第2話 朝のルーティン

 今朝は5時に起床、そこから耳の深奥の声と戦いつつ、さらにその上からイヤホンで音楽を被せて体操に勤しんだ私には、ほどよい空腹感が生まれていた。6時半には朝食を頂くのが、ここ2か月で定まった朝のルーティンとなっている。

 起床時間は定まっているわけではなく、その時々、個々人の体調に合わせて起床できる。しかし朝食・昼食・夕食の時間は定まっており、各々がそれを意識し、規則正しい生活を送れるよう、乱れた時間感覚の矯正も兼ねているようだ。ここのところ、身体の調子はすこぶる快調、あとは心の体調が戻っていない私にとっては、三食すべてを規則正しく摂ることが、そこはかとなく精神に良い影響をもたらしていると感じられている。

 朝食は現在、感染症対策として各個人の部屋に運び込まれることになっている。6時半に各部屋へ配膳し、8時半までに各自膳を下げるといった塩梅だ。今日もいつもと変わらぬ配膳員が、おはようございます、のあいさつとともに配膳をしてくれたため、私もおはようございます、と挨拶を返す。

 お盆には、ご飯茶碗、主菜、副菜、汁物のお椀が載っている。配膳員を見送った後、早速それぞれの食器についている蓋を外し、本日の朝食を確かめる。

 本日から今年の新米が出ますよ、というお知らせをもらっていたが、なるほどしっとりと粒立ちの良い、輝きすら放つ白米が眩しい。嬉しいことに、今日の味噌汁は私の大好物である、玉ねぎとジャガイモの味噌汁であったことが、なお食欲をそそる。本日の主菜はスペイン風オムレツのレタス添え、副菜はもやしとパプリカの酢の和え物か。栄養バランスを考えられたものであることが見て取れる。

 今は一般人と同じくらいの体型に落ち着いたが、一時期は100kgを軽く超える巨漢であった私は、その暴食・暴飲の罪を、糖尿病という十字架を背負い贖う咎人でもある。最も、ここに入院する直前は物も食べられず、危うく餓死しかけた体験もしているため、血糖値はこの1年間で高低差の激しいジェットコースターであったが。

 今日も食事にありつけることに感謝し、箸をつける。かつて仲間内ではフードファイターとして鳴らした食事スピードは、全く改善する様子もなく、ものの5分もしない間に平らげてしまった。毎度毎度反省はするのだが、こればかりはいつまで経っても治らなかった。

 あっという間の朝食を終え、食膳を下げ終わった後には、少しベッドで横になることにしている。5分だけであるが、しかしこの穏やかな時間は、午前の診察に向けて、自分の心を落ち着かせるための時間として必要な時間である、と、相手もいないのに弁明する、自分の内心に少しばかり苦笑した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る