第10話 後悔した少女、その後


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~優香視点~


弟と見知らぬ少女のやり取りを目撃した次の日、優香は直ぐに行動を起こした。


本当なら母親の件を真っ先に処理したかったが、彼女が帰って来るのは週末と先が長い。なので先ずは少女に事情を伺う為、昼休みに彼女の学年を訪れている。




「──ここだな」


今は一年生のクラスに来てるんだけど……あの子、中川楊花ちゃんだっけ……?何組だろ?



「あ、あの……?」


「……ん?どした?」


近くのチャラチャラした金髪の女の子が、なんか嬉しそうに話し掛けて来る。私を知ってるって事はこの子アレだな……カタギじゃないな?



「……も、もしかして優香様ですか?あの生城高校の鮫州とチェーンデスマッチしたっていう……」


「………おいやめろ」


「ご、ごめんなさい!!言葉が過ぎました!!」


優香が睨みを効かすと相手は謝罪したのち押し黙る。

それを見ていた一般生徒達は、普段イキってる不良を言葉一つで黙らせる……そんな優香を見て恐れ慄いていた。



(……くそ、また変な風に顔を覚えられたじゃん)


学校では大人しい優香だが、こういった不可抗力の積み重ねで悪い噂が後を経たないのだ。



「……まぁいいけどさ。実は聞きたい事あんだけど……中川楊花ちゃんってどのクラスか解る?話したい事があってさ」


「え?──あっ!あの巨乳ちゃんなら、中庭に行ってましたよ!!」


おお、ダメ元で聞いてみたけど知ってんのね……てか巨乳ちゃんって……まぁ良いけど。



「あんがとさん。じゃあね……あと、変な噂流すんじゃないよ?」


「ウッッッスッッ!!優香様ッッ!!!」


「わ、うるさっ………そういうとこなんだよ」


「?????????」



なんつー不思議そうな顔してんのよ……まぁ言っても無駄か。場所が分かったしとっととズラかろう。



──優香は急足で中庭へと向かった。


移動の途中、とある女子グループとすれ違う。

笑いながら大声でする話の内容は自然と優香の耳にも入って来た。



「中川の奴、また一人で食べてるよ」


「友達居ないんだろうね~……まぁウチらが悪い噂流してるからだけどさ!」


「そうそう!なんかチビなのに男にモテんのが腹立つ!私の狙ってた男子も告白してたし!」


「ねぇ……もっと孤立したら本格的にいじめちゃおうよ!町田とも別れたみたいだし、助ける人居ないでしょ!」


「そうだね!──でも金城のお嬢様には気を付けないと」


「そうね……いつも陰口叩いてたら『言いたい事が有るなら直接言いなさい』とか良い子ちゃんぶるんだよね」


「あのお嬢はヤバそうだから手が出せないけどさ……はぁぁうぜぇうぜぇ」


「取り敢えず、中川には水でもぶっかける?」


「はははっ!いいかもねそれ!」




「───つまんねー奴ら」


中川楊花には、あの日どうしてああなったのか聞くつもりだったけど……これは予定変更かな?



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~楊花視点~


「…………」


今日は中庭で一人御飯を食べてる。

ううん、今日『は』じゃなくていつも一人。


だって友達なんて居ないんだから……二人分のベンチは私の独り占めだ。寂しいけどね。



「町田さんには酷い事したな……」


周りが見えてなかったなんて言い訳は出来ない。本当に酷い事をしたし、酷い事を言ってしまった……なのに、さっき謝りに行ったら──



『良いよ。あの時はショックだったけど、楊花さんの方が凄く酷い顔色をしてる……だから僕の事は気にしないで良いからね』


そんな風に言って貰えた。



「本当に良い人だったな……そんな彼を馬鹿にして……私は地獄に堕ちて当然の事をしたっす」


もう学校に通いたくない。自分がクラスの女子にどう思われてるのか知ってるんだもん……でも先輩を追い掛けてる間はそれも忘れられた。

私に近付く男子は下心見え見えだし……



「でも、先輩だけは違ったな……あ、だ、だめっ!」


──楊花は大好きな人を思い出してしまい、涙を流しそうになった──だがそれをグッと堪え弁当を食べ始める。母親が愛情込めて作ったお弁当……大好きなオカズが沢山入ってるが、今日は食欲が湧かないので胃の中に無理やり流し込むように食べる。



「……あんた……中川楊花……で合ってる?」


「……え?………あっ」


──名前を呼ばれ楊花が顔を上げると、そこには見覚えのある女性が立っていた。

ただ彼女については楊花が一方的に知ってるだけで、こうして話すのは初めてだが、彼女を見て楊花は目を瞑り顔を青くする。



(先輩のお姉さんだ……きっと怒りに来たんだろうな……うぅ~何言われるんだろう?凄く怖いって噂の人だし……沢山怒られるかな……?──でも怒られて当然なんだ。何を言われても耐えないと──)



「は、はい……私が中川楊花っす……この度は本当に、先輩に酷い事をしてごめんなさい……」


「え?あ、別に謝らせに来たんじゃないよ?つーか私のこと知ってたん?じゃあ話が早いや──ちょっと横に詰めてくれる?」


「……え?あ、はい」


優香にそう言われ、一人で陣取ってたベンチに隙間を開けた。訳も分からずそうしたが、優香は空いたその場所に腰を降ろし自らも昼食を食べ始める。



「……え?」


「ん……いや、一人だと寂しくて……弟の知り合いなんだし、ちょっと付き合ってくれる?」


「え……あ、はい!」


楊花は困惑しながら頷く。


坂本優香はブラコン、ヤンキーで名を轟かせている札付きの暴君。一年生の間ではあまり知られては居ないが、雄治の姉なので楊花は彼女の事を知っていた。

そんな姉なのだから、雄治との一件を知ればきっと許してはくれないだろう。

だから、確実に怒られると楊花は覚悟を決めた。



「それ、母さんが作ってくれたん?」


「あ、はい!そうです!」


「ふ~ん……美味そうじゃん」


「ありがとうございます……」


しかし、全くそんな事にはならなかった。

話し方は気怠そうで独特だが、相手が後輩だろうと高圧的に話したりしない。

その姿は噂と大きく駆け離れており、楊花は優しい女性だと心からそう思った。


(見た目も……制服は着崩してるけど、髪は染めてないし、変な化粧やピアスなんかも付けてない……まつ毛も長くて凄く綺麗な人だなぁ)




──キーンコーンカーンコーン



「あ、予鈴が鳴ったね……家に帰ろうか?」


「あはは、まだお昼の授業が残ってますよ~」


「なんだ、ちゃんと笑えんじゃん……」


「え……あ……はい」


無意識に笑ってたんだ、私。

でもどうして一緒に食べてくれたんだろう?先輩を傷付けた私に優しくする必要なんて無いのに……あっ!このまま帰っちゃう!一言お礼を言わなくっちゃ!



「はい!えっと、今日は一緒に食べてくれてありがとうございました!」


「ん……じゃあまた明日ね」


「はい…………え?あ、明日!?」


あ、明日も来るんだ。


でも、どうして私なんかと……?




もしかして──






──私を励ましてくれてるのかな?





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