第7話 他の男には塩対応
生徒会長に呼ばれたこと以外は特に変わった事もなく、そのまま放課後を迎えた。
うん、これぞ普通の学生生活……だがそれで良い。
変わり映えする生活は疲れが溜まると、近頃思い知らされている。
「じゃあ……また明日、迎えに行くね……?」
最後に愛梨から別れの挨拶を告げられる。
今まで通り一緒に帰る事は、もう、無いだろう。
……
……
……いや待てや、明日迎えに行くねだと?
と言う事は明日も来るつもりなのか?
今日あれだけ揉めたのに懲りてないのか……はぁぁぁ、もう此処まで来ると狂気の沙汰だ。末恐ろしいぞ愛梨……
今朝の感じだと言っても無駄だろうけど、それでも近いうちに如何にかしないと……これからも今朝のような一幕に付き合わされる事になる。
このままだといけない……今朝みたいに周りに迷惑を掛けてしまう。
勇気を出して姉ちゃんにでも相談しようかな……あ、とりあえず返事は返しておくか。愛梨が不安そうに見ている。
「お、おう。またな」
「……うん」
愛梨は石田の元へと向かった。
それを見て何とも思わなくなった自分も少し怖い。
そして愛梨と入れ替わるように、ヘタレの碓井が此方へとやって来た。おお、素晴らしき事なかれ主義者よ。
「おい!雄治!!体育館で麻雀大会やってるから参加しに行こうぜ!!なんでも昨日の予選で、マブダチの孝志が三連続で国士無双決めたらしいぞ!!」
「マブダチの孝志……?お前、俺以外にも友達が居たの!?」
「え……?逆に友達だと思ってくれてたの……?──やだ超嬉しい……ポッ」
「うぜぇ」
「まぁとにかく行こうぜ!!決勝進出者以外も麻雀で遊べるからよ!!」
「……う~ん……そうだな……」
──家に帰っても暇だし、ここは碓井に付き合うか。昨日スペシャルランチ奢って貰った恩もあるし。
「偶には付き合う──」
「坂本先輩~!!迎えに来ましたよぉ~!一緒に帰りましょ~!!」
「……楊花……お前……」
「ふぇ?」
突然な美少女の乱入に唖然の碓井。
僅かに残っていた帰り支度中のクラスメイト達も、叫びながら教室に入って来た楊花に注目する。
いつもみたいに抱き着いて来なくてまだ良かった……流石にそこは空気読むのね。
──ただし、場には沈黙が訪れている。
楊花も先輩の教室へ突撃したことに非常識さを感じたらしく、気まずそうに目を泳がせている。
恥じらう位ならもうちょっと先の事を考えて行動しろや。いやそもそもするなし。
それから数秒後、口をパクつかせながらようやく碓井が言葉を発する。
「……坂本先輩よぉ~、その子誰だぁ~?」
「誰が先輩やねん。それにねっとりとした言い方だなおい」
「黙れ!」
「……………」
「黙るな!」
「さっきから何やねん」
そう言えば楊花って、俺が一人で居る時しか絡んで来ないから碓井とも面識が無かったっけ?
彼女【役】の関係は伏せて、楊花が仲の良い後輩だと紹介しておこうか……別に隠してた訳じゃないしね。
「碓井には紹介してなかったけど、俺と仲の良い後輩だ。見た目は幼いが、今年入ってきた一年生だから俺は犯罪者じゃないぞ」
「ちっこくても制服着てるから解っとるわ!!しかし胸デカイな!!」
「………酷いっす」
「碓井、お前そんなこと言うなんて最低だな!俺は口が裂けてもそんなこと言わないぞ!」
「…………え?」
『同じような事を言ってた癖に』と楊花は思ったが、雄治の顔を立てる為、敢えて何も言わなかった。
「取り敢えずうちの後輩に謝れ!!」
「え~と、ごめん……それと名前なんだっけ?」
「中川っす」
「ありがとう!!……で名前は?」
「中川っす」
「うん……いや名前──」
「中川っす」
「……あ、なるほど、教える気ないって事っすね。了解っす。超ショックっす。はははっす」
「……むぅ」
口調を真似され楊花はムッとしていたが、特に言い返す事なく、黙って俺の掌を掴んだ。
そして手を繋いだまま教室の外へ連れ出そうとする。
握られた楊花の掌は汗で薄ら濡れていた。かなり緊張しているんだろう。
愛梨とのやり取りを見て失念していたが、楊花って人見知りなんだよな……
碓井に名前を名乗らなかったのは、見た目がヤンキーなので、自分の名前を知られるのが怖かったのかも知れない。
親友の碓井にはもっと愛想良くして貰いたい気持ちはあるが、苦手なら無理強いは出来ないか。
……ただ、ここで連れ去られるのは非常にまずい。
今日は碓井と先約が有るのだから……
「いや待て楊花!!これから碓井と麻雀大会に行くんだよ!!俺もカッコよく国士無双決める予定だから離してくれる!?」
「え……?一緒に帰るって約束したっすよね……?」
「え?……ああ、登校の時のアレか!──いやアレって愛梨を牽制する為に言った嘘じゃないのか?」
「むぅ~!!」
超怒ってるじゃん。いやでもあまり気を使わせたくないんだよな……楊花にも友人関係が有るだろうしさ。俺との下校にまで付き合ってたら遊びにも行けないだろうに。
「……待ちます……大会終わるまで……」
「でもな~……多分、終わるの遅いぞ?」
「良いっす!坂本先輩と帰りたいっす!」
「そ、そっか」
後輩にここまで懐かれるなんて……ちょっと嬉しいな。
でもよく考えたら俺って優しい先輩だし、80点フェイスだから異性に懐かれるのも無理ないか。
……ただ、そうは言っても遅くまで待たせるのは悪いし……どうしようかな?
「去れ」
「碓井、急にどうして?」
「いいから去れ!!顔も見たくないわ!!」
目が完全に逝っちゃってる……怖すぎだろコイツ。
「うわっ、めっちゃキレてんじゃん……なんだよ、もう行こうぜ楊花」
「了解っす!!」
俺が同意すると、楊花は嬉しそうに返事をくれた。
二年の教室に突入したことは怒ろうと思ったけど……今は上機嫌だし辞めとこう。
「……待て雄治」
「今度はどうした碓井?」
「……また明日な!!いぇ~い!!」
「……おう!!じゃあな!!いぇーーい!!」
コイツ薬でもやってんのか?
そしてそれに合わせられる俺……マジウケる。
「………えぇ…?」
楊花にドン引きされたのが悲しい。
世の中には色んな人間関係があるんだよ……そんな目で俺を見るんじゃない──!!
「雄治!!イェェェイッ!!」
「しつこい」
「あ、ごめん」
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