第10話 人生の分岐点
──夕飯は俺の大好物の唐揚げだった。
俺、姉ちゃん、母さんの3人で食べる。
流石に母さんが作る食べ物にまで拒否反応はないし、一緒に食べて気持ち悪くなるとかの症状もないから大丈夫。
去年から夫婦共働きで勤めている会社が急激に忙しくなり、二人とも遅くまで帰れない日が続いて居る。
母さんの手料理は久しぶりに食べたけど……やっぱり美味い。俺や姉ちゃんの作る物とは比べ物にならないレベル。
「雄治……美味しい?」
「……うん」
大丈夫……正直に感想を言うくらい問題ない。母さんに話し掛けられる度に胸がチクリと痛むのは毎度のこと……我慢できる。
二人には悟られないように気をつけないと──
「ふっ、素直かよ」
「…………このアマ」
あ、一瞬で落ち着いたわ。
流石は姉ちゃん。でもいつか泣かす。
──食後は風呂に入ってそのまま就寝。
久しぶりに母さんは早い時間に帰って来てたのに、家族らしい会話が殆どなかった。
果たして母さんを許せる日が来るのだろうか?
今のまま一生過ごすのは……やっぱり嫌だなぁ。いつか許せる日が来ると良いんだけど……
あー……止めよ止めよ。夜は考え耽ってもマイナスな事柄しか思い浮かばないモノだ。
俺はそれ以上何も考えず眠る事にした。
─────────
夜が明けた……学生業の始まりである。
昨日と同じで楊花に合わせた時間で身支度を始めた。流石の姉ちゃんも2日連続で喧嘩を売っては来ない。
それでいい……大人しくしていろ。
あ、いやでも今日は俺が言いたいこと有るんだった。
「そういや姉ちゃん、昨日の夢に出て来たぞ?」
「はぁ?きっしょ………」
「だよね」
「………そんで?」
「……え?なに?」
「いや、だから……私のどんな夢みたん?話してみ?」
なんで興味津々なんだよ……姉ちゃん。
しかもちょっと嬉しそうだし……弟の夢を荒らすのがそんなに楽しいか?あん?
「……プリンを奪われる夢です」
「うわ、しょーもな」
自分から聞いて来た癖に、なんて酷い態度……まず夢でまでプリン奪ったこと謝ってくれんかな?
……まぁいいや。
姉ちゃんとの馴れ合いも程々に、俺は楊花と待ち合わせ通りの時間に家を出た。
楊花も既に外で待っており、気心知れた後輩と一緒に和気あいあいと、くだらない話で盛り上がりながら学校へ向かうつもりだったのだが……
「…………」
「…………」
「…………」
そんな雰囲気は1ミリもない。完全なお通夜状態だ。
理由はもう余りにも簡単……今日も居るのだ……迷惑この上ない事に愛梨が今日も居る。
昨日の宣言通りやはり愛梨は姿を現した。
俺が説得しても、楊花が嫌味を言っても絶対に一緒に行くと言って聞かなかった。
その癖、学校に着くと隣のクラスへと向かう。
……もうどうしようもない。
……本当にどうしようない。
……日に日にどうしようもない程に愛梨へ対する気持ちが離れてゆく。
愛梨、ほんとに俺の気持ちが分からないか?お前を嫌いになりかけてるんだぞ?
まぁ俺に嫌われても愛梨は別に気にしないか。
ただ、何をそんな意地になってるのか知らないけどさ……良い加減解放してくれないだろうか?
──そして今日の昼休みを迎える。
有り難い事に愛梨は隣のクラスへと向かったので、今日はゆっくりと弁当を食べる事が出来そうだ。
このままで教室で食べても良いけど、愛梨が早く戻って来たら面倒臭い……よし、今日もどっか別の場所で食べるとするか。
俺はコンビニで買ったシャケ弁を手にして教室を出た。
目指すのは中庭。
あそこって人が少ないから丁度良いんだよな。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
~楊花視点~
──ようやく授業が終わって昼休みっ!!
お弁当は~……教室でゆっくり食べるのも良いけどぉ……やっぱり先輩と一緒に御飯を食べる!!
──うんそれがいい、そうしよう。
ほんとのほんとのほんっっっとうに嬉しいことに、今まで邪魔だった幼馴染の人も居ないっ!
だからこれからは気にせず先輩のところに行けちゃうんだ……ふふ、そう思うと毎日が本当に楽しみ!
それにフリとはいえ私は先輩の彼女。
うん、しかも先輩からお友達も紹介して貰ったし、外堀は充分埋まって来てるよね!
後は……先輩のお母さんに挨拶くらいかな?別に挨拶くらいしに行っても不自然な事は何もないよね?
でも今はそんな先の事より、先輩と一緒に昼ごはんを食べるのを優先しなきゃ!
──そうと決まれば楊花にとって1秒の時間さえも惜しかった。彼女はすぐさま弁当を持って、そのまま教室を出ようとする……が、出る直前に一人の男子生徒に呼び止められてしまう。
「楊花さん、良かったら今日も一緒に食べない?」
「………うん」
これほど邪魔な男がこの世に存在していたとは……ほんとにムカツク。少しは空気読んで欲しいんですけどね。
それに一部始終を観ていたクラスの一角から暖かい歓声が上がるのも不愉快です。
もう最悪な事に彼との関係はクラス中に知れ渡ってしまいました。
一週間前に付き合う事になったこの男。
名前は確か町田……それ以外のことは何も知らない。顔はイケてるらしいだけど、私は少しもカッコいいとは思わないし。むしろ馴れ馴れしくてうざいと思ってる。
……一応付き合ってることになるんだっけ?
だったら馴れ馴れしくてされても仕方ないのかな?
まぁ手とか無理やり繋ごうとすればその場で別れます。私のあらゆる初めては先輩のモノですからね。
「──教室じゃ騒がしいね」
「そうっすね」
「う~ん……あ、そうだ、中庭に移動しようか!あそこなら人が少ないはずだよ?」
「それでいいっす」
冷やかしの声が増えたから、私に気を遣ってるつもりかも知れないけど、こうなったのも全部あなたの所為……あなたが気安く声なんて掛けるからこんな騒ぎになるのよ。
(はぁ~……なんで好きでもない男と付き合うハメに……)
楊花は深い溜息を吐き自らの誤ちを振り返った。
──事の発端は町田に告白された日に遡る。
誰も居ない教室で想いを告げられた私は、当然、断るつもりだった。まず町田なんてクラスメートが存在していたのすら私は知らないし。
でも最悪にもその場面を嫌な女に観られてしまっていた。
その女は私の何が気に入らないのか、日頃から顔を合わせる度に嫌味を言ってくる苦手な女子。
そんな彼女が私に対してこう言ってきた──『女として自信がないから告白されても断り続けるんだ』と。
確かに、私は何度も告白されてはそれを断り続けて来た。先輩以外の恋人なんて考えられないから迷ったことなんて一度たりとも無かった。
それでもあの一言は頭にきた。
ただでさえアプローチが先輩に全部躱さわされ、本当に女としての自信がグラついていたのに、図星を突かれたみたいで癪に触ってしまったの……
だから思わず告白を受け入れてしまった。
どうでもいい人からの告白だったのに──私は見栄とプライドで彼と付き合う事に決めた。
───
───
あまり続けていい関係ではないわよね、これ。
先輩と仲を深めるには、後々この関係がネックになるのは間違いないと思うし……
うん、町田くんへ正直に話してしまおう。
彼には悪いけど、今が私にとって人生最大のチャンス……正直に事情を話してとっとと町田と別れないと……
「ちょうど良かったっす。実は自分も二人で話したい事が有ったっす」
「……?うん……じゃあ行こうか」
改った恋人の態度に僅かな違和感を覚えながらも、町田は楊花と二人で中庭を目指した。
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沢山の応援ありがとうございます。
皆さんのお陰でランキングも日に日に上がり、とても嬉しいです。
お礼も兼ねて、本日は4話投稿したいと思います。
15時、18時、21時と分けますので、是非宜しくお願いします!
丁度この4話更新で第一部が終了しますので、楽しみにして頂けたらと思います!!
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