第5話 ''バルタザールの森''
どれだけの時間泣いたでしょう。
涙はいつの間にか目の上に潤むくらいになっていました。
そこへ、優しい声が聞こえてきました。
「サーヤ、顔をお上げなさい。」
サーヤが顔を上げると、
そこにはボロ切れをまとった男の人がいました。
「こんな所で一体何を泣いていたんだい?」
彼は訪ねました。
サーヤは、今まであった事を話しました。
「そうかい、そいつは大変だったね。
ここは寒いから、良ければ私の所で休んでいきなさい。」
彼はそう言うと、手を差し伸べてくれました。
「あなたは、だぁれ?」
サーヤが訪ねると、
「私はこの森の前にある魂たちを見守っているものだよ。」
と、彼は答えました。
そう、いつの間にかサーヤは”迷いの森”を抜けて、
教会の裏の右側にあるお墓の奥の森、
”バルタザールの森”にやってきたのです。
そして、彼こそが、墓守の神様と呼ばれている
”バルタザール”その人だったのです。
サーヤは森の奥にある、彼の住む小屋へと案内されました。
そして、毛布と温かいご飯をごちそうになりました。
その後、小さな焚き火にあたりながら温かいミルクを飲んでいると、
彼はゆっくりと話し始めました。
「そいつは”はぐれオオカミのスタン”だよ。
あの森で長い間、他の動物たちを食べて生きてるんだ。
しかもやっかいな事に、あいつはおまじないが使える。
君が見たのは、食べられて死んだはずの動物たちだよ。」
話によると”迷いの森”には悪いものがとりついていて、
そのオオカミはその悪いものにとりつかれて
化け物になってしまったのだという。
幸い二つの森の間には結界が張られていて、
こちら側に入ることは出来ないのだという。
そして、彼はこう続けました。
「恐らく、明日の夜は月夜で秋の中で一番長い夜だから、
サーヤが身代わりを連れてこなかったら
あいつは手下どもを連れて街に現れるはずだ。
そうなると街の人たちが危ない。
だからサーヤ、私も街へ行こう。
しかし、それには一つサーヤに頼まなければいけないことがあるんだ。
...やってくれるかい?」
サーヤは「妹を助けるためなら何でもやります」と言いました。
その方法とは、サーヤたちが守っている時計台に、
ある魔法の言葉をかけることでした。
サーヤは「必ず約束は守る」といって指切りをしました。
彼は安心して、サーヤをなでながらこう言いました。
「妹さんは必ず助けるから、今日はもうお休み。
明日森の入り口まで送っていくよ。」
サーヤは彼の優しさに安心したのか、静かに眠りについたのでした。
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