第3話 診察室へ

毎日の過ごし方は自由であるが、入院患者という立場の手前、必ず毎日の診察、というか先生とのカウンセリングの時間があり、その時間には面談室へ向かわなければならない。今日は朝食の時間後すぐ、9時からの約束である。100日以上、休診日以外は実施されてきた面談は、担当医の田島先生だけでなく、それぞれの先生が持ち回りで担当し、穴をあけないように考えられていた。本日の担当は、3日前に異動してきたという、長田先生という若い先生だ。どうやら本州からわざわざ赴任してきたらしい。変わった御仁だな、というところが正直な印象である。

病室から診察室へと向かう。通いなれた道であるが、道中の窓から見える光景は、季節の移り変わりを教えてくれている。入院した頃には新緑が生命の息吹を感じさせていたが、今ではすでに紅葉が始まっている。少しだけ見える空も、どこか雲が遠く、秋空の様相を呈しているようだ。

診察室は歩いて2~3分の距離である。大き目の談話広場の片隅に入口があるため、朝食後におしゃべりに興じている人の姿を横目で見ながら、私は診察室のドアをノックした。少し低めの落ち着いた男性の声で、「どうぞ。」との応答。どこか聞き覚えのある声のような気もしたが、かまわず入室する。

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