」


「……そっか」


愛梨……どんだけの事やらかしたのよ。雄治がここまで誰かを嫌うところ初めて見るんだけど?


でも、私も実は愛梨に良い感情を抱いてない。

雄治と一緒に遊んでいるのを邪魔して来たし……祭りの時なんて雄治に美味しいもの沢山買うんだって、お金をいっぱい貯金したのに、愛梨が目を離した隙に雄治を連れてっちゃったから全部無駄になった事もあったなそういや。


思わず泣いちゃってたなぁ。

そんな私を見て雄治も謝りながら泣いてくれたんだよね……まだ小学生だったとはいえ、雄治を泣かせるとか、あの時の私ダサかったわ。

ただあれ以来一度も弟を泣かせてないんだけどさ。


そんな事が有ったからぶっちゃけ私も愛梨が嫌い。

雄治が風邪を引いた時、強引に外へ連れ出そうとした時なんかは本気でキレたわ。てかあの子にはしょっちゅうキレてる気が……あ、そんな場面ばっかり見てたから雄治も私を怖がってたのかっ!


そう思うと段々腹が立ってきたわ……でも愛梨を怒ったのは自分の責任だし、恨んでも仕方ないか。



──そんな事を考えてる内に学校まで到着した。



「じゃあ、姉ちゃん……また後で」


「……ん」


でも最近、また雄治と話す機会が増えたから嬉しい。ずっと怖がられて距離があったように思ってたから、こうして一緒に登校できるなんて夢みたい。

雄治が不良に憧れてると信じて頑張ったのに、どうやらフィクションだから魅入ってただけらしい。逆にヤンキー化した所為で避けられてしまった。


いや普通気付くだろ私。

まぁ途中から流石に気付いた……だってチンピラ絞めてる場面を見られてドン引きされたし。

でも気が付いた所で後の祭り……もう不良界で引き返せない地位に立ってたんだよね。



「──ゆ、優香さんっ!」


「ん?」


座りながら上靴に履き替えていると、誰かに声を掛けられる。顔を上げると楊花ちゃんが離れた所から早足で近付いて来るのが見えた。

高宮以外の客なんて珍しいけど……何用だろうか?



「どした?先輩の下駄箱でしょ──って、おわっ!」


いきなり抱き着かれたんだけど!?

急になんなんこの子!?

潰されて立ち上がれないし……!!


てか胸デカいな……羨ましい。

まぁちょっとだけね?



「ど、どきなよ。小さい女の子がヤンキーに抱き着いてるから皆んな驚いて見てるじゃん」


「え?別に良いですよ?優香さん好きだし」


「そ、そうなの?」


そんなストレートに言うかね?

今の私、多分赤くなってるわ……ああ恥ずい。



「はいっ!お陰で昨日先輩とメール出来ましたよっ!文章だと普通に話せるみたいで、またいつでも送って大丈夫って、了承も貰えましたっ!」



それは朗報だね。

良かったよ、気掛かりだったからさ。



「ふーん……良かったじゃん」


雄治も頑張ってんだ。

楊花ちゃんは絶対に良い子だから、また話せるようになると良いんだけど……

でも、あの拒絶は異常だったから凄く心配だ。しばらく目を離さない様にしないとね。



「はいっ!良かったんですっ!」


楊花は元気良く返事をしてから、自分の顎を優香の肩に乗せた。しかも正面から抱き着かれてるので側から見ると異常な程の仲良しに見えてしまう。

抱き着かれてる優香本人も、その異常事態に恥ずかしがっていた。

狙ってはないのだろうが、押し付けられた豊満なる胸の感触が同性とはいえ更に羞恥を加速させる。


三年生の玄関なので周りに居るのは優香の恐ろしさに日々怯える彼女の同級生達だ。

そんな彼彼女らは、優香を組み伏せ身動きを取れなくしている小さな年下に恐怖するのだった。



「優香さん優香さんっ、今日も中庭に来てくれますよね!?」


「え?なんで?雄治と仲直りしたんならもう別に大丈夫でしょ?」


「……もぉ~姉弟揃って鈍感です。優香さんと一緒に食べれるのが楽しみなんです──男の人で一番大好きなのは圧倒的に雄治先輩ですけど、尊敬する女性はダントツで優香さんですっ!えへへぇ~」


「ぐっ!」


「今日は優香さんの膝の上で御飯食べますっ!」


「ぐぐぅっ!」


この子の甘え方ハンパないんだけど……もう聞いてるだけでほんと恥ずかしいっ……!


まさかとは思うけど、雄治に対してもこんな感じで抱き着いてたの?


………いや、流石に男女間ではないか。

いやいや流石にね?



「ああーーーッ!!!」


「うおっ!……あん?高宮?なんて声出してんの?」


──二人の抱き合う場面に鉢合わせてしまった高宮椎奈。彼女はいても立っても居られず二人の元へと駆け寄った。それもなかなかの剣幕である。



「ちょっとっ貴女っ!!坂本ちゃんになんで抱き着いてるのっ!?」


どうにか引き剥がそうとするも、楊花はピッタリとくっ付いており、軟弱な高宮の腕力では微動だにしない。

そして引っ張られている楊花は、不審な目で生徒会長を鋭く睨む。


「え……優香さん、この人誰ですか?」


「ん?生徒会長だけど、しんないの?」


「あっ!会ったことが有りました……生徒会長さん、おはようございます」


「はい、おはよう御座います……じゃないのっ!!坂本ちゃんに何やってるの!?離れてっ!!」


「え?それはちょっと……優香さんも、別に良いですよね?」


そう言って楊花は、優香にしがみ付いてる腕により一層力を込めた。大きめの胸が更に密着し、その感触で優香は照れ臭そうにする。


「えっ……いや別に、ダメって事もない──」


「坂本ちゃんは部外者なんだから黙ってて!!」


「……当事者なんだけど圧倒的に」


優香が周りを見渡すと多くの生徒が唖然として三人のやり取りを観ていた。しかし、優香に見られた途端一人残らず逃げ出してしまうのだった。



「流石に凹むんだけど。別に学校で問題起こした訳でもないじゃん。それなのに皆してさ……」


そんな優香の悲しい気分などお構いなく、二人は口論を続けている。



「ゆ、優香さんと一番仲が良いのは私ですっ!」


「か、勝手なこと言わないでっ!私が一番の友達なんだよっ!酷い目に遭ってるのを助けて貰ったしっ!」


「私もです!」


「ぐぬぬぅ……!!お前だったのか……!!──坂本ちゃんっ!!」


「あ、はい」


「誰が一番なのっ!?」

「誰が一番好きですか!?」


「…………………雄治」


「私もそうですけどっ!!この場合は二人のどちらかって意味ですよっ!?」


「そうだよっ!露骨にブラコンアピールしないでくれる坂本ちゃん!?」


「…………はう」


──し、死ぬほど恥ずかしいわ。


気が付いたら高宮まで抱き着いてるし……なんでこうなるのよ?



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