第6話 気弱な生徒会長



「……ふぅ……しんどかった……ん?」


学校に到着し自分の席へ座る。

すると、机の引き出しに白い封筒が挟まっていたのを見つけた。もしかして果たし状か?──取り敢えず中を確認しよう。


封筒を開けると中にはA4サイズの紙が入っており、それにはこんな事が書いてあった。



『生徒会室にて、待つ。昼休み来られよ』


黒マジックでデカデカと……ほんとに果たし状か?



「──怖っ!果たし状かよ!」


いつの間にか背後に立っていた碓井に覗かれる。

まさか碓井と同じことを考えてたなんて……ショックだ。



「勝手に覗くな碓井の分際で。つーか果たし状果たし状うっせぇな」


「まだ一回しか言ってないんだけど?……てか俺のこと見下し過ぎじゃね?」


「……お、愛梨が帰って来た」


「じゃあ後でな!くわばらくわばら」


「それだから見下されんだぞ?」


愛梨が隣のクラスから帰って来たのを教えると、さも当然のごとく逃げ出す碓井。俺はそんな悪友を内心あざ笑い【果たし状?】を机の奥深くにしまった。



「雄ちゃん。今日は石田くん、昼休みに部活のミーティングが有るんだって。良かったら話しない?」


ずっと不機嫌そうにしてた癖に、今では普段通りに戻っている。楊花との相性が悪過ぎるだけなのかも知れんが、少し情緒がおかしい気がするんだけど……大丈夫かこの幼馴染……?


と言うか、なんで石田の代わりをしなくちゃいけないだよ、普通に嫌だわ。



「……生徒会室に呼ばれてるから止めとくよ」


「そう……なんだ…………え?生徒会!?」


生徒会なんてそんな驚く程のモノでもないだろう。

所詮は俺たちガキに選挙で選ばれた暇人集団……金にならないのに良くやるよなって思うよ。

あ、そうか、内申点を良くする為にやってるのか。



「生徒会長さん有名人だから粗相ないようにね?」


「芸能人?」


「ううん、学校の中で有名だよ。可愛いって評判」


「……ああ」


あの人そっち方面で有名だったんか。

なんか面倒事に巻き込まれても嫌だし、生徒会長さんとは縁を切ろうかしら?



──そして授業という退屈な時間は淡々と過ぎ去り、あっという間に昼休みとなった。俺は弁当を持って生徒会室へ向かう事にした。

教室で食べないのは……やはり愛梨と一緒に食べるのが気まずいからである。


席から立ち上がると愛梨に声を掛けられる。呼び掛けられたので彼女の方を見れば寂し気に此方を見ていた。


「一緒に……食べないの?」


「うん。生徒会室で食べながら話すってさ」


もちろん嘘だ。君と食べるのが気まずいんだよ。



「そっか……昨日は石田くんと食べたから、今日は一緒にと思ったけど……寂しいね」


「まぁそうだな」


これからは気にせず石田と一緒に食べればいいさ……とハッキリ言ってやりたいが、愛梨とは家族間の付き合いがある。キツく言って荒波立てたくはない。



「行ってらっしゃい」


「……おう」


未だに視線を送り続ける愛梨を尻目に、俺は生徒会室へ移動を開始した。





「──行ってきますって……言って貰えなかったな……」


愛梨もそれとなく気が付いてる……明らかに雄治の様子がおかしいと。しかし、彼女も雄治と同じでそれを直接言ったりはしない。


ただ言わない理由が雄治とは全く違う。

愛梨の場合、それを言ってしまうと雄治が離れて行く気がして言えないのだ。


そしてこの考えは案外当たっている。

雄治を繋ぎ止めてるのは、愛梨が恋人を作ったときに雄治が自ら敷いた距離感なのだ。それを愛梨が強引に縮めようとすれば雄治は本格的に愛梨の元を去るだろう。


なので、今朝のようなやり取りがこれからも続くようなら、絶妙な今の関係はそう長くは持たない。



「そのうち、また一昨日までのように話せるよね……?あの軽そうな女の子との交際も認めてないし……うん、あの子との関係は許せない。だから雄ちゃんの機嫌が直ったら別れるように注意しなきゃ」


愛梨は呟きながら弁当を食べた。



────────



──生徒会室前に到着し、俺は勢い良くドアを開け放った。



「お邪魔します!!」


「ぶふぁっ!──は、早いよ!ごはん食べてからで良いのにっ」


「でしょうね」


「でしょうねって……」


生徒会長さんはドアを開けたタイミングでオカズを頬張ってたらしく、噴き出さない様に口元を押さえ付けている。



──生徒会長・高宮椎奈。俺より一学年上の3年生だ。

楊花……程では無いが小柄で長髪。愛梨の言っていた可愛くて有名とは小動物的な可愛さを言ってたんだろう。


しかし俺から見た生徒会長さんの一番特徴的なところは、生徒会長が務まるとは思えないほど弱気で人見知りな性格だ。全校集会とかで偶に話す姿を観るけど……話してる最中ずっと顔面蒼白だ。

もともと色白だから気付き難いが、普段から交流のある俺のような人間には分かっちゃう。見ていて凄く居た堪れないから勘弁して欲しい。



「──坂本さん……お茶をどうぞ」


「あ、ありがとうございます。弥支路さん」


いつの間にか弥支路さんがお茶を用意してくれた。気を遣わせて申し訳ない事をしたかな?


弥支路さんは生徒会書記。

一年生なので俺より年下だが、しっかりとした人なのでつい敬語で話してしまう。生徒会長よりよっぽど生徒会長らしい。こうして頻繁に呼び出される所為で面識があるのだが真面目で気の利く女性だ。


しかし、俺が弥支路さんへ礼をした事が何故か気に入らなかったらしく、生徒会長は頬を膨らませながら俺を睨み付けていた。


「……私の時となんか違う。弥支路ちゃんにはどうして優しいの~?むぅ~!!」


「まぁ早い話、差別っすね」


「ひ、酷いっ!姉弟で私を虐めるんだ!!あんまりだよ~……」


「そう言えば弥支路さん、他の生徒会役員はどうしました?」


「あ、そう言えば昼休みに呼び出されるのは初めてでしたね。お昼はただ休憩に生徒会室を利用してるだけですので、基本私たち二人しか居ませんよ」


「どうして無視するの~!」


「「((めんどくせぇなこの会長))」」


もうこのまま無視を決め込もうと考えたが、それは流石に可哀想だし、何より呼び出した理由を聴きたかった。

なのでむくれる少女に用件を確認する。


「そう言えば生徒会長、どうして僕を呼び出したんですか?」


「え?御飯食べ終わってからにしようよ?食べながらは行儀が悪いんじゃない?」


「………確かに」


正論だけどなんか腹立つな。

仕方ないけどお互い食べ終わるまで待つとするか。弁当を教室で食べて来なかったのは俺の都合だし。



「それにしても後輩くんと御飯かぁ~……にへへぇ~……ん?コンビニ弁当なの?」


「コンビニ弁当美味しいっすよ?」


「そっか……お母さん忙しいんだ」


「いえ。ウチに母親なんて居ませんからね」


「そ、そうなんだ」


「あ、すいません」


「ううん、大丈夫。こっちこそごめんね?」


「…………ほんとすいません」


急に大嫌いな母親の話題を出されて無意識に口調が冷たくなっていたらしい。弥支路さんも驚いた様子だ……二人に悪い事をしちゃったな。


でも母親──アイツの話は愛梨以上にタブーだ。ただ、俺の所為で空気が悪くなったし、明るい話に方向転換しなくては……そうだ!姉ちゃんの失敗談でも語ろう!



「そう言えばこの前、ウチの姉ちゃんが──」


「ひぃッ!!坂本ちゃんごめんなさい!!」


「え?ウチの姉ちゃんトラウマなんすか?」


話題にしただけなのに、これほど怯えられるとは……ますます悪い事をしてしまった。てか姉ちゃん何したん?



……………


……………いや反応良かったしもう少しだけ。



「あれ?生徒会長の背後に居るの姉ちゃんだ!」


「ひぃぃぃッ!!」


「冗談です」


「むぅぅ~……!!」


よしっ!母親の話題に触れた件はこれでチャラにしてやろう。それに涙目だしこれ以上やると泣いちゃいそうだ。



「あ!高宮先輩!いま廊下を歩いてるの坂本先輩の姉さんです!」


「ひぃぃぃぃ~~!!!」


「……弥支路さん?」


「あ、ごめんなさい。高宮先輩の反応が面白くて、つい……」


「やり過ぎには気をつけないと」


弄りたくなる気持ちは分かるけどさ。

でも弥支路さん意外とお茶目なのね。


「え?なんか弥支路ちゃんの事を注意してるけど後輩くんも同罪だよ?」


「ごめんなさい、麗しの生徒会長様」


「えぇ!?──そ、そこまで言うなら、特別に許しちゃおうかなぁ〜?でへへぇ……」


チョロいな……歳上だけど、悪い奴に騙されないか心配だ。




──行儀うんぬんの話は何処へ行ったのやら……結局、3人とも楽しく喋りながら昼食を取る事になった。




──その後、三人は食事を終え、そのタイミングで雄治は改めて呼び出した理由を確認する事にした。



「それで?結局用事ってなんすか?」


「え?お昼休みお話したかっただけだよ?」


「いえ、そういうのは良いんで、早く用件を教えて下さい」


「駅前で美味しいドーナツのお店が出来たんだけど、私つい食べ過ぎちゃって……ちょっと太ったと思わない?」


「いえ別に………」


……ん???



「あれ?本当に雑談で呼んだんですか?!」


「………うん!!!」


「うわぁ、弾けるような笑顔だ……」


「そうだ!後輩くん!弥支路ちゃん!一緒にトランプしようよ!」


「トランプ……ですか?」


「わたくしは生徒会長が学校にトランプを持って来ている事を先生方に報告させて頂きます」


「あぁ!!後輩くん、待って待って!今の嘘なの!そんな物ないよ!!だから言わないで!凄く怒られるからぁ!!」




まさか呼び出しの理由が雑談とは……

流石に冗談と思ったが、どうやら本当だったらしく昼休みが終わるまで話し相手をさせられた。


もう意味が分からない……



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



~生徒会長視点~


──坂本ちゃんから話を聞いて心配したけど……大丈夫そうで良かった。


それにしても……ふふ、弟想いの優しいお姉さんを持ったね、後輩くん。

自分が行くのは恥ずかしいから、私に様子を見に行って欲しいって、あのプライドの高い坂本ちゃんにお願いされちゃったよ。


もちろん私も、後輩君にはいつも迷惑ばっかり掛けてるから、君が辛い時は助けになりたいと思ってる。


だから後輩くんも偶にはお姉さん達を頼ってね?

私も、坂本ちゃんも、年下だけど弥支路ちゃんも、君の味方だからね!



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