第7話 友情、愛情、兄妹 〜石田視点〜



【お詫び】

ある方の感想に返信しようとして、誤って頂いたコメントを削除してしまいました。

該当する方、本当にごめんなさい……




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~石田視点~


喫茶店からの帰り道……坂本に言われた台詞が頭の中で繰り返し再生される。そう何度も何度も。


『第一、石田が女に好かれてるのは石田が努力した結果じゃないのか?』



俺は今まで、勉学でもスポーツでも優秀な成績を収め続けてきた。

しかし、天才だった訳でもないし、ましてや才能があった訳じゃない。全て自分自身の努力の賜物だ。

本当に優秀なのは妹で、俺はそんな妹にとって恥じない兄で居る為に誰よりも努力して来ただけなんだ……なのに、誰もが生まれ付きの才だからと決め付け、家族以外は俺の努力を認めてくれなかった。

それに関しては男女関係なく同じ……他人は誰一人として俺のことを理解してはくれない。


でも、彼は違った。

俺がほんとに言って欲しかった言葉を、必要としていた言葉を聴かせてくれたんだ。

それが嬉しくて嬉しくて、本当に嬉しかった……!



───



──自宅付近に到着した。

玄関の前では女子中学生三人が何やら話してる……その中の一人が妹の二葉だから、きっと談笑でも楽しんでいるんだろう。

邪魔しちゃ悪いけど、家の中へ入るにはそこを通るしかない、ごめんよ二葉……




「──ははは、それってストーカー……って、あ、お兄ちゃんだ……じゃあ今日はこの辺にしとこうね!──バイバーイ、弘子!穂花!」


「じゃあーねー!二葉~!」


「また明日ね!──弘子、今からお家に行ってもいい?」


「いいけど……今日はお兄ちゃん居ないよ?」


「あ、じゃあいいや、また明日ね~!」


「…………うん??また明日ね、穂花」


石田一樹の妹・石田二葉は兄が帰って来た姿を見つけると、そのまま友達と解散してしまった。

それを見ていた一樹は予想以上に邪魔してしまったと、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。



「……すまない、二葉。せっかく友達と話をして居たのに」


「え?ううん、三人でずっと話してたけど、解散するタイミングを探してたから、むしろちょうど良かったよ!良いタイミングで帰って来てくれたね、お兄ちゃん!」


……優しい妹だ。二葉こそ本当の才女。

テスト前に徹夜でゲームを楽しんでも中学のテストで100点を取れるんだよな、この子は……うん、やっぱりこんな妹に情けない姿は見せられないかな……?



「はは、ありがとう!」


「じゃあ部屋に戻ってるね?それじ──」


「あっ!ちょっと待ってくれ!実は二葉に相談したい事があるんだ……俺の部屋で少し話せるか……?」


「うん、いいけど……」


「ありがとう。制服のままだとダメだから、部屋で着替えておいでよ」


「わかったよっ!」



一樹は自室へと向かう。そして制服から部屋着に着替えて二葉が来るのを待った。


そして5分後、妹が部屋をノックする。



「お兄ちゃん?入るよ~?」


「ああ、どうぞ」


兄の返答を聞き、二葉は丁重に扉を開けた。

ノックもせずに乱暴にドアを開けるような人間はそうそう居ない。居たとしても西方不敗の弟くらいだ。



「どうしたの、あらたまって?」


二葉はモコモコ素材でピンク色の上着と、同じ色の短パンという実に可愛らしい服装だった。可愛い服装だがもちろん兄を意識している訳ではない……単に可愛い服を着るのが好きなのだ。



「実は……驚かないで聞いてくれ……」


「え……どうしたの……?」


石田がとてつもない緊張感を放つものだから場には異様な緊迫感が生まれる。妹の二葉は固唾を呑んで言葉の続きを待った。



「俺に……友達が出来たんだっ!!」


「ええぇぇ!?お兄ちゃんにともだち……ィィィイイッッ!!?」


「ああ!本当だっ!これを見てくれ!ほら!」


一樹は嬉しそうに雄治から貰った電話番号を取り出し、自慢げに妹に見せびらかした。


「ほ、ほんとだ……このメモ用紙、女の子が使う奴じゃない……ほんとに……男の友達が出来たんだ……よ、良かっだねぇ~おにいじゃ~ん……!!」


感極まった二葉は、思わず泣きながら兄へと抱き着く。ずっと友達が一人も居ないと寂しがってた兄に念願の友達が出来たのだ……その事をずっと心配していた妹の立場として喜ばずには居られなかった。


しかし、当の本人は少し困ったように顔を伏せている。



「どうしたの……何か不安な事でもあるの?」


「うん……それが相談なんだけど……その……なんてメッセージを送れば良いのか分からなくて……ど、どうしよか?」


「……なんだ……そんな事か……良いよ、私に任せて!」


「ありがとう!流石頼りになる!──取り敢えず、このメモ用紙は記念にラミネート加工して部屋に飾っておく事にしよう!」


「あ、そういうの止めといた方が良いよ?」


「な、なんでだ!!?」


「いや、普通に見られたら引かれるから……」


「ダメだっ!この紙は大事にとっておく!!これだけは譲れないっ!!」


「汝は真面目にアドバイス受ける気はあるのかい?」


「………それはそれ、これはこれだ」


「えぇぇ~……?」


──今のやり取りで二葉はかなり不安を抱いた。



(う~ん……いきなりラミネートとかトチ狂った事を言い出すしなぁ~……)


どうアドバイスをしようか二葉が頭を悩ませていると、このタイミングで一樹のスマホに通知音が鳴り響いた。一樹はスマホをとって宛先人を確認する。



「……『何でも無いから安心して』か……まさか昨日送った返事が今更届くなんて……」


それは愛梨からのメールだ。

その内容を覗き見た二葉も24時間以上前のメッセージに対する返答を見て首を傾げる。


「彼女さん?──珍しいね……お兄ちゃんを蔑ろにするなんて……と言うかこんな彼女さんは初めてじゃない?」


「……そうだな」


石田はどうしたモノかと困り果てる。

自分から告白した経緯もあり、石田の愛梨を想う気持ちは本物だ。しかし、その気持ちも今では随分と冷めていた。

そう感じてしまう程、付き合い始めてからの石田に対する態度は酷い。まだ別れを告げるレベルではないが、もし別れる事になっても未練はないだろう……それ位には冷めている。



「別れるの……?」


そんな一樹の気持ちを妹は察する。

これまで兄が付き合って来た女性達は兄へ対する束縛が原因で破局していた。

その時、彼女からのメールが来る度に嫌そうな顔をしていたが、今の兄がそんな表情になっていたのだ。



「……どうかな?別れるほど嫌では無いけど……坂本と仲が悪いみたいだし……彼女が一緒だと坂本が良く思わないかも……」


坂本って言うんだ、お兄ちゃんのお友達。


「いろいろ考えてるみたいだけど、流石に男女間のトラブルにはノータッチかな?お兄ちゃんと違って私は恋人居たことないし」


「うん、そうだね……ま、姫田さんの事はおいおい考えるとして………いま重要なのは坂本だっ!何とか完璧な文章を教えてくれっ!」


「うん!わかった!とびっきりの文脈を考えるね!」


──それにしても坂本さんかぁ……どんな人だろう?一度会ってみたいかな?

……けど、とりあえず、今はお兄ちゃんが友達と仲良くなれるような最高の文章を考えなくっちゃね!!




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


~二時間後(雄治視点)~


──ブルブルッブルブルッ

──ブルブルッブルブルッ


「ん?見た事ない宛先からのメッセージだ………あ、石田か。思ったより早いな……どれどれ」


雄治は何気なくその内容を確認した。




『いぇ~い!さっきぶり!石田だよ~ん!!イェイェイピース!雄治くんは元気ぃ~!?でも僕は元気じゃないよ……なんてうっそぴょ~んてへぺろ☆とりまこれからよろチクビ!!そしてラーメン、つけ麺、ぼくタンメンッ!って全部麺類やないか~いっ!肝心のイケメン要素はどこ行ったんだ〜いっ!イケメン遭難につき探索願いを申請しますっ!ピロンピロン♫探索願い受理出来ませんでした……どうしてなの!?謝ってよ!!あ~いとぅいまて~ん!では御後が宜しいようで……あばよとっつぁん!シュバババッ(逃走)』


「……………ぬおぉ……これは酷い」







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