第9話 大丈夫……? 〜楊花視点〜



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~楊花視点~


「先輩ッッ!!!ほんとうに、ほんとうに、ごめんなさいッッ!!」


雄治と一緒に体育館裏まで来た楊花は、真っ先に頭を下げた。何度も何度も。

金城可憐が許されたから、自分も許されて当然だろうという楽観した考えは消えている。

雄治と顔を合わせたら必死な気持ちが強くなり、ただただ謝るだけだ。



お願いします……先輩……


どうか……どうか許してっ!!



…………



…………



場には静寂が訪れる。

この沈黙が楊花にとって辛いものだった。


我慢出来ず頭を上げそうになる……でも絶対に我慢しなくてはならない。楊花は雄治がいいと言うまで絶対に顔を上げないつもりだ。




…………



…………




「良いよ、許すよ」


「…………え?」


思わず上擦った声を上げてしまった。

だって……それは私が一番欲しい言葉だったから。


『許す』その一言がどんなに欲しかったか……嬉しい……よかった、先輩と関係が元に戻るんだ。



楊花は許しの言葉を貰った事で、ようやく顔を上げ雄治の顔を確認した。




「……せ、先輩……?」


今日、先輩の顔をまともに見たのはこれが初めてだ。怖くてちゃんと観れてなかったから、今まで気付けなかったけど……先輩、どうして──



「どうして震えてるんですか……?」


「…………」


まるで怯えてるようだった……今の私以上に怯えてるみたい……い、一体どうして……?


私は心配になり先輩の側へと駆け寄った。



「来るなぁッ!!」


「……ッ!?」


それは怒鳴り声……それも近付かれるのが怖くて怯えてるような……そう感じられる……もう分からない。


どうして?

許してくれたんじゃないんですか、先輩……



「……楊花は悪くない」


「え?」


「多分、説明しないとダメだから、今から言うよ……どうして俺があんなに楊花を拒絶したのか……本当は打ち明けるつもりは無かったけど、可愛かった後輩の為に……ちょっと生々しい話かも知れないけど、どうか聞いて欲しい」



私は何を聞かされるのか不安になったけど、黙って頷き先輩の言葉に耳を傾けた。

どうしてあそこまでの怒ったりしたのか、どうして私を許しているのにこんな風に拒絶してしまうのか。

聞かなければ……少なくとも私は聞かなくちゃダメ……だって先輩が本当に好きだから……拒絶の理由を知っておきたいよ。



──それは耳を疑うような内容だった。


早い話、先輩の母親が原因だった。

てっきり幼馴染さんの一件だと思ったけど、それよりも母親との出来事がトラウマになって、それで私に嫌悪感を抱いていた。


聞いて自分の行いを後悔した。

知らなかったとは言え、先輩のトラウマを掘り起こしたのは私だ。信じられない、誰よりも先輩を想ってる自信が有ったのに、誰よりも私が先輩を傷付けてたなんて──



「……全部、俺が勝手にトラウマになった事だから、楊花は悪くないんだ。でも楊花を観るとすげぇ怖いんだよ……いつもみたいにふざけた話も出来なくなる」


「え、待って欲しいっす……それって──」


拒絶されるより、よっぽど酷くないっすか。

あんなに怯えられて……本当に私が怖いって顔してる……ああ、先輩が酷い顔色をしてるのも、全部私が居るからなんすか!?


元に戻るには……私が離れないとダメってこと?私が側に居る限り、先輩はずっと苦しむ?でも先輩が近くに居ないと私が壊れてしまう、数日先輩と離れ離れになっただけでキツかったし、これから一生そうなるんだと思ったら死にたくなる。嘘の気持ちじゃないのに、じゃあ私はどうして違う男と?金城可憐が煽ったから?そうだあの女の所為だ!あの女が……あの女が…………あの女──



「違うっすね……私が招いた事っすね、ははは………は、は………うぅぅぅ~……ごべんなざい……先輩ぃ……」


逆恨みも良いところだ。

ずっと金城さんを恨んでたけど、軽率に好きでもない人と付き合う私なんだから、きっと何処かで裏切ってたと思う……だってこうなって初めて気付いたんだもん……全部自分の所為だって事に……!!



「違う楊花……俺が悪いんだ……俺がほんとに変な抉られ方をして、トラウマになって……それで似たような立場になったから……もう楊花を見るとそれだけで怖くなって──」


泣いてる私を見て慰めようとしてくる優しい先輩。

本当に嫌いじゃないんだ……ただ私が怖いだけなんだ……嬉しい。


でもだからこそ絶望する。

許すって言葉に喜んだ……でも許されたって意味がなかったんっすね。

だってこれじゃ好感度をどれだけ上げても意味なんてないんだから──



「うるさい!!優しい言葉を掛けないでよ!!どうせ無理なんでしょ!?期待させないで下さい!!」


「…………」


先輩……どうか私を嫌いになって……怖いのに私が嫌いじゃないと辛いでしょ?


「…………先輩」



「………………」


私は大丈夫っすよ?

先輩を傷付けた報いを受けてるだけっすからね。



「…………先輩さよならっす」


「…………さよなら」



ああ、終わったんだ………


私はその場から逃げ出していた。

だって少しでも先輩の気が楽になって欲しいから、先輩の幸せが私の幸せっすよ。


だから……先輩に近づかないようにしなきゃ……私なんかより可愛くて、優しくて、先輩を裏切らない……そんな優しい彼女を見つけて下さい。



「バイバイ先輩……」




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~優香視点~


優香と高宮は物陰から一部始終を覗いていた。



「坂本ちゃん……どうする?」


「…………あんな雄治、初めてみた」


高宮から雄治が彼女に浮気されてるって聞いた。彼女が出来たって話を聞いた時はショックで失神しそうだったけど、その後の言葉が洒落になってない。


雄治という世界で一番良い男を彼氏にしといて浮気とか……カタギの女の子に手を出すつもりは無いけど、二度と雄治に近付かないようにガツンと言うつもりだったんだけどね。



でも、浮気してる感じには見えなかった。

それ以上の大問題が発生、まさか、あの女が原因だったとか──



「とりま、母さんと話着けるわ」


「さ、坂本ちゃん?顔が怖いよ……?」


ホテルって……なにやってんのよ、あの女……

しかもそれを雄治に観られるとかふざけ過ぎ……



…………



……後はあの後輩ちゃんも、あんな状態でほっとく訳にはいかないかな?

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