第5話 待っていた幼馴染



「今日から彼女と一緒に登校するって、昨日メール送ったと思うけど?」


「うん、書いてあった。でも納得出来なかったから、その後直ぐに返信したよ?」


「………」


カバンからスマホを取り出し履歴を確認する。

──本当だ……愛梨からの新着メッセージが2件届いてる。送って直ぐ就寝したから確認してなかったんだ。


でも納得出来ないってどう言う事だよ?

まるで意味が分からん。別に連絡事項を送っただけで、納得して貰わなくても良いんだけど。



──改めて昨日の出来事を思い返してみる。

愛梨が彼氏を作ること自体は全然悪い話とは思わない。むしろ大切な幼馴染が幸せならそれで良とさえ思う。

しかし、愛梨は俺からの告白を放置し、挙句、恋人ができた後も答えを保留にするとハッキリ言いやがった。


それがどうしても許せない。

一晩寝て頭を冷やしても結局溜飲が下がらなかった。我ながら懐が狭くて嫌になる。


もちろん、それ位で絶縁とかそんな大袈裟な事を言うつもりは流石にない。

ただ、俺がこれまで通り一緒だと愛梨の彼氏にも悪いし、気持ち的にも【今は】一緒に居たくない。

だから一旦距離を開けたいんだが……彼女は言わなきゃ解ってくれないのだろうか?

俺の好きだった気持ちは伝えてる訳だし、普通なら察してくれそうなんだけどな。



「いや、彼女と登校したいんだ。もう直ぐ時間だし、浮気だと思われるの嫌だから先に行っててくんない?」


雄治は非常に分かりやすく真っ当なことを言ったつもりだ……しかし、愛梨には全く通じて居なかった。


「二人っきりじゃなくて、三人なら大丈夫じゃない?私の事を幼馴染だって紹介すれば大丈夫だよ!──ね?そうすればこれまで通りでしょ?」


何を言ってるんだこの女。

ほんとに俺の知ってる愛梨か?幾ら何でもここまで浅はかな考え方をする奴じゃ無かった筈だが……マジで昨日から愛梨の考えてる事が分からなくなっている。



「……無理じゃないか?」


「話せば分かってくれるよ!石田くんもそうだったし!」


「石田と彼女は違う」


「……それに私に告白して来たのに、直ぐに彼女を作るなんて……どうかと思うけど?」


──イライラを通り越して呆れ返る。雄治は強く突き放したい衝動をグッと堪え、なんとか穏便に話を進めようと深呼吸して息を整えた。


「ふぅー……それって不義理って事を言いたいのか?」


「う、うん……だってそんな話、今まで聞いたこと無かったよ……」


お前がそれを言うのかよ……頭腐ってんじゃないのか?

まさか俺を振ったことを本当に忘れてる訳では無いよな?



「とにかく彼女の事もあるから、一緒に登校するのは諦めてくれ。俺も彼女を優先したい」


「ダメだよそんなのッ!!」


急に大声出すなや。


「もぉ……何がダメなの?」


「だ、だって……帰りは石田くんと一緒だし、登校する時しか一緒になれないから……だから──」


「お待たせしました先輩!!」


埒が開かず、流石に強く拒もうか迷い始めた……しかし、此処で待ちに待った救世主が現れる。

俺と待ち合わせの約束をしていた彼女役・中川楊花の御到着だ。しかも予定より少し早い。いつもは時間にルーズなのに珍しい。


現れた後輩はわざとらしく俺の腕にしがみつくと恐ろしい形相で愛梨を睨み付けた。予想よりも遥かにノリノリな演技にびっくり……でも話が通じなくて困っていたから来てくれて本当に助かる……!!



「……って、この女の人誰ですか?まさか雄治さんと付き合って直ぐに浮気ですか!?」


これまたわざとらしい。

だが本当に浮気と間違われて愛梨も慌てた様子………


………



……え?そうでも無い?

否定するどころか逆に楊花を睨み返してるぞ?



「……ダメだよ、雄ちゃん……その子はダメ。だって付き合ってまだ1日でしょ?それで抱き着くとか幾らなんでもおかしいわよ」


絶対零度の視線を楊花にぶつける。敵意……酷ければ殺意まで抱いてるかも知れない。そんな負の感情を楊花にぶつけている。

しかし、当の本人はどこ吹く風……まったく微動だにしてなかった。



「はぁ?なに言ってんっすか?どんな付き合い方をしていても、他人の貴女に口出しされる言われはないっすよ」


「……他人じゃないわっ!!幼馴染よっ!雄ちゃんと私はずっと子供の頃から一緒だったの!!」


「幼馴染は世界常識として他人なんすよ。そんな事も解らないんすか?もう少し常識を勉強した方が良いんじゃないっすかぁ?」


「何よっ!雄ちゃんのこと何も知らないぽっと出の癖にっ!!」


「ぽっと出の男に走った癖に」


「……くっ!このっ!」


「楊花言い過ぎだぞ」


しかし良く言った!

実は俺もまったく同じこと思ってたぞっ!本当に良く言ってくれた!!帰りにステーキ奢ってあげちゃう!!


「せ、先輩……ごめんなさい……いつの間にかヒートアップしてしまいました……」


まず、後輩を落ち着かせる。

もちろん愛梨を庇った訳ではないので、直ぐに耳元で感謝の言葉を呟いた。


「ナイス演技だ……本当に嫉妬してる風に見えたぞ?ありがとうな」


「……演技……ですか……」


「なにぶつぶつと二人で話してるの!?」


うるさいな……黙ってろよ……

けど、今ので楊花も落ち着いたみたいだし、愛梨にも言って聞かせるか……はぁ〜……こっちの相手はめんどくせぇ。



「──まぁ見ての通りだ愛梨。悪いけど、彼女が一緒に行くの嫌がってるからさ。解ると思うがこんな状況で一緒には行けないだろ?」


「で、でも……」


「でもじゃない。それにクラスは一緒なんだから、ずっと顔を合わせられない訳でもないだろ?」


「そうなんだけど……教室は騒がしいし……」


「あのなぁ……」


全然解ってくれないし……なんか愛梨と話すのも嫌になって来たな。俺の愛梨へ対する評価が『良く分からない』で固定されてしまいそうだ。


第一このままでは遅刻してしまう。

そうなれば無遅刻無欠席の記録が途絶え、終業式に先生から褒めて貰えなくなる。それは嫌だ……学年最後の日は目一杯褒められたい。そして内申点を誰よりも良くして進学を有利にしたい。



それと──



「──そろそろ行かないと遅刻するし行こうぜ?……なんかドアの隙間から姉ちゃん見てるし」


俺が話題に上げると、後ろの玄関から大きな音を立てドアの閉まる音が聞こえてきた。

……どうやら姉ちゃんがドアの隙間から様子を覗いていたらしい。俺に指摘され慌てて扉を閉じたようだ。


家の前で言い争ってる所為で姉ちゃんは家を出たくても出られないんだ。

今の慌て方は超ウケたけど、姉弟が揃って遅刻は世間体も宜しくない。


もういい加減そろそろ学校へ向かわなければ──



「……そうだね……優香さんに迷惑は掛けれないよね……」


しかし、意外にも姉ちゃんに気付いた愛梨が真っ先に折れてくれた。

まぁ愛梨も姉ちゃんを知ってるから、怒らせたくは無いんだろう。それほどまでにウチの姉ちゃんはヤバイ。



「でも同じ方向だし、一緒に歩いても良いでしょ?邪魔はしないから──まさか雄ちゃん、私に遅刻しろとか言わないよね?」


「まぁ……そうだな」


これ以上言い合っても埒があかないので、今日は距離を開けつつ3人で登校する事にした。

楊花をこんなくだらない揉め事に巻き込んで本当に申し訳ない。隣でずっと笑顔なのがちょっと怖いけどね。


あとついでに姉ちゃんにも悪かったな。





──でも予想以上だった。

愛梨の性格からして、二人で登校するのを断っても聞かないのは解っていた。だからこそ楊花と付き合う設定にしたというのに、それでも通用しないのか……


なんか好きじゃ無くなったどころか、このままでは嫌いになってしまいそうだ。


愛梨、お前マジでなに考えてるんだよ……



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