第8話 大丈夫 〜楊花視点〜
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~楊花視点~
先輩に拒絶されてから三度目の朝を迎えた。
昨日、一昨日は休日で学校が休みだった……今日が先輩に拒絶されてから初めての登校日になる。
私は迷うことなく先輩の家に向かった。
会う勇気はないけど、遠くで眺めるくらいなら……
拒絶されても先輩に会うのを我慢出来ない。ここで先輩と関係が終わるなんて……嫌だ考えたくもない。
本当に好きだから……好きで好きで……なのにどうしてあんな馬鹿な事を。
あの時の事を後悔しながら、私はいつもより早い時間に家を出て先輩の家へと向かった。
──先輩の家付近に到達して遠くから様子を伺う。でもそこで思い掛けない人物を見つけてしまった。
「ど、どうしてアイツが……」
ちょうど先輩が家を出るタイミング……でも、不純物が混じってる。どうしてアイツが一緒に居るのか、全く理解が出来ない。
「……金城……可憐……」
あの女の所為で先輩とあんなことになった……なのにアイツはあんなに嬉しそうな顔で先輩と一緒に歩いてる。
金曜日のやり取りで、私は金城可憐が先輩を好きなのに薄々勘づいていた。そして、それだとこれまで彼女が私に突っ掛かって来た理由も嫉妬だと納得出来る。
でも全ての元凶のアイツが先輩と一緒に居るのだけは許せない、納得出来ないっ!私の方がずっと強く思ってるのに……!!ほんとに大好きなのに……
「………え?……ちょっとまって……でも……それって……」
──目撃した直後は金城可憐へ対する憎しみに支配されていたが、途中で楊花はある可能性に気が付いた。
「もしかして、先輩、もうそんなに怒ってないのかも……」
そ、それだと納得できる。
だって一番先輩が憎むべきなのは金城可憐……あの子と和解したって事は、私も謝れば許して貰えるってことだよね……?だってあの子が良くて私が許されない筈ないもんっ!
「だ、だったら放課後……さっそく先輩に会わなくちゃ……!」
楊花は覚悟を決め、自らの頬を何度も叩いた。
そして決意する。
坂本雄治に謝罪し、赦しを乞おうと……そうすれば少し前の関係に戻れるんだ、と。
「流石に告白は少し待った方が良いかも知れない。うん、今は関係を修復させる事が何よりも最優先っす!」
そう自分に言い聞かせた。
───────
そして、その日の放課後を迎えた。
中川楊花にとっては人生最大のターニングポイント。絶対にヘタを打てない、そんな局面を迎えている。出来るだけ機嫌良く話を聞いて貰いたいので教室へは行かなかった。
なので楊花は校門前で雄治を待つ事にした。
いつもみたいな巫山戯たやり取りは一切なし、楊花は最大の謝意を込め、雄治に謝るつもりでいる。
「…………あっ、きた……!」
雄治の姿を見つけた。
いつもは姿を見掛けるだけで嬉しい……でも今日に限っては若干恐怖の感情が邪魔をする。
(だけどそれも今日だけ……明日からは大丈夫……うん大丈夫……こんなに心臓が痛くなるのは、もう懲り懲りだよ……)
放課後を迎えた直後の為周りには大勢の生徒が居たが、幸いな事に雄治と一緒に帰ってる人物は居ないようだ。
碓井もバイトで、可憐は空気を読んで帰りは雄治のところへ向かわなかった。
「……ふぅ……まずは、人目につかない場所に誘って……頭を下げるっす……でも──」
先輩、来てくれるかな……?
雄治が出て来る前にシミュレーションで、色んな展開を想像していたが、無視された展開が楊花にとって一番辛かった。それが現実には起きて欲しくない。
だって口を聞いて貰えなければ、どれだけ反省しても思いを伝える事なんて出来ない。
「………お願いします神様……どうか……助けて下さい……」
最早そうならないよう天に祈るしかなかった。
そうして祈ってる間に雄治が近くまでやって来る。
もう祈りを捧げてる時間なんてない。楊花は意を決して雄治の前に姿を現した。
「さ、坂本先輩ッ!!」
「……………なに」
「……あ」
楊花は正面から声を掛ける。
後ろからだと、いつもみたいにふざけてると思われる可能性があったから堂々と正面に立つ。
………
……しかし、2日ぶりに目の合った雄治の瞳は……まるで別人のように冷たかった。
中川楊花という存在を映してるのかも分からないほど、その瞳は色を無くしていたのだ……それも楊花が目の前に現れた瞬間、急にそうなってしまった。
(ど、どうして……なんで……?朝の時と全然違うよ……アイツと一緒だった時の目と明らかに違うっ!あの時はそんな目をしてなかったのに.…!)
これは無理だ……楊花はそう思った。
しかし、それでも僅かな望みに賭けるしか無かった。
「せ、先輩……良かったら……体育館裏に……来て貰えませんか……?」
楊花は顔面蒼白になりながらも勇気を振り絞る。
ここで怖気付いて逃げ出してしまえば、それこそ何もかも本当に終わり……
……だから楊花は、ダメ元で雄治を誘った。
しかし──
「いいよ」
「えっ?」
その冷たい瞳とは裏腹に雄治は快く提案を受け入れてくれたのである。
楊花は拳を握り締めて雄治から見えないように涙を流した。
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