帰ってきたらメイドロボ 〜修理に出したジャンク寸前ゴーレムが最新鋭メイドロボになって帰ってきた話をさせてくれ〜

清谷ペン太郎

第1話

ここは危険な魔獣の領域、通称【魔の森】……しかしその中にも、国と国とを繋ぐ道ってのはあるわけで……。

俺達【狩人】は、その道に魔獣が現れないように定期的に辺りを『掃除』して、ついでに魔獣避けの【結界石】なんてののメンテをしたりして、日銭を稼いだりもする。

「ふぅ〜、なんとか今回のチェックも終わった……」

俺は、地べたに転がる数体の魔物の死体を見つめ、ため息混じりに呟いた。

どうやら前回の担当者のチェックが甘かったらしく、近場にいた魔獣と予定外の戦闘をすることになってしまった。しかしまぁ想定内の出来事ではあったので、若干驚きつつ魔獣の全滅には成功した。

そうして俺が達成感と安堵感に浸っていると、ガシャン!!と、重量のある物体が地面に落ちる音が後ろから聞こえた。

その音に俺が振り返ると、俺の相棒である人型戦闘用魔導機兵、通称【ゴーレム】の『アイ』が、接近戦闘用追加兵装をパージし、関節部から熱を排出しているところだった。

シュゥゥゥゥ、と長めに煙を吹いた後、ガガガ、と若干ぎこちなさを感じる動きでアイは魔物の死体が散乱している方向へと向かう。

「っと……いいよ、アイ。無理しなくても。あとは俺がやっとくから先に【車】で休んでてくれ」

と、俺は言ったのだが、アイはそれを聞かず歩みを止めない。

「いいから……休んどけって!」

と、強めに言い聞かせると、渋々と言った感じでアイは車に向かって移動を始めた。

アイは狩人だった親父が、俺が15くらいの頃、親父と同じ狩人になると決めた時に、役に立つだろうからと気前よくプレゼントしてくれたゴーレムなのだが、ここ最近、大体稼働から5、6年経った頃くらいから、稀に俺の命令を聞かずに動くようになった。アイは、頭脳兼心臓部に当たる魔導核こそ親父が趣味で探検家まがいのことをしていた時にたまたま古代文明の遺跡から持ち帰ったという珍しいものだが、肉体に当たるパーツは、数年前ですら安物だったものの寄せ集めなので、最低限の機能しかなく、当然ながら言語機能なんて複雑な機能など搭載されているはずもなく、だからまぁなんで命令違反が起こるのかは本人(?)のみぞ知るってことで俺にはわからない。

だけど、命令違反と言っても俺が困るような違反ではなく、休めと言っても働くという方向性なので俺は働き者なんだなぁくらいの感想しか抱かなかった。

俺が脳天気なだけかもしれないが……。

「しかしまぁ、そろそろ限界だよなー」

物思いに耽りつつも魔物の解体をしっかりと進めていた俺は、その作業があらかた終わってアイがパージした追加兵装を拾い上げながら呟いた。

アイは俺が狩人を始めた頃からの大切な相棒で、これまで少しずつ改造と修理を繰り返しながらずっと運用してきた。今俺が手に持っている追加兵装なんかもそのなかの一つだ。

しかし、最近では明らかに基礎となる重要な部分にもガタが来ている感じがして、騙し騙しの運用ももはやここまでか、ってとこまで来ていた。

「そこそこ魔獣も片付けたし、今回の仕事でとりあえずの目標金額に届く。アイの新しい身体を作ってもらおう!」

と、決意をして、仕事の報告のために俺は街に帰った。


◇◇◇


「え、アイのボディが作れないってどういうことですか!?」

街の中心に近い位置にある大手のゴーレム工房で、俺は担当者に対して声を荒げてしまった。

「それは先ほども申しましたが、そちらのゴーレムは古代文明の遺産をコアに使ったとても珍しい機体です。そのようなゴーレムのボディ製作は前例がなく、我々としましてはできない可能性のある仕事をお受けするのは難しいと言わざるを得ません。誠に申し訳ありませんが、このご依頼をお受けすることはできません。」

「……そう、ですか」

担当者の固い口調に、俺も引き下がるを得なかった。

「それじゃあ、どこか受けてくれそうな工房の心当たりとかありませんか?」

「……それは、正直な話をしますと、信頼が命の大手の工房は、どうなるか読めない仕事などまず受けないでしょう。となるとほとんど個人単位で運営している工房となりますが、こちらは腕が悪いか工房主が気難しいことが多く……」

「けど、受けてくれそうなのは個人経営の工房ってことなんですよね?」

「まぁそうなりますね」

という担当者の言葉に俺は、

「とりあえず個人経営の工房を探してみます。今日はありがとうございました!」

そう言って俺は店を出ようとする。

「お客様、少々お待ちください」

と、引き止められた。

「? どうかしましたか?」

「……あまりこういうのはなんですが、個人経営の工房はやはり色々と問題が多いものです。お客様のゴーレムのコアはとても貴重なものだ。それを腕の怪しいものに任せるのは一人のゴーレムマイスターとして気が引けます。

……これを」

と、担当者は一枚のメモ用紙を取り出した。

「これは……住所?」

「そのメモには私の同期で稀代の天才と呼ばれたゴーレムマイスターの工房の住所が記してあります。そいつならば、お客様のゴーレムをどうにかしてくれるかもしれません。しかし、気の難しいやつなので、引き受けるかはわたしにも……それと、もし何かあっても当店でもわたし個人でも責任を負いかねますのでもしそこを頼るとしても自己責任でお願いいたします。……では」

そう言って担当者の彼とは今度こそ別れた。

店を出た俺はなんともなしにメモ用紙を空にかざしてみる。

「……まぁ、他にあてもなし、行くだけ行ってみるか!」

俺は、次の休日に、早速メモに記された住所へ向かった。


俺がそこに建っていた建物の扉を叩くと、

「こんちはー、いやー、お客さんは久々だなぁー今回はどのようなゴーレムをお求めで?」

と、ボサボサ髪でビン底みたいなメガネの怪しい男が現れた。

……怪しいが、話だけでもしてみよう。

「「お求めというか、修理というか、俺の相棒のボディを作って欲しいんです」

「ほう、相棒」

と、ビン底メガネの奥の瞳がキラリと輝いた気がした。

「はい、俺が新人の頃から長く仕事を手伝ってくれた大切なパートナーです。最近動きが悪くて……いいボディを用意してあげたいんです」

「パートナー、ですか。なるほどなるほど。いいでしょう。その子を見せていただいても?」

俺は、連れてきていたアイをよぶ。

「アイー、ちょっとこっちに来てくれ!」

というと、アイが車からこちらにやってきた。

「ほほう、なかなかいい動きをしますね。若干ぎこちないのはパーツの劣化のせいでしょうね」

一発で見抜いたこの人は信頼していいのかもしれない。

「少しよろしいですか?」

と、ビン底メガネの男はアイの手を取り、軽く持ち上げたりしながら見つめる。

そのあと全身をぐるりと見渡したあと、アイの頭部部分の、人で言う顔辺りをじっと見つめた。

「なるほどわかりました。この子のボディ作り、お受けいたしましょう」

「! いいんですか? でも、大手の工房の人が言うにはコアが特殊でできないそうですが」

「古代文明の遺産、ですね。いえ、なんの問題もありません。むしろやり甲斐がある。最高のボディを用意しましょう!」

「ありがとうございます! けど、すいません。こちらの予算に限界があるので……先に用意させてもらいました、ここまでで納めてもらえますか?」

と、俺が貨幣の入った袋を渡そうとすると、

「いえいえ、古代文明の遺産、それもここまで『育った』ゴーレムコアのボディを作るなんて願ってもないことです。私のマイスターとしての誇りにかけて、最高の仕事をさせていただきます! 予算があると言うのならば、完成したあとにこの子に使ってあげてください!」

と、受け取りを拒否されてしまった。

その後何度か渡す受け取らないの問答があったあと、折れたのは俺の方だった。

「じゃあ、アイのことお願いします」

俺は、工房の玄関前でペコリと頭をさげた。

「任されました。一ヶ月ほどで完成予定です。その頃また来てください」

そうして俺はアイのいない数年ぶりの一ヶ月を過ごすのだった。


◇◇◇


─── 一ヶ月後

俺は、件の工房を訪れていた。

コンコンッ、と工房の入り口の扉を叩く。

すると、ビン底メガネの男ではなく、メイド服を着た、美しい女性が扉を開けて現れた。

俺は、その美貌に一瞬目を奪われてしまう。

「ようこそ、こちらへどうぞ。工房主がお待ちです」

と、鈴の音のような美しい声が俺の鼓膜を震わせる。

「は、はい……」

と、俺がどもりながら返事をすると、クスクスッ、と女性はおかしそうに笑った。

そして、奥の部屋に通される。

そこには、ソファに座ったビン底メガネの男が座っていた。

「どうでした? 私の仕事は?」

と、そんな訳の分からないことをいきなり聞いてきた。

「どうって……なにが?」

俺は思わず素で聞き返してしまった。

「……えっと、なるほど。貴方の相棒はどうやら随分と悪戯好きみたいですね」

言いながら、ビン底メガネの男はチラリとメイド服の美女を見つめる。

「…………………」

それって、いや、それって、もしかして……

チラッと、俺もメイド服の美女を見る。

彼女は、ふふっと微笑んで、俺を見つめ返してきた。

「貴方、いや、お前、アイ、なのか?」

俺は一言一言絞り出すように聞いた。

「ふふふっ、できればノーヒントで気がついていただきたかったのですが、ここまで変わってしまっていては仕方がないですかね? はい、私は貴方の相棒。忠実なるパートナー、『アイ』ですよ、ご主人様♪」

その言葉に俺は───。

「え、ちょっ、ええっ!!?」

と、アイと名乗った美女と、ビン底メガネの男を交互に見る。

「あー、アイさんには自我が宿ってるって気が付いてました?」

と、俺の驚きように困ったのか、ビン底メガネが切り出した。

「それでですね、先に言語機能を取り付けてボディの希望があるか聞いたところ、貴方好みの女性型のボディがいいとおっしゃられたので、まぁ、そのように。あ、戦闘能力は以前の1.8倍くらいまで上昇してますのでその辺の問題はありません」

ビン底メガネがそう説明していると、ソファに座っていた俺にアイが腕を前にしてしなだれかかってきた。

や、柔らかい……

「あー、ボディはしなやかさを重視してまして、その辺僕の秘蔵の技術なのですが、柔らかさも人間の女性とほぼ同じくらいです」

「……た、たしかにそうみたいですね」

俺はしなだれかかるアイから伝わる柔らかさを感じてそう答えた。

「ご主人様、そろそろここを出ましょう? このボディの性能に関しては私の方がしっかりと把握しています。ドクターの時間を無駄に取らせるのも良くないでしょう」

「まぁ、そうですね。ボディの性能に関しては僕の能力の全てを込めて作ったつもりですし、自信があります。説明は彼女に任せても問題ないでしょう」

そうして、俺とアイは工房を出た。

そして、俺の車に乗った。

俺が運転する車の助手席にアイが乗り込む。

シートベルトをつけると、アイの胸部装甲が強調される。

アイはゴーレムなのだ、俺の理性は持つのだろうか?


「ご主人様、やっと伝えられます。感謝しています。道具である私を大切に相棒として扱ってくれたことを。そして───」


「───貴方を愛していることを」


そう言ってアイは俺の太ももをスッとひとなでして、びっくりした俺が車を止めたことを確認すると、

その柔らかい唇を、俺のそれに押し当ててきた。


───はたして俺の理性は本当に持つのだろうか?



◇◇◇


これは、古代から目覚め、改造を経て女性型となったゴーレムの『アイ』と、そのマスターである俺が紡いでゆく物語の始まりだ。


しかし、その話は一旦ここで区切らせてもらう。

もしまた語る機会があれば、その時にまた色々語ろうと思う。





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